現場の声から生まれたフードロス削減プログラム


スターバックスでは食品廃棄を減らすために、様々な取り組みを行っています。そのひとつである『フードロス削減プログラム』では、店舗ごとの当日の在庫状況に応じて閉店前にフード商品を20%OFFで販売し、その売上の一部を認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)に寄付しています。

今、日本でも大きな課題となっている食品廃棄の問題に対し、「スターバックスならどう取り組むべきなのか、とじっくり議論した」と語るのは、商品本部フード部部長の森田一毅さん。実施まで2年の歳月をかけ、“スターバックスらしさ”と“現場の声”を考慮しながら生み出されたこのプログラム。そこに込められた想いや取り組みを紹介します。

スターバックスらしいアクションを目指して

地球から得る量よりも還元する量を増やすことを実現するリソースポジティブカンパニーを掲げるスターバックス。そのひとつとして、「2030年までに廃棄物量50%削減」を目指しています。

目標実現に向け、廃棄物の15%を占めるフード商品の廃棄量を減らすために『フードロス削減プログラム』が本格始動したのは、2021年8月。実は開始の大きな原動力になったのは、店舗に立つ多くのパートナー(従業員)たちの苦悩の声でした。

「多くのパートナーたちから『自信を持ってお届けしている商品を廃棄しなくてはならないなんて』などと、廃棄作業のたびに辛い想いをしているという声が上がっていました。もちろん、会社としてもフードロス問題改善への意識は高く、これまでも常にどうすべきかを考えながら、この問題に取り組んできました。私たちが取り扱う商品の多くは賞味期限が短いものです。例えば、その食材を飼料用などに再加工するには様々なコストがかかります。コストが利益を圧縮すれば、本業であるサービスをお客様に適切にお届けできなくなる可能性があります。部署を横断した様々な議論の末、新たな取り組みとして『20% OFF』を取り入れることになりました。

一方で、今までやってこなかったいわゆるディスカウントをやることはスターバックスというブランドへの信頼が損なわれるのではないか、昼間の買い控えが起きるのではないか、などと心配する声も上がりました」

様々な不安の中、森田さんたちは常に原点に立ち返りました。目的は全店のフードロスを減らすこと。そして、この想いをお客様に届けることです。フードロス削減の課題を徹底的に話し合い、実際にプログラムがスタートするまでには2年の月日を要しました。

「ブランドの根幹に関わることなので、丁寧に準備をする必要がありました。正しいことをしても、フードロスを減らす取り組み自体がサステナブルでなければ続けることができませんから」

商品本部フード部部長の森田一毅さん

そのような熟慮を重ねた結果、このプログラムの売上の一部は、全国のこども食堂を支援するむすびえに寄付する仕組みもつくりました。こども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂で、子どもたちが安心して食事ができ、地域の人たちとも関われる居場所をつくる活動。販売促進をしてフードロスを減らすだけでなく、食を通じた未来づくりへめぐっていくという新たな循環を思い描きました。


「お客様にも参加してもらって、一緒にフードロスを減らしましょうというアクションは、私たちにとっては良いサイクル。しかし、ただ自社だけで完結するコミュニティのサイクルではなく、さらにより良いコミュニティの循環を波及できないかと考えたんです」

「こども食堂の支援を通じて、誰もとりこぼさない社会をつくる」との想いから設立されたむすびえは、地域とのつながりを大切にしているスターバックスにとって、同じ想いを共有し合える仲間のような存在でした。

そのようなむすびえとの関係によって、よりスターバックスらしくポジティブなサイクルを生み出すプログラムとなり、パートナーやお客様から多くの共感が得られています。

パートナーが目的を見失わず判断できることが大切

森田さんたちは、現場で働くパートナーのことを常に考えてプログラムの内容を考えたと言います。パートナーたちは、日々の業務の中、新しく覚えることもたくさんあります。その環境の中で、現場が無理なく続けられるように設計し、パートナーに寄り添った仕組み作りを大切にしました。

「取り組みにルールを決め、“これが正解、これは間違い”のような表現にすると、イレギュラーなことが起きた場合に『できない』という判断になることもあるでしょう。ですので、このプログラム自体、パートナーの皆さんと一緒に育てていきたいと思いました。 パートナー、経営層、関係部署のどこかに負担や我慢が必要なプログラムではいけないと思ったんです」

例えば、このプログラムは全店舗一律ではなく、最終的に実施の有無を、その日ごとに各店舗で判断することになりました。

「プログラム実施前のテスト導入時には、パートナーから『プログラムを開始する勇気が出ずに今日はできませんでした』という連絡がきたこともありました。その際には、肩の力を抜いて長い目でやっていこう、と声をかけたんです。目的は食品廃棄を減らすことであって、20%OFFを実施することではありません。店舗の状況に合わせて、それぞれが目的を見失わずに判断できることを目指しています」

その結果、大きなトラブルもなく2年間運用してきて、期待していた結果以上の成果が出たことで、パートナーたちの意識も変わってきています。

特にフードロス削減プログラムに力をいれている東京・立川にある店舗のパートナーは、日々意識していることをこのように語ります。

「20%OFFを先に言うのではなく、最初になぜこの取り組みをやっているのかを伝えて、お客様に世界で起きているフードロスの課題を知ってもらうことを目指しています」(原さん)

「フードに興味を持った方にお声かけをしたり、コーヒーに合うペアリングとしておすすめするなど、お客様の様子に合わせたお声かけを心がけています」(吉崎さん) 

お客様に向き合い続ける現場の自主性に委ねたからこそ、パートナーたちが自発的に考え、工夫して取り組んでいる姿があります。

今はベストだけど、完璧ではない

このプログラムによって店舗やお客様に浸透してきたフードロス削減への想い。そして他にも様々な角度から取り組んでいるからこそ、目標達成も実現できるものだと森田さんは言います。

「私たちは発注システムを構築し、店舗に予測数量を届けています。しかし、いくら精度を高く設定しても、予測と合わないことが起こることがあります。そこで、予測数とお客様のニーズが合わないための廃棄が起こらないように、各店舗への配荷のロジック自体を見直しました。これだけでも相当な廃棄削減になりました。

極端な話をすると、フードを売らなければロスは出ません。しかし、私たちが日々提供しているフード自体も立派な社会貢献であり、誇りを持ってお客様にひとときを提供していると考えています。これからもお客様に責任を持ってサービスを提供していくためには、フードロスを減らすための努力を続ける必要があると考えています」

店舗のディスプレイにおいては、分かりやすい商品名や読みやすいフォントを使用するなどの試行錯誤もしてきました。レジに並ぶ数秒の間でもお客様がフードに注目してもらえるように、パートナーたちと一緒に魅力的な商品の並べ方を考えながら販売促進をしています。

そして、森田さんは、今後このプログラム自体がもっとより良く変化し、店舗とともに育っていくと考えています。

「いつか環境が変わった時にもすぐ対応できるように、柔軟性は必要だと思っています。ですから、パートナーの皆さんには『プログラムは完璧じゃないので、一緒に作っていきましょう』とお伝えしています。

私たちが大事にしたいのは、今後もしっかりと廃棄を減らすこと。ビジネスが成り立った上でこのプログラムが持続できるような余力を持つこと。そして、それをほかのコミュニティにも広げていくことです」

プログラムを実施していることを知った小学4年生のお客様から「どうしてフードロス削減の取り組みをしているのか知りたい」という手紙が届き、店舗のパートナーと森田さんで小学校へ講演に行く機会もありました。「日々の活動の中で、フードロス削減の取り組みがしっかりお客様に伝わったことを感じた」と語る森田さん。今日も全国1800店舗で、フードロス削減プログラムの活動は続いています。

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