[what is…?] C.A.F.E プラクティス:地球にも人にも優しいコーヒーづくりを実現
スターバックスが展開する独自の認証プログラム「C.A.F.E. プラクティス」をご存知ですか?100%のエシカル調達を目指し、生産地の環境や経済面をはじめコーヒーの栽培から加工の過程において責任を持つために、スターバックスが20年前から行ってきたプログラムです。
2023年6月からは、常時販売コーヒー豆の新パッケージに、この認証を示す「エシカルソーシングスタンプ」も加わりました。
スターバックスとともに、「C.A.F.E. プラクティス」の200以上にも及ぶ指標の設定や生産者のサポートなどに取り組んできた環境NGOのコンサベーション・インターナショナル・ジャパン(以下、CIジャパン)のアメリア・ジュールさんに、プログラムの仕組みについてお話を伺いました。
-スターバックスで取り扱うコーヒーは98%以上「C.A.F.E. プラクティス」の基準を満たしたものです。どのような制度なのでしょうか?
この制度はスターバックスがCIと開発した独自の認証で、「品質基準」と「経済的な透明性」を必須条件としながら、さらに「社会的責任」と「環境面でのリーダーシップ」に関して第三者機関による評価指標を設けたものになります。これらの基準をすべてクリアした生産者、加工場、輸出業者などとスターバックスが手を取り合うことで、高品質なコーヒーをお客様にお届けすると同時に、経済的にも、環境的にも社会を良くする取り組みです。
はじまりは、1998年にメキシコのチアパス州にある一ヶ所の農家と共に、環境に良いコーヒーの育て方を一緒に作っていこうと開始したプロジェクトでした。その手法が確立された段階で、パナマやコスタリカ、コロンビア、ペルー、インドネシアなどに広げていったのが前身となる『コンサベーション・コーヒー』という取り組みです。
当初は地球環境の保全の意味合いが強かったものの、進めていく中で農家の働く環境自体をより良くしていくことや、経済的な透明性も必要ではないかとの発想に至り、2004年からはより包括的に進めるべく『C.A.F.E. プラクティス』という形で展開することになりました。
-C.A.F.E. プラクティスは、実際にどういう流れで現場に導入されているのでしょうか?
スターバックスと調達のパートナーシップを結ぶ前に、定めた基準に準拠できるか確認をし、基準を満たしていれば一緒に進めていく、という流れになります。C.A.F.E. プラクティスは約200ほどの指標があるものなので、第三者機関を通して時間をかけて監査をし、スコアカードをつけていくものです。指標の具体例としては、「法律で決まっている最低賃金が守られているか」「禁止されている農薬を使用していないか」「2004年以降、自然林の農業生産地への転換はないか」などが挙げられます。
現在では46万4728人の農家さんがC.A.F.E. プラクティスに参加しています(2021年)。これだけ多くの農家さんが参加しているのは、品質の良いコーヒーづくりができることで収穫量も増え、実際に収入増につながるという実績があるためです。収穫が安定することにより、森林を伐採してまでコーヒー生産地を広げる必要もなくなるため、結果的に環境保全にもつながっているのです。
-世界中には、こうしたエシカルな観点で取り組む認証制度がたくさんありますが、その中でもC.A.F.E. プラクティスの特徴はどこでしょうか?
主には「オープンである点」と、「指標が進化し続けているという点」が挙げられます。
まず、指標やスコアカードをオープンにし、数年ごとに行うレポートも全て公開しているので、新規でパートナーシップを組む方々にも事前にどんな制約があるのかをご覧いただくことが可能です。
また、スターバックスが環境NGOと開発した認証制度だからこそ全てのデータを見ながら、生産者と、サプライチェーン全体が同じ方向を向いて取り組んでいくことができます。生産者自身が健康で、農地も健康に育っていかなければ、スターバックスのビジネス自体も成長していけないので、直接的に関わっていけることがとても重要なんです。
2点目の指標の進化については、ステークホルダーが多岐にわたるからこそ、指標も柔軟に進化し続けているということです。たとえば、国が違えば最低賃金の考え方は異なります。場合によっては、お金で払われるだけでなく、物資支給で支払われることがルールとして認められている国もあります。C.A.F.E. プラクティスというたった一つの指標を押し付けるのではなく、それぞれの国やそれぞれの業態に合わせて、どんな指標の設定が最適なのかを定めていくのです。 C.A.F.E. プラクティスという制度名が、「査定」や「評価」ではなく「プラクティス」という名前がついているのも、特徴の一つ。毎年、社会面・経済面・環境面での健康チェックを行うことで、さらに健全な状態に改善するためにどのようなサポートが必要なのかが見えてきます。あくまでも実践し、改善していくというのが独自の位置付けでもあると言えます。
-具体的に、C.A.F.E. プラクティスによってどのような変化が生まれていますか?
C.A.F.E. プラクティスによって生まれた変化の事例として特徴的なのが、ルワンダのコーヒー農園です。
ルワンダは、94年に起きた内戦で起きた虐殺により、多くの男性が亡くなった地域がありました。彼らの多くはコーヒー農家で、元々コーヒー生産は男性の仕事でしたが、残された女性たちが生きていくために生産を再開しました。
初めは対立していた異なる民族の女性たちでしたが、何度も話し合いの場を持ち、手探りで始めたコーヒー栽培を協力して進めるうちに、お互いを受け入れていきました。そして、女性主導で独自の協同組合を結成します。スターバックスはそんな女性たちに資金のサポートを行ったり、生産の手助けをしたりする中で、C.A.F.Eプラクティスの導入も実現しました。
女性も働きやすい環境を整えることで、さらにクオリティの高いコーヒーの生産が可能になり、経済的にも向上していくことができたそうです。2009年にスターバックスが開設したルワンダのファーマーサポートセンターでは、女性支援プログラムをリードするマネージャーを置き、コーヒー栽培だけでなく、生活面をサポートすることも行っています。
-スコアをつけるだけでなく、改善すべき点をフィードバックすることで一緒に未来に向けて進んでいくんですね。
たとえば、C.A.F.E. プラクティスに参加している農家は12ヘクタール以下の小規模生産者と呼ばれる方々がほとんどです。スターバックスとパートナーシップを結ぶ上で必要となる、新しい農法に適した道具を揃える少額融資などをCIが行ったりもしています。
その他にも、関わる農家や加工工場などで働く人々の子どもたちが教育を受けられている率が99.7%。児童労働がないと確認できているのが99.8%という結果が出ています。少しでも健全なサプライチェーンを実現するための指標を掲げることで、サポートを実現しているのです。
-最後に、私たちが個人としてできることは何でしょうか?
もちろん、C.A.F.E. プラクティスの認証マークは、スターバックスのコーヒー豆のプロダクトにも表示されているので、そうした商品を選ぶことでエシカル調達に消費者として関わることもできます。
ですが、まずは「知る」ということ。それが最も大切だと思います。買っているものがどこから、どういったプロセスを経て手元に届いているのか、今の効率的で便利な生活ではなかなか見えません。どんな農家さんから、どのような加工や移動があって、そこにはどれほどのエネルギーや水の消費があって、最終的にどうやって店頭に並んでいるのか。興味を持ってみる、というだけでも大切な一歩だと思います。
あとは、身近な農家さんや工場を見学してみるのもいいですね。どんな場所でも、足を運んでみるとフードシステムにまつわる課題が見えてくるはず。自分の口に入る食べものに関わる流れを知ることは、「届くまでに関わる人の生活をどう改善できるのか」考えるきっかけになると思うんです。
もしかしたらコーヒー一杯の裏側にあるストーリーを知ることで、味わい方も変わるかもしれません。
ジュール・アメリア
一般社団法人コンサベーション・インターナショナル・ジャパン
カントリー・ディレクター
ワンダーマン、IDEO Tokyoを経て、2023年より国際NGOコンサベーション・インターナショナルのジャパン・カントリー・ディレクターに就任。20年以上にわたり、人間中心的デザインとイノベーション・コンサルティングやマーケティングの分野などであらゆる規模のクリエイティブなチームをリード。デジタルツールとシステムの構想を土台とした地域経済活性プロジェクトや循環型デザインに熱意を注ぎ、現在は、自然と調和したビジネスや経済をデザインすることを志している。ミシガン大学アナーバー校にて国際関係学を専攻、3年で卒業。