[What is…?] 日本のごみの現状と課題:ごみを考える、ということ。
私たちの暮らしから「ごみ」は必ず生まれます。その中でも、安価で加工しやすい「プラスチックごみ(以下、プラごみ)」は現在、日本だけではなく世界中でも深刻な環境汚染の問題となっているため削減が急務となっています。6月5日の「世界環境デー」を前に、日本のごみの現状や課題、解決に向けて日常の中でできるアクションについて、『ごみの学校』を主宰する寺井正幸さんを講師に迎え、スターバックスのパートナー(従業員)たちがともに学ぶ機会を作りました。
―寺井さんの活動『ごみの学校』はどのような経緯で設立されたのですか?
ごみ問題を正しく学び、考え、行動することで、少しでも良い社会を作れるのではないかと考えて作ったのが『ごみの学校』です。私は環境政策を大学で学び、大阪にある産業廃棄物処理業者に入社しました。「環境ベンチャー」のつもりで入社したのに、現実はまるで違ったんですね。会社自体は高い技術力があるし、本当に大変な作業をしてごみを処理しています。ですが、世間の人からはあまりいい印象を持たれていないのが実状だと思います。
日本に廃棄物処理会社は10万社以上あります。ごみに関わる仕事をしている人は、きっとみなさんの身近にいるはずなんですけど、廃棄物処理業者で働く人は、自分の職業について話したがらない人も多いんです。職業を聞かれても、「サービス業」や「製造業」と言うことも多い。廃棄物処理会社に務めながら、ごみ処理の価値を社会に伝えなければいけないと考え、2015年に廃棄物処理業界のことや専門知識を学ぶためのネットの情報番組を作りました。まだ、YouTuberなどが世間的にあまり知られていない時代です。現在は、ごみについて様々なセミナーを開催したり、オンラインで情報共有を行ったりしています。
―寺井さんは「日本のごみ問題」をどのように見ていますか?
私たち人間は昔からごみを出してきましたし、人が営みを送る中、ごみはどうしても出てしまうものです。私は「ごみを全く出さない社会にしよう」なんて思っていません。問題は、今の時代を生きる私たちが「“ごみ”をどのように捉えるか」です。ごみに対してどのような行動を取るか、どのような価値観を持つかで世界は大きく変わると思います。
日本は他の先進国に比べ、ごみの焼却率がとても高いんです。例えば、日本は普段の生活で容器・包装を使う量が多いため、一人あたりが廃棄するプラごみ(以下、廃プラ)の量は世界第2位で、その廃プラの70%が焼却処分されています。廃プラだけではなく、他のごみを燃やしてエネルギーにする考えもあるのですが、他国からは燃やしすぎだと指摘されることがあります。しかし、ヨーロッパやアメリカの方がごみ処理に関して進んでいるかというとそうでもなく、埋め立て率が高い。アメリカの場合は、日本の20年分のごみを一年で埋め立てています。
世界の中でも「焼却率が高い」のは、日本独自の環境が理由のひとつだと思います。というのは、日本は街の近郊にごみ処理施設があり、ごみ収集車が路地に入ってきめ細かく収集してくれます。「きれい好きな国民性」というのも影響しているかもしれません。ただ、インフラが整いすぎているが故に、多くのごみがリサイクルされずに焼却されている現状があるのも事実です。資源が無限にあるなら焼却しても良いし、埋め立て地が無限にあれば埋めてしまえば良いのかもしれませんが、資源も埋め立て地にも限りはあります。これまで日本が行ってきたごみ処理の仕組みと時代が合わなくなってきているんです。そのため、まず日本の場合は「ごみを処理する仕組み」そのものを変えていくことが求められると思っています。
―ごみを大幅に削減したり、新しい処理法を見つけなければ、日本にはどういう未来が待っているのでしょうか?
今、日本には焼却炉が1,000基以上あります。多くの焼却炉は人口が増加傾向にあった高度経済成長期に市区町村が作ったもので、現在それらは老朽化しています。ただ、作り替えるには莫大な予算が必要で、現実的ではありません。これから10年以内に何か変化を起こさないと、日本のごみ処理のインフラはどんどん崩れていくのではないかと危惧しています。この問題は、焼却炉を持つそれぞれの地域ごとに考えなければならない問題だと思うのです。
そもそも一基の焼却炉を作るのに100億円以上かかり、年間の維持管理費も必要です。もし、ごみを削減することができれば、焼却炉建設や維持管理で浮いたお金をその地域の「教育」に投資できるし、「福祉」にも使えます。ごみについて考えることは環境問題を考えるだけじゃないですよね。
だからこそ、企業やお店、個人がごみを削減していくことはとても大切だと思います。家庭から出るごみの8割ぐらいが食べ物の生ごみとプラごみで構成されていると言われています。削減により、このボリュームゾーンが減るのは大きなインパクトがあります。
例えば生ごみだったら、地域単位で堆肥にする仕組みを作れば、周辺の農家が使うことが可能です。そうすれば生ごみが周辺地域を循環するわけです。プラごみもそうです。プラスチックを使わないに越したことはないのですが、無くすことは現実的ではありません。プラスチックの中にも削減しやすいものと、削減しにくいものがありますが、大事なことは「使い方」だと思います。削減しやすいプラスチックには私たちが普段使う容器・包装も含まれますが、使用後は綺麗にして、適切に分別しリサイクルすることで「資源」として使うこともできるので、無駄なく使うことができます。「環境に良いから」という考えがありますが、自分に直接関係がないと行動につながりにくいですよね。それよりも、おいしい野菜が食べられたり、コミュニティや地域を良くするという目的のためであれば、ごみの削減や分別、リサイクルに個人でも取り組みやすく、継続にもつながるのではないでしょうか。
―「ごみの学校」が企業や学校で実施するワークショップのひとつの、「海洋ごみ」について遊びながら学べるカードゲーム『Recycle Master(リサイクルマスター)』の生まれた経緯を教えてください。
『Recycle Master』は、カードゲームで遊んでいるうちに、海洋ごみやリサイクルの仕組みを知り、さまざまな気づきが得られるような設計にしています。もともと、一般社団法人 日本プロサーフィン連盟(JPSA)から「海ごみ削減に対して何かアクションをしたい」という想いからプロジェクトがスタートしました。サーフィンは海を使ったスポーツですので、海が汚れているとサーフィンができなくなるという切実な問題を抱えていたんです。JPSAは以前からビーチクリーン活動を行っていたのですが、「ごみを拾う」という対処療法だけでは限界がありました。そこで、「事前にごみを出さないようにする取り組み」が必要だという話になり、子どもでも大人でもわかりやすく楽しみながら学べる方法としてカードゲームのアイデアが出たんです。私はごみの現実に即したカードゲームの内容について監修を行いました。ごみの一つひとつにも特徴があり、分別方法、リサイクルするのに必要なことが決まっています。それらの知識をキャラクターを通じて知ることで、普段の生活の中でそのごみに出会った時に「なぜここに落ちているんだろう?」と子どもたちに興味を持ってもらい、ごみの分別の正しい理解やビーチクリーンに対する意識を高めることができるように努めました。
―スターバックスはごみ問題を解決するためにどのように取り組んでいけば良いでしょうか?
スターバックスは、すでにお客様に向けてマグカップやグラスでの提供をおすすめするなど環境問題に対する社会的責任を果たすことに取り組んでいると思います。ただ、他の企業にも伝えていることなのですが、環境問題に対する「社会的責任」だけだと、義務感になってしまって面白くないですよね。だからこそ、企業やブランドを愛しているお客様に向けて、それぞれの企業だからできるポジティブで楽しいメッセージを発信することが重要だと思います。スターバックスの強みは、「店舗という現場」でお客様とパートナーの皆さんがコミュニケーションをとりながらつながりを育んでいることだと思うので、環境に対して一緒にポジティブなアクションを起こすことは可能だと思いますし、「居心地の良い空間って、本来ごみも少ない空間ですよね」というような世界観を提示することも可能だと思います。スターバックスならきっといろいろな方々も巻き込めると、勝手に大きな期待をしています。
―では最後に、「消費者」としてはどのような態度でごみ問題と向き合えば良いのでしょうか?
一般消費者が「ごみ問題」と向き合っていく場合、まずは「ごみ」について基本的なことを理解することから始めると良いと思います。ごみ問題は、やはり「リデュース(削減)」が大前提ですし、ごみを出さないようにすること、プラごみを減らすこと、分別することはもちろん大事です。ですが、それだけでは限界があります。大事なのは、「なぜそうするのか?」を知ることです。例えば、ペットボトルのキャップとボトルをなぜ分けた方が良いのかを理解すれば、行動も続けやすくなります。「学校で教わったからやる」「人に言われたからする」ではなく、「これをすることで環境にどういう影響があるのか」を知ることが、行動を持続させる鍵です。だから、どうしてそれが必要なのかを知り、自分で理解し、納得することが大事ですね。その上で、自分ができることを少しずつでも良いので始めてみてください。ごみについて考えることは、「環境」を良くすることではなく、「社会」を良い方へ変える取り組みだと思います。
寺井正幸さんプロフィール
株式会社ごみの学校代表。1990年京都府亀岡市生まれ 亀岡市在住。 兵庫県立大学環境人間学部後、産業廃棄物処理業者に入社し、産業廃棄物処理を中心とした営業を行う。 事業の中で、産業廃棄物に関するセミナーや講演に50回以上登壇。ごみの学校を運営し、普段目に見えないごみのことを、できるだけ分かりやすく伝え、「ごみを通してわくわくする社会をつくること」を目標に活動している。