未来に想いを込めて、豆かすと木材チップのたい肥で育てた苗を植林へ


23年3月上旬、キラキラと輝く木漏れ日の中、河内長野高向店のパートナー(従業員)が大阪府森林組合南河内支店(以下、森林組合)の職員の方々とともに、河内長野市内の森林でスギやヒノキの植林を行いました。苗木は、「森林循環の一助に」という想いを胸に森林組合と協働し、たい肥作りから手掛け育てたものです。参加したパートナーたちが見せる充実した笑顔のワケをご紹介します。

たい肥作りから始まった、森との共生を目指すプロジェクト

大阪府南東部にある河内長野市は、70%を森林が占める自然豊かな場所。この街に河内長野高向店がオープンしたのは21年9月のことです。しかし、スターバックスと森林組合との出合いは、19年11月に大阪・梅田に誕生したスターバックス コーヒー LINKS UMEDA 2階店の出店時にさかのぼります。内装に地元の木材を使用することから関わりが生まれ、河内長野高向店の出店へとつながりました。同店では地元のブランド材「おおさか河内材」をふんだんに使用しています。

以来、「地域のつながりのきっかけとなる場所であるためにできることを」と森林組合と協働で始めたのが、河内長野高向店で出るコーヒー豆かすと森林組合で出る木材チップを材料にした、たい肥作りです。

完成したたい肥を地域の中で活用し、河内長野に貢献していきたいという想いから、「コーヒー豆かすと木材チップのたい肥で苗木を育て、市内の森に植林をしよう」と、さらにプロジェクトは動き出しました。

21年6月、店の敷地内にたい肥を作る木製コンポストを設置し、毎月1回、森林組合の職員の方々からレクチャーを受け、一緒にたい肥作りを実施。配合を変えながら実験して最適なレシピを見つけ出し、22年4月にたい肥の成分検査をクリアしました。そのたい肥を使ってまずはどんぐりを育てて生育障害がないかを確認し、同年10月からスギとヒノキの苗木を育て始め、今年3月の植林へとつながりました。

「たい肥の成分検査がクリアした時はとても達成感があり、パートナーと喜びを分かち合いました」と、同店ストアマネージャー(店長)の趙さん。

「どんぐりは小さいながらも秋には紅葉して落葉もして、成長がうれしかったです。現在は30㎝弱まで育ってプランターから店の苗床に植え替えたのですが、根がしっかり張っていて、たい肥で元気に育っていることを実感しました」

苦労したことは?という問いには笑顔で「思い返しても思いつかない。毎月楽しくやっていることが未来につながりました」と、活動は充実しているようです。

森を大切にすることは、まず知ることから

植林には河内長野高向店のパートナーのほかに、森林組合の職員の方々など20人以上に参加いただき、店舗で育てたスギとヒノキの苗木10本に加え、山主の方がご用意された苗木100本を植えました。山の空気を吸い、鍬を使って土を掘って植え、香りや感触を体感。山主や森林組合の方々から森に関する様々な話も吸収しました。趙さんは、「これまで教えていただいた森林循環の話への理解が深まったと感じました」と言います。

森林循環とは、木材を切り出して使うだけでなく、植林して若い木々を育て、世代交代させながら自然環境を維持保全するという考え方のこと。森林が健全に保たれているからこそ、おいしい水が飲め、空気が浄化され、立派な木材も入手できます。森は私たちの生活に関わる多くの資源をはぐくんでいるのです。

しかし「蛇口をひねれば水が出るこの環境が当たり前すぎて、その恩恵に気づかないでいる。気づかない、知らないということは、必要なものだと思われていない可能性がある」と、危機感を語るのは、活動を共にする森林組合の倉橋陽子さんです。

地域で植林が進まない現状についても、「森林循環には植林とても大切ですが、この地域では大規模な植林は20年ほど行われていませんでした。今回は間伐でできた空間に植林をすることができましたが、ほかの森林でもできるようつなげていくことが森林組合の課題かなと思います」と語りました。

そうした想いは、河内長野高向店のパートナーたちもしっかりと受け取っています。

趙さんは「河内長野市の水源は山の水ですが、木の根が浅いと水が保てないそうです。生活の中で受けている恩恵を、いかに意識せずに暮らしてきたのかということに驚きました。子育て世代のパートナーは自分の子世代に想いをはせるなど、自分事としてとてもリアルに考えられる時間になりました」と振り返りました。

“たい肥ケーション”で培ってきたつながりはこの先の未来へ

スターバックスと森林組合という異業種の協働は、たい肥作りから始まって約1年半。毎月顔を合わせ、たい肥を混ぜるなど共同作業をしたことが、わたしたちのつながりを深めました。たい肥作りの疑問点からプロジェクトの方向性、森林が抱える課題まで、多くの事を話し合ってきました。

「たい肥の土を混ぜながら、雑談しながら…というのが良かったんだと思います。“たい肥ケーション”です(笑)」と倉橋さんが言うと、趙さんも「土を触っていると、心の壁がとっばらわれるような不思議なパワーを感じるんです。カジュアルにいろいろなことを質問できる関係性ができました」と同意します。

そして今回の植林はゴールではなく、これから先の未来に向け共に活動を続けます。目標は、コーヒー豆かすと木材チップのたい肥を、地域に循環させること。例えば地域の農家の畑で使ってもらうなど、地域での循環といった未来図を描いています。

「1回のたい肥作りに、店舗で出るコーヒー2.5日分の豆かすを利用しています。いろいろなところで使っていただけるような出口を作っていきたいですし、ほかの店舗にも広げていきたい」(趙さん)

しかしハードルもあります。コーヒー豆かすは廃棄物であるため、無断でたい肥を店舗外に持ち出すことはできません。現在はたい肥を継続して作りながら、そうしたハードルを乗り越えるための準備中です。20年後、30年後、そしてもっと先の未来を守るため、活動は地域に大きく根を広げて成長を続けようとしています。

もうすぐ5月4日(木・祝)「みどりの日」。みどりの日は、自然に親しむことや感謝することが目的で、豊かな心をはぐくむという意味合いもある祝日です。まずは私たちの身近にある自然に目を向けてみませんか。

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ママ・パパがほっと一息つける地域の居場所を作りたい(神奈川県・綱島)