チョークボードアートの担い手、GAHAKUが伝えたいこと


スターバックスの新商品やお客様へのメッセージなどを伝えるため、店内のチョークボードに描かれたイラストや文字。これらは、「GAHAKU」(画伯)と呼ばれる特別なパートナー(従業員)が制作したお手本を参考に、各店舗のバリスタが描いていることをご存知でしょうか? 担当者は美術のバックグラウンドがある人ばかりではありませんが、GAHAKUという見本がいるからこそ、“チョークボードアート”を描くことができるのです。全国から選ばれし16名のGAHAKU。1年限定で活動する彼らの役割と任務にかける熱い想いに迫ります。

競争率16倍の狭き門。絵が上手いだけでは受からない

GAHAKUの制度は、パートナーの情熱や才能を発掘し、活躍できる場を提供したいという想いから2013年にスタートした日本独自の取り組みです。毎年、全国の店舗から志望者を募り、課題作品やチョークアートにかける熱意などを審査し、各エリアから1名ずつ選抜。任期は1年です。今年度は258名が応募し、それぞれのエリアを代表する16名がGAHAKUに選ばれました。


GAHAKUによるオファリングボード(商品をおすすめするチョークボード)の見本を社内で公開し、そのテクニックを共有します。彼らは、全国のパートナーをアートの側面からインスパイアする存在。ただ単に絵が上手いだけではなく、「お客様にとって分かりやすいか」「パートナーが真似しやすいか」「スターバックスブランドらしく表現できているか」などが審査のポイントになります。

離れた場所からでも伝わるシンプルな作品が理想

さいたま新都⼼ コクーンシティ コクーン2店で働く高橋さんは、昨年度のGAHAKUに選ばれたひとり。「スターバックスのあたたかみのある手描きボードが好きで、その文化継承に役立ちたかった」という彼女は、任期中、どのような活動をしていたのでしょうか。


「スターバックスでは大きなプロモーションが年に10回ほどあるのですが、その都度、見本となるボードを描くのが主な活動でした。その際に重視したのは、“シンプルかつ、短時間で描ける作品”であることです」(高橋さん)

オファリングボードは、商品名や季節感、プロモーション内容などをお客様に伝えるためのもの。


「列の後方にいるお客様にもパッと印象づけられるよう、店側が伝えたいメッセージを絞り込み、簡易な構図の中で表現することを心がけていました。また、オペレーションの合間に行うボードの制作は、時間との勝負でもあります。20分以内に完成させられるよう、あらかじめ用意しておいた型紙をなぞって商品の輪郭を描くなどの“速書きテクニック”も駆使しました」(高橋さん)

スターバックスでは、すべてのパートナーが「自分らしく輝ける居場所(Best Place to Work)」と感じられる環境づくりを推進していますが、その一環でもあるGAHAKUの制度を通じて、高橋さんは大きな充実感を得たようです。


「『ボードの作品を楽しみにしている』というお客様の声や、『描き方を真似してみた』というパートナーの方の声をもらうと、GAHAKUとしての仕事を認められた気がして、とてもやりがいを感じました。また、任期中は他のGAHAKUの仲間とオンラインで交流しましたが、皆の活動に対する熱い想いに刺激を受けると同時に、技術的にも多くのことを学ぶことができました。GAHAKUは卒業しましたが、これからも店舗でボードでの発信を続けていきたいと思います」(高橋さん)

二度目の挑戦でつかんだ、自分が最も輝ける場所

続いて登場するのは、今年度のGAHAKUに選ばれた西山さん。幼い頃から絵が好きで、大学でデザインを学ぶ彼は、店舗のボード制作を担当するだけでは飽き足らず、自分がさらに輝ける場所を求め、GAHAKUへ応募。しかし、一度目は落選に終わりました。


「今にして思えば一度目は、自意識が強すぎたのかもしれません。選ばれたGAHAKUの作品を見てみると、どれも真似しやすいものでした。対して自分の絵は、職人的な感覚で描いていたので、そもそもマインドが違うということを痛感しました」(西山さん)

反省を生かし、二度目の挑戦で合格を勝ち取った西山さん。今年の10月から活動が始まりました。


取材当日は、ホリデーシーズンのランチを提案するオファリングボードの制作日。描く商品については指定があるものの、“どの商品を組み合わせるか”“どういったシーンでお客様に楽しんでいただきたいか”の表現は、GAHAKUに委ねられています。


「当店は海が近く、外に出れば景色もいいので、フラペチーノとフィローネを一緒に買ってテイクアウトする『Holiday ToGo Style』を、ボードを通じてお客様に提案したいと思います」
(西山さん)

「だからGAHAKUなんだな」と思われるために

事前に頭の中で構図を固めておき、制作開始。


「ホリデーやTOGO(持ち帰り)のワクワク感を、袋から商品が飛び出す放射状の線で表現しました。きれいな直線で描いてしまうとパキパキしすぎてホリデーの優しさが出ず、スターバックスらしいあたたかみも出ない。なので、あえて直線にせず、柔らかい線を入れています」(西山さん)

完成したボードを見て西山さんは、「まだまだ成長の余地があると思うので、75点です」と言って照れ笑い。しかし、今後の抱負を聞くと、表情を引き締めてこう語りました。


「お客様がボードの写真を撮ってくれたり、ボードを指さして『これください』と言ってくれるのがすごく嬉しくて。そういうつながりの瞬間を、ボードを通じてどんどん引き起こしていきたいですね。そのためには、ただの上手い絵ではダメで、『お客様とのつながりを考えた上での構図』を作ることが大事。『そこまで熱意を持って考えているんだな』『だからGAHAKUなんだな』と思われるよう、任期の間に、構図作りをとことん探究したいと思います!」(西山さん)

オファリングボードから生まれるスターバックス体験

スターバックスがお客様を対象に行った調査によると、「入店した際に真っ先に目が行く場所は?」という問いに対し、最も多かった回答は「オファリングボード」でした。手描きの絵や文字にどのようなメッセージを盛り込むかをめぐって、GAHAKUやパートナーたちは日々、創意工夫を続けています。チョークボードを舞台にいきいきと自分らしく輝く彼らの想いを、お近くのお店のボードから感じてもらえたら幸いです。

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「借りるカップ」どう広げる?店長が考えるリユースの未来