宿坊に着想を得た店舗デザイン! 信州善光寺のお膝元で歴史と文化を守り、新たに紡ぐ


長野県長野市にある「スターバックス コーヒー 信州善光寺仲見世通り店」は、信州善光寺仲見世通りに甲信越初のスターバックス リージョナル ランドマーク ストアとして2020年3月にオープンしました。リージョナル ランドマーク ストアは全国に28店舗(2021年12月現在)あり、地域の歴史や伝統工芸、文化、産業のすばらしさを再発見し、それを通じて地域への絆を感じられるようデザインされています。創建以来1400年もの歴史ある信州善光寺のお膝元で、土地の歴史や文化を守り、伝える取り組みをご紹介します。

宿坊にインスピレーションを得た、地域に融合するデザイン

仁王門をくぐって仲見世通りを進むとすぐ右手、2階建ての日本家屋が信州善光寺仲見世通り店。しっくい仕上げの壁に瓦ぶきの造りが参拝客でにぎわう通りに溶け込み、長野市景観賞を受賞しています。商店が立ち並ぶこの門前町も、実は信州善光寺の境内。界隈には宿坊が39軒あり、信州善光寺を守り続けています。

同店は、元禄年間から続く物産店「つち茂」の一角に誕生。老朽化に伴う建て替えの際に出店が決まりました。しかし歴史ある街に大手コーヒーチェーンを招くことに最初はとまどいがあったと、つち茂18代目の原 美代子さんは言います。

「外資系の企業をお寺の敷地に招き入れることに迷いはありました。しかし、 “地域との融合、共生”を大切にされている企業だと分かり、こちらであれば街にさらなる賑わいをもたらしてくれるだろうと決断しました」

その理念を象徴しているのが、店の造りです。街の景観に溶け込む塗り造りの2階建て日本家屋。灯籠が置かれた入口をくぐると、扉まで少しセットバック(敷地から少し後退)されています。扉を抜ければ長野県産アカマツの風合いが美しい通路が細長く続き、その奥にコーヒーカウンターが見えます。

実はこの造り、信州善光寺にある宿坊にインスピレーションを得たもの。「門をくぐり、間口から奥へと誘引される造り。玄関間の衝立…。宿坊特有のこうした構造や、仲見世通りの賑わいと宿坊の静けさのコントラストがとても印象的でした」と、現地視察で宿坊を見て回った内装デザイン担当の岸 佑有子さん。

明治期に建てられた以前の建物の梁を再利用し、歴史の記録やストーリーも大切にしました。「梁を再度組み立て、外観も正面2階部分は当時のデザインを再現してもらいました。店先の灯籠も、うちで眠っていたものなんです。前の建物はなくなってしまいましたが、それが随所に生かされているのが嬉しいです」と原さん。

2階の小上がり席

また、地元の木材を多用しているのも長野県ならでは。エントランスには、マツクイムシの被害で廃材になることが多いと知ったアカマツを利用。コーヒーカウンターにはシデやカツラ、チャンチンなど5種類の木材を使い、色や風合いの違いがみられます。そこにコーヒーの花や実をあしらった巨大なタペストリー、エチオピアのコーヒーセレモニーの器具などを施し、地域の歴史や文化を尊重しつつコーヒーカルチャーを織り交ぜ、この店特有の空間が出来上がりました。

歴史ある街だからこその難しさと、新参者だからこそできること

進学や就職など節目に参拝したり、散歩やジョギングのコースであったり…善光寺は、多くの人に開かれた場所。店にも年配から若者まで、地元客が多く訪れています。「このお客様はこの席がお気に入りなんだなって、店の中にお客様それぞれの居場所ができていくことが喜びです」と笑顔を見せるのは、ストアマネージャー(店長)の宮田さん。「宿坊のある通りに面した1階の席が、仲見世通りとは違う静けさを感じられて個人的なお気に入りです。2階には小上がりもあり、場所によって雰囲気が異なるので、お気に入りの席を見つけてもらえたらうれしいです」

宿坊に面した1階のいちばん奥の席

しかし開店当初は歴史ある門前町だからこその難しさもありました。開店に際し、地域の宿坊や店舗など120軒余りに挨拶に回りましたが、コロナ禍でのオープンで積極的に地域と交流する機会を設けられなかったこともあり、決してウエルカムな言葉ばかりではありませんでした。また仏教行事が頻繁にあり、それに伴う決まり事や風習も未知のものばかりです。

「つち茂」の18代目・原さん(中央)と、宮田さん、ディストリクトマネージャー(地区担当マネージャー)の和久井さん

例えば、通常21時までの営業のところ、ある行事の際は夕方以降に光を漏らしてはいけなかったため、急遽夕方に閉店しました。雪の多い地域なので、参道でもある仲見世通りは朝のうちに雪かきを終えておかなければなりません。「その土地ならではの風習に寄り添っていくのは大切なこと。ひとつひとつ丁寧に対応することを心掛けています。至らない部分を原さんが教えてくださりとても感謝しています」と宮田さん。今では仲見世通りにある飲食店のフードとスターバックスのドリンクのおすすめの組み合わせを店に掲示したり、街のゴミ拾いをしたりと、少しずつ地域と交流を深めています。

近くの宿坊の30代と50代の僧侶のお二人は、店の常連のお客様。「店が出来上がったら門前町の風景に溶け込んでいて驚きました。早朝に開いているので参拝者の方がよく立ち寄られているのも見かけます」(50代)「夜、2階の窓から漏れる明かりがきれいだなぁと感じます。この辺りは夜が早いので、遅くまでやっている店は防犯という側面からもありがたいと思います」(30代)と、地域の人にも価値を見出してもらえているようです。

地域の憩いの場所としてだけでなく、発展のためにできることをこれからも模索していく。「長い長い歴史を紡ぎ、それを守り続けている善光寺。そうした文化を一緒に守ったり発信したりできるような場になりたいと思っています。その場所に新参者がいる意味はきっとあるはずですから」と、決意を新たにする宮田さん。

これからこの街で、新たな歴史を刻んでいきます。

thumbnail for コーヒーストーリーvol.20「日常と未来を彩るフェアトレードコーヒー」

コーヒーストーリーvol.20「日常と未来を彩るフェアトレードコーヒー」