「エシカル 」とは何か?生駒芳子さんが語る人と環境への優しい配慮


「エシカルソーシング(倫理的な調達)」という言葉を耳にする機会が増えてきましたが、具体的に何を指すのか、自分たちの生活とどう関連しているのか分からない方も多いのではないでしょうか。ファッションジャーナリストで日本エシカル推進協議会の副会長を務める生駒芳子さんに「エシカル」とは何か、そして私たちにできることについてお話を伺いました。

エシカルが世界に広がったきっかけ

ファッションジャーナリストや伝統工芸ブランド『HIRUME』のプロデューサーとして活躍する一方で日本エシカル推進協議会副会長を務める生駒さん。エシカルなライフスタイルについて執筆・講演・コンサルティングも行なっている、いわばエキスパートです。


『倫理的な』という意味を指す英語の形容詞である『エシカル』。これが世界的に広がるきっかけとなったのは、1997 年にイギリスのトニー・ブレア首相(当時)が行った国際外交に関するスピーチだったと生駒さんは言います。


「ブレア首相は、イギリスが植民地政策を行ってきた歴史を踏まえて、これからは国と国ではなく、人と人の関係で物事と向き合い、人権を重んじるという発表をしたことが世界を動かしたのです。同時期に『フェアトレード(公正な貿易)』も飛躍的な支持を得て、その後は『サステナビリティ(持続可能性)』や『トレーサビリティ(商品の生産から消費までの過程を追跡すること)』という言葉もよく耳にするようになりました。エシカルの場合は、もっと対象範囲が広くて、人権・動物福祉までを含んでいます」

ファッションを通じて気づいたエシカルの大切さ

生駒さんがエシカルに目を向け始めたのは、ファッションの取材でパリやミラノのコレクションに長年通っている間に、気候変動をご自身の肌で感じたことがきっかけでした。


「現地に行き始めた1980 年代末は寒かったのに、90 年代半ばになると持参した服が暑くて着ていられなくなり、これは大変なことが起きていると感じました。このような気候変動にいち早く反応し、行動を起こしたのがイギリスのファッションデザイナーであるステラ・マッカートニー。動物の革を使わない靴やバッグを作ったり、ショーの会場でオーガニックのクッキーやティーを提供したり。その頃に、フェアトレードやオーガニックコットンとも出合って、胸にグッと刺さるものがあったことをよく覚えています。20 世紀はファッションの華やかさやトレンドの格好良さを伝えることがファッションジャーナリストの使命だと思っていたので、生産の現場をはじめとするファッションの裏側まで見えておらず、途上国での様子を知ったときには大変な衝撃を受けたのです」

作る側と買う側がエシカルを意識することが大事

ご自身でブランドをプロデュースしてものづくりをしている生駒さん。日本の伝統工芸に再生ポリエステルやオーガニックコットンなどを取り入れて、エシカル度を高めようとしているそうですが、作る側の一番の悩みはコストだと言います。


「ロット(生産する製品の最小単位)を大きくしたり、環境へのダメージに目をつぶって素材を選べば、製品の価格を下げることができます。でも今の時代、目先の利益を求めるのではなく、未来を見据えたものづくりをするように、また資源循環につながるサーキュラーエコノミーを促すなど、今はこのテーマの作る側の意識を高めていく必要があるのです。買う側も同様に、エシカルな消費が求められています。見た目や安さのみを考えた消費が行われてきた結果、ワードローブは着ない服でパンパンになって大量廃棄されるようになり、悪い循環を生み出しました。オーガニック製品やフェアトレード製品は高いという意識があるかもしれませんが、今まで5 着買っていたところを気に入った1 着にして大事に長く使う。それがたとえ高価でも5 年、10 年と使えば価格以上の価値を感じられるはずです。


また、今の時代にファッションアイテムを購入することは“投票”と同じだと思っているんです。気に入ったブランドでショッピングをする度に、その企業の姿勢に一票を投じることができます。原材料や作られている場所を確認できて、納得のいくものを買う。つまり、共感してショッピング=投票することでいい企業が生き残り、エシカルでない企業は自然淘汰されるので、その点においても買う側の責任も大きいと言えますよね」

生産者の想いに触れると見方が変わる

「現代はモノよりコトの時代。想いを持って丁寧に作られていることは、ショッピングするときの評価基準になります。エシカルソーシングには素敵な物語があるものです。現在はブランディングにパーパス(存在意義)が問われる時代で、ただおいしい・楽しい・安いだけではダメですよね。スターバックスの『スターバックス® スリー リージョン ブレンド®』も同様で、ラテンアメリカ、アフリカ、アジア・太平洋地域など三大生産地からエシカルに調達したコーヒー豆をブレンドしたものだとお店で知って、味わいが変わったことをよく覚えています。
生産の現場である農場や工房を訪れると、『こんなに丁寧な仕事をされて、素晴らしい!』と感動し、ものの見方が変わるんです。現場のストーリーと接して、そこから生まれたものを手にすると、スピリット(精神)の一部をいただくような気持ちにもなり、幸福度も上がるのではないでしょうか」

エシカルをトレンドではなく常識に

生駒さんによるとファッション業界は、エシカルへの取り組みが遅かったが、今はこのテーマの最先端を走ると言われるほど、様子が一気に変わったことを実感していると言う。


「2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されたことで、ハイブランドがSDGsに関する活動を表明し、動物の革不使用の方針を打ち出すなど、エシカルがニューノーマルになりました。この意識を消費者にまで行き渡らせて、エシカルをトレンドではなく常識にしていけたら。エシカルソーシングとわざわざ言わなくても当たり前に実行されているのが理想なのです」


未来を見据えた行動として、作る側も買う側もエシカルの視点に立つことが大事、と熱を帯びた目で語ってくださった生駒さん。最後に「エシカルを一言で表すならば?」と尋ねたところ「地球・人・そして命の循環」と答えてくれました。堅苦しく考えずに、生産者の物語に触れて気に入ったものを購入して、それを生み出す人や企業に「一票を投じる」ことが大切だと、生駒さんから教わりました。

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