ORIGIN Series  Sumatra編


皆さんこんにちは。コーヒースペシャリストの渡邊 績です。普段はスターバックスのカルチャーを伝えていくため、社内の教育プログラムを開発したり、アジア地域のグローバルコーヒーアンバサダーとして活動していて、社外のバリスタ競技会の審査員なども務めています。このOrigin Storiesシリーズは、コーヒースペシャリストから、ちょっと深い生産地のエシカルなストーリーをお届けします。コーヒーを届けてくれる生産地の人々のストーリーに少し想いをはせていただけたら嬉しいです。

日本から約10時間。飛行機から降り立つと、東南アジア独特の湿度の高さが身体を包みます。バスに揺られ、目に映る景色は、都市部の喧騒から少しずつ、どこか懐かしさも感じられる里山の風景に。

約2時間後、腕時計で確認していた標高が1,000mを超えると、湿度はありながらもさわやかな気候で、鮮やかな高山植物の農園も見えてきました。

ようやく到着したのは薄い霧と深い緑に囲まれた山岳地帯。インドネシア・スマトラ島。それは私が初めてスターバックスのルーツに触れたコーヒー豆の生産地です。1971年のスターバックスの創業当初から、多くのお客様に愛されるシングルオリジンコーヒーを届け続けているこの生産地では、コーヒーを深く愛する人たちのストーリーが今も紡がれています。

「大地のような力強い風味」をつくりだすもの

スマトラ島に住む人々にとって何よりも大切なもの、それは「代々受け継がれてきた土地」。思い入れのある土地に生涯定住する方が多く、その大切な土地で農業を行うのはごく自然なことです。そうした背景から、スマトラ島でのコーヒー栽培のほとんどは、小規模な農園で行われます。

そこで収穫されたコーヒーチェリーは、手回し式の果肉除去機で一回目の処理がなされ、仲買人を通して、地域ごとの大きな加工施設へと売り渡されます。もちろん、これら全てのやりとりに明確な証跡が残されていることも、この目で確認することができました。

そして、コーヒーの精製工程では、コーヒーチェリーから種子であるコーヒー豆を取り出したのち、それをしっかり乾燥させていくプロセスがありますが、この島では、コーヒーの収穫期においても、1日に数回、スコールのような雨が降ります。中米など他の生産地であれば、まとめて広大なパティオ等で乾燥させていく光景が見られますが、ここでは、晴れ間を見つけて段階的に、そして早いタイミングでコーヒー豆を覆う殻の層(パーチメント)をむいてしまって、手早く乾燥を進める必要があります。

「スマトラ式」とも呼ばれるこの方法は、その独特な力強い味わいを生むためにそうしているわけではなく、この島で暮らす人々の文化的背景や、逆らうことのできない自然・気候への対応から、自然と辿り着いた方法でした。

このように多くの工程のコーヒー生産は、より多くの人の手を介することを意味します。

種を植え、育てる人。
熟したチェリーだけを丁寧に手で収穫する人。
手回し式の機械で果肉を除去し、水洗いする人。
そのコーヒー豆を加工場に運ぶ人。
数千という農園から集まったコーヒー豆を加工場で受け取り、
乾燥作業を進める人。
そして、高品質なコーヒーだけを届けるため、度重なる選別工程の最後に、目視と手作業で、すべてのコーヒー豆がベストなものかを確認する人。
…挙げるときりがありません。

私が加工場を後にする時、出荷直前のコーヒー豆のそばに立つ男性が、こちらに声をかけ、親指を立て、笑顔を送ってくれました。

その表情は自身に溢れていて、「ここまでこのコーヒーに関わったすべての人の仕事は完璧だったよ!」と言っているようで、彼らのコーヒーを届ける私たちの仕事にそのバトンが引き継がれていくことへの責任から鳥肌が立ったことを、今でもはっきりと覚えています。

そして、この旅では、もう一つの、未来を感じさせる出会いがありました。

子どもたちの目に映るコーヒーの未来

スターバックスのコーヒーを生産するコミュニティを訪れる機会がありました。過去に生活インフラが十分でなかったこのコミュニティに対し、スターバックスが地域に貢献するため、ヘルスクリニックや生活用水を確保するための設備の設立をサポートしたという経緯から、歓迎のセレモニーを開いてくださいました。

その式典の途中で、数名の小学生くらいの子どもたちが私の近くにやってきました。こっそり肩をたたいたり、メモをのぞき込んだり、いたずらを仕掛けてくる彼らに、簡単な英語で「将来の夢は何?」と、軽い気持ちで聞いてみました。

みな口をそろえて、元気に「サッカー選手!」と答える中で、控えめな印象の子が、こう答えたのです。

「Coffee Farmer」

誘導したわけでも、何か「空気を読んだ」感じでもなく、まっすぐな瞳で彼が発したその言葉に、私は力強さを感じるとともに驚きを隠せませんでした。多くのコーヒー生産地では、若者が都市部に後継者不足が問題となっている事実を認識していたからです。

お互いの言葉の限界もあり、そう答えた理由までは知ることはできませんでしたが、もしかすると、彼は幼いながらに、コーヒー生産を通して生まれるコミュニティの変化を感じ取り、その仕事に可能性を感じたのかもしれません。

もしそうだとしたら、彼らのコーヒーを届け続けてきたことがそこに少しでもつながっているとしたら、こんなに誇らしいことはありません。

この旅以降、スマトラは、私にとって特別なコーヒーとなりました。
袋を開けて、その香りを吸い込むだけで、こうした記憶が鮮明に甦ります。

皆さんには、「おいしい」と思えるコーヒーはありますか。
加速度的に技術化が進む世の中ではありますが、コーヒー生産は工業ではなく農業です。おいしさの裏側には、必ず、誰かの仕事があります。
そして、そのコーヒーを選び、楽しみ続けることが、その誰かにつながります。

「もう少し、自分のお気に入りのコーヒーについて知りたいな」。
そう思ったときは、いつでも、スターバックスのお店でパートナー(従業員)にお声掛けください。

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春の訪れを告げるSAKURAシリーズに込めたストーリー