スターバックスの「品質基準」: おいしさを保ち続けるための積み重ね 


 スターバックスは、地球にも人にもやさしいコーヒーづくりの実現のために「C.A.F.E. プラクティス」という独自の認証ガイドラインを導入し、品質が高くエシカルでサステナブルなコーヒーを日々お客様へお届けしています。コーヒー豆は、栽培を始めてから長い道のりの中で多くの人の手を介して店舗に届きますが、その間、品質はどのようにして保ち続けられるのでしょうか。 
今回は「C.A.F.E. プラクティス」の4つの指標の一つ「品質基準」について、シアトルサポートセンター(本社)の品質管理チームで働くノーマン・ラミレスさんにお話を伺いました。 

1日500杯のコーヒーをあじわう日々

2020年にスターバックスへ入社するまで、さまざまな食品の品質管理部門で働いたノーマンさんは、とにかく「品質重視」と言い、品質を一定に保つためのデータ分析を得意としています。コーヒーに興味を持ったのは、友人から焙煎工場の見学に誘われたのがきっかけ。初めてカッピング(風味を確認するテイスティング方法の一つ)をしている人たちを見た日は、人生を変える重要な日だったと言います。 

「彼らのスキルに衝撃を受けました。たったスプーン1杯のコーヒーを吸い込んで、それが良質かどうか分かる。しかもそのスピードの速さにびっくりしました。次から次にどんどんコーヒーを飲んで品質についてコメントし合って、その良さをきちんと認識していて。当時の私はコーヒーの知識なんてまったくありませんでしたが、自分もいつかこれをやりたいと思ったんです」 

それから10数年後。今、ノーマンさんの1日は、毎朝8時のカッピングから始まります。1日にテイスティングするコーヒーの数は約120種類。購買が決まったコーヒー豆の品質管理を担当するノーマンさんのチームでは1種類5杯ずつテイスティングするので、総計は日に「約400~500杯」の計算になります。これを1時間という短い時間で集中して行います。 
さらに、先入観を持たずそのコーヒー豆を評価するために、サンプルとして飲むコーヒー豆の生産者名は伏せられていて、これまでの評価や関係性などの情報がない平等な状態で味覚・嗅覚と訓練された技能を使ってテイスティングしていきます。 

「全てのサプライヤー(生産者や中間業者、輸出業者)にフェアに評価できるよう、サンプルの状態を一定にするための基準があります。例えば、コーヒーをいれた日の時間、挽いた豆の粒の大きさ、焙煎した豆の色、水の質、水の温度などコーヒーの質に影響を与える可能性のある要因一つひとつに基準を設けています。これによって毎日のカッピングがきちんと業界のスタンダードに則って管理された上で行われているので、品質が保たれていることが保証できるんです」

品質管理は、情報共有からすべてが始まる 

「毎日、非常にたくさんのコーヒーを飲みますが、楽しんでやっていますよ」と笑顔を見せるノーマンさん。でも実はその500のカッピングが終わったところからが「本番」だと言います。 

「皆さんは私たちの仕事はカッピングがメインだと思っているかもしれないけれど、それは1日1時間だけ。そのあと評価の結果を共有し合う時間が、私たちの仕事の中で一番面白みのあるパートで、時間をかけてやっていることです」 

品質管理チームの評価の結果は、世界中の豆を購買しているスターバックス・コーヒー・トレーディング・カンパニー(以下、SCTC)、ファーマーサポートセンター以下、FSC)、そして出荷を待つ倉庫へ伝えられます。

「倉庫は、私たちがきちんと品質を確認できて初めて出荷できるので、その結果を待っています。私たちの分析や情報を、SCTCを通じてサプライヤーに直接提供して、良い点・悪い点や、前の月に受け取ったサンプルの中から承認されたもの・拒否されたものの数字もレポートします」

その他にも彼らの評価や分析はプランニングチームや開発チームなど含め、コーヒーの調達に関わるすべての関係者に共有されます。 

「自分は本当に品質重視の人間です。 品質を保つためには、まずすべての情報を共有することが大事。それが継続した品質管理だと思います。サプライヤーや生産地の評価もすべて伝えて、全員が品質に対して同じ情報が持てるようにしています」 


しかし、それだけでは十分ではないとも言います。より上のレベルで品質を保証するためにもっとも重要なことは、世界中の関係者と行う『カリブレーション』と言われる評価の擦り合わせ作業です。 

「カリブレーションの方法としては、全く同じ基準で焙煎されたサンプルを準備して、スイスのSCTC、コスタリカ、コロンビア、ルワンダ、雲南のFSCに送っています。それから開発チームや焙煎チームにも同じサンプルを送ります。そして、スターバックスのすべてのカッパー(カッピングをする人)全員が同時にそれぞれカッピングノートを持って、実際にそのコーヒーをカッピングするんです。そしてオンラインで集まって、それぞれの評価を共有します。 
コミュニケーションで大事なことは、サンプルの結果を正直に伝えることだと思います。評価が分かれたものはもう一度カッピングして、擦り合わせていきます」 

スターバックスならではの品質へのこだわり 

「コーヒーの品質管理は非常に複雑。それには2つの理由があります。1つは、コーヒー豆を収穫してからお客様が飲めるまでには長い道のりがあり、多くの人々が関わっていること。そしてもう1つは、コーヒーは生きた豆だということです。この豆はきちんとした育て方をしなければおいしく育たない。だから私たちは生産地へ行ったり、サプライヤーと話したりしながら、こちらの評価もきちんと提供して、至らない部分はどんどん改善していけるように管理し続けなければならないんです」 

そもそもスターバックスは、高品質なスペシャルティーコーヒーの基準を満たしたものしか購入していません。それをさらにスターバックス独自の細かい品質基準を用いてノーマンさんたちが検証し、その品質が確かであることを確認しているため、お客様に提供されるコーヒーはすべてとても高い水準なのです。

「カッピングをしていて、全ての基準を満たした質の高いコーヒーに出合った時が一番の幸せです。1つのコーヒーを作るために関わったたくさんの人や労力を考えると、品質がパーフェクトだと分かった時は本当に感動します。

さらに、予期せず想像を超えるような高品質のコーヒーに出合うこともあります。例えば先日、ザンビアから受け取ったコーヒーのフレーバーが本当素晴らしくて味がすごく良かったんです。周りを見渡したらチームの全員が『なんだ、このコーヒーは!』とそのクオリティの高さにみんな驚いていました。そういう瞬間は本当に楽しい。 

私たちは、とても多くのコーヒーを毎日受け取っていますけど、昨年収穫したものはあまりいいクオリティではなかったけど、今年は本当に素晴らしいということがあります。それは私たちがその1年かけて品質改善のためにずっとやってきたことが実った証なので、それもとても大きな喜びになります。 

品質というのは動く標的みたいなものなんです。今年良くても来年は分からない。常に流動的なので、いつも変化とチャレンジに立ち向かっています。だから、品質を保つということは、今やったことで解決するというものではなく、ずっと継続してやっていかなければいけないことなんです」 

最後に「そんなにたくさんコーヒーを飲んだら、今日はもう飲みたくないという時もあるのでは?」と聞くと、ノーマンさんは笑顔で首を横に振り、「I Love Coffee!」と笑い飛ばしました。 

「一日中ずっと飲んでいられます。コーヒーに飽きることなんて絶対ありません」

ノーマンさんのような人たちがスターバックスのコーヒーの品質を守ってくれていることが、そのおいしさの秘密。スターバックスはこれからもお客様へ高品質なコーヒーをお届けするために、飽くなきコーヒージャーニーを続けていきます。 

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