義足のパートナー(従業員)がもたらすポジティブの循環


スターバックスでは、多くの障がいのあるパートナー(従業員)が、それぞれの個性に合わせた特性を最大限に活かして働いています。彼らが前向きに働く姿は、ほかのパートナーにも良い刺激となり、店舗のチームワークやサービスの向上にもつながっています。

秋田県内の店舗に勤務する戸田さんも、持ち前の明るさで活気ある店舗の雰囲気づくりに一役買っているひとりです。一緒に働くパートナーたちは口をそろえて「戸田さんの笑顔やポジティブさに助けられている」と語ります。そんな戸田さんは、日々どんな想いで店舗に立っているのでしょうか。

スターバックスなら、義足は私の“アピールポイント”になる

スターバックスに応募したのは、長男が高校受験のために頑張っている姿を見て、「私も何か挑戦してみよう」と思ったことがきっかけでした。結婚後、3児の母として15年ほど育児に専念していた戸田さんにとって、久しぶりの社会復帰。その場所として、スターバックスを選んだのには特別な想いがありました。

「実は、スターバックスが秋田に初進出した20年前から“スターバックスで働いてみたい”という夢がありました。当時から“時代のパイオニア”という印象で、多様性を大切にしていて、体が不自由かどうかも関係なく、お互いに認め合って仕事ができる会社だとずっと思っていたんです。だから、足が悪くてもまったく躊躇なくエントリーできました」

同店でパートナーのシフトを管理し店舗運営マネジメントに携わるシフトスーパーバイザー(時間帯責任者)を務める佐々木さんは、初めて会ったときのことを振り返り「戸田さんはすごく明るくて、やる気に満ちていました。義足のことは気になりましたが、頑張れるなら是非一緒に働きたいと思いました。実際に一緒に働いてみても、とにかく意欲的に何でも挑戦してくれます」と言います。

シフトスーパーバイザーの佐々木さん

長年の夢が叶い、スターバックスで働き始めて3年目を迎えました。今では店舗になくてはならないムードメーカーとなり、いきいきと働く戸田さんの姿があります。

「新しいチャレンジで最初はすごく不安も大きかったけれど、まずは佐々木さんの笑顔に救われ、みなさんが迎え入れてくれた事に本当に感謝しています。“私もこの仲間たちと一緒に働いていきたい”という想いで、まずは3ヶ月、1年、そして2年と、ここまで頑張ってきました。本当に仲間たちに恵まれて感謝です」

周りに助けられながらの挑戦と、お客様もパートナーも笑顔にする心遣い

今ではすべての業務をこなせる戸田さんですが、当初は細やかな動きが必要となるドリンクバーはチャレンジの場でした。佐々木さんはシフトを決める際、「戸田さんは足が悪いからドリンクを作るポジションに入れないという体制には絶対にしたくなかった」と言います。最初は1日30分から、ほかのパートナーがサポートにつき、戸田さんはドリンクバーに立ちました。

「佐々木さんは忙しい中でも、私がチャレンジする機会を与えてくれました。ドリンク作成はしゃがんだり、立ったり、物を取ったりといった細やかな動きが大変でしたが、一緒に働くパートナーのみんなが“この動きは戸田さんには大変なんだな”と段々とわかってくれて、ミルクを取ってくれたり、私がお願いしなくてもちょっとした気遣いをスムーズにやってくれるので、すごく有り難いです」

今ではバーに立つ時間も増え、パートナーたちと“あうんの呼吸”で仕事ができるようになりました。そんな戸田さんが、お客様とのほんのひと時を特別な瞬間にしたいという想いから、レジでの接客時に常にこだわり続けてきたことがあります。

「レジは一瞬ですけども、お客様と喜びを共有する時間。その“一瞬の一言”に重みがあると思っています。“寒くなってきましたね”とか“その羽織もの素敵ですね”とか、常連の方には“髪切られたんですね”などとお伝えして、ちょっとしたことでも私なりの気づきを大事にしながらお声がけをしています。会話の中でお客様の笑顔を見ることができたり、“ありがとう”という言葉をいただいたりすると、すごくやりがいを感じます」

「戸田さんは、レジに入るとお客様に“お楽しみください”、“今日1日楽しく過ごしてください”などと必ず伝える。それに対してお客様も、一瞬ホッとして“ありがとう”と。いつもお客様にニコニコしてくださって、これは戸田さんにしかできないことだと思っています」(佐々木さん)

レジでのやり取りの最後には必ず、「良い1日を!」と笑顔でお客様に声をかけるという戸田さん。その明るい声が店内に響き、お客様だけでなく、一緒に働くパートナーたちも笑顔になっているようです。

同店ストアマネージャー(店長)の工藤さんは、「戸田さんの“良い1日を!”という言葉を聞くのが私の楽しみ」と言います。「私にはない表現力でお客様を笑顔にしてくださいます。その一言を私が言っても何か違う、やっぱり戸田さんから出る“良い1日を!”が最高だなと思います」

戸田さんを囲んで会話をする佐々木さんとストアマネージャーの工藤さん(右)
ここは私のサードプレイス。大切な仲間がいる場所で働く喜び

いつもひたむきに努力しながら笑顔を絶やさない戸田さん、そんな戸田さんの可能性や個性を認め、チャレンジできるようにサポートするほかのパートナーたち。お互いが刺激し合って、とても良い循環で店舗の運営が回っているのがわかります。

「お客様に最高のサービスを提供するためには、やはり私たち仲間の雰囲気が良くないといけないと思っているので、パートナーとの関係はすごく大事にしています」

戸田さんは、お客様に対してだけでなく、パートナーに対してもいつも“言葉で伝える”ことを心がけていると言います。特に“ありがとう”という言葉は絶対に伝えたいという強い気持ちがあります。

「足を怪我したばかりの頃は、誰かに助けてもらうことに対して“ごめんなさい”と謝ってばかりいたんです。でも、親友に“ごめんね”じゃなくて“ありがとう”という言葉にした方がいいよと言ってもらって、今は“ありがとう”となるべく言葉で伝えるようにしています」

インタビュー中も、一緒に働くパートナーへの感謝の気持ちを度々伝えていた戸田さん。しかし、彼女は周りに助けられてばかりではありません。お客様との対話と同じように、パートナーたちの様子もよく見ている戸田さんは、彼らを気遣い、時にはプライベートの相談にも乗ります。

「自分がハッピーじゃないとお客様にハッピーを届けられない。ハッピーに働くためには、家族との関係やプライベートも大切です。ほかのパートナーの元気がなかったり、何か悩みがありそうな様子だったりした時は、プライベートの話も聞いてコミュニケーションを取ります。そうやって一人ひとりへの理解を深めながら仕事しています」

お互いに助け合い、信頼できる仲間がいるこの場所は、いつしか戸田さんにとってかけがえのない居場所となりました。佐々木さんからも「まるで母親のように声をかけてくれます(笑)」と言われるほど、パートナーが元気ない時「今日どうした?ちゃんとご飯食べた?」などと声をかけてしまうそうです。

「ここは私のサードプレイス、社会とつながる場所。家庭でもなく、友人関係でもなく、仲間がいる大切な場所。私の新たな居場所がもう1つできたという想いでいます。障がいを持っているからといって家にこもっているのではなく、私が元気に働く姿を見せることでみなさんに元気や勇気を与えたいと思っています」

最後に「人一倍元気に明るく過ごす事が私の使命です」と言って、戸田さんは笑顔を見せました。

戸田さんも登場する動画「NO FILTER ―あなたがいる。もっと笑顔になれる。―」はこちら