伝統的な紋様にロースタリー 東京を重ねた江戸切子グラス


スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京(以下、ロースタリー 東京)の「JIMOTO Made+」に、5月10日、4つの新作が登場しました。そのうちのひとつが、東京の墨田区や江戸川区を中心に作られている江戸切子を用いた、「JIMOTO Made+ 墨田 江戸切子グラス237ml」です。商品を制作してくださっている工房を訪ねました。

日本文化と西洋技術が融合して生まれた江戸切子

江戸切子は、ガラスの表面に施された精巧なカットと、そこに当たる光の屈折が生み出す輝きが魅力です。その始まりは、1834年に江戸大伝馬町のビードロ屋・加賀谷久兵衛が金剛砂を用いて彫刻を施したことだとされています。明治時代にイギリスから技術者が招聘され、ヨーロッパのカットグラスの技法を取り入れて確立されました。矢来、菊、麻の葉など20種類ほどの伝統的な紋様が今も伝わり、西洋技術に日本の文化や美意識が融合した美しいカット技術は、国の伝統的工芸品に指定されています。

今回訪ねたのは、墨田区にある創業125年の廣田硝子です。都内で最も古いガラスメーカーのひとつで、江戸切子工房ショップ「すみだ江戸切子館®」では工房見学や切子作り体験などを通し、江戸切子の認知度アップに尽力しています。

社長の廣田達朗さんは今回の商品を、江戸切子だけでなく広く“和ガラス”に親しんでもらうきっかけになってほしいと言います。さまざまな技法やデザインで酒器、醤油さし、照明など日本の文化と共に発展した和ガラス。「国内にガラスメーカーはそんなに多くない。海外からの製品がたくさん入ってきますが、日本で作るガラスを残していきたい」と願っています。

ロースタリー 東京の建物をイメージしたモダンなデザイン

江戸切子は透明なガラスに、厚さ1㎜以下の薄い色ガラスをかぶせた二重ガラスに施されます。彫りを加えて透明なガラスが見えることで紋様になるのです。「JIMOTO Made+ 墨田 江戸切子グラス237ml」は透明度が高く光の屈折が美しいクリスタルガラスに、厚さ0.3㎜の青いガラスをかぶせ、伝統的な紋様を使ってロースタリー 東京をデザインしています。

星のような麻の葉紋様の中央に、斜めの線状にあられ紋様を組み合わせ、ロースタリー 東京の建物を表現。麻の葉は4層階の建物を、あられ紋様は折り紙をモチーフにした天井をイメージしています。

縦に施された滝縞紋様は店の前を流れる目黒川であり、ロースタリー 東京の建築で目を引く格子状の庇でもあります。全体的にアシンメトリーになったモダンなデザインで、ロースタリー 東京の多面的な要素が表現されています。

一つひとつ手仕事で刻まれる紋様

「JIMOTO Made+ 墨田 江戸切子グラス237ml」の繊細なカットは、江戸切子職人により一つひとつ手作業で施されます。「手作りされたグラス自体のわずかな個体差を職人が感じ、手作業で調整ながらカットするので、機械化をするのは難しいんです」と廣田さん。

江戸切子の制作工程には主に、割り出し、削り、磨きがあります。

切子の紋様を入れる目安となる縦横の線を入れるのが、割り出しで、職人はこの線だけを目安にカットを施します。

削りではダイヤモンドホイール(回転する鉄製の円盤)で、基本的な線や面を削った後、さらに細かいカットを施します。溝をV字に彫る菱山、丸みのあるカマボコなど、線の太さや紋様によりダイヤモンドホイールを付け替えて作業します。

ガラスを削る音が響く工房内は薄暗く、職人さんの手元をライトが照らします。グラスの外側に入れた割付を、グラスの内側から見ながらカットを施していくのです。その様子を見ていると、緻密な作業と集中力に引き込まれてしまいます。

カットしたガラスの表面は粗く白っぽくなっていますが、仕上げに磨きをかけることで透明になり、輝きを増します。廣田硝子では、円盤にゴムやブラシをつけて回転させてグラスを押し当て、一つひとつ丁寧に手磨き。手間はかかりますが、手磨きでよりシャープな輝きを引き出しているそうです。

「1人の職人で1日にカットできるのは3~6個、仕上げまでを考えると3個ほどしか制作できない」という廣田さんの言葉からも、いかに精巧な作業かが感じられます。

職人の技が切子の価値を生む

「切子のデザインにはパターンがあり、それを組み合わせて依頼主のイメージに近いものを作ります。いちばん難しいのは、その“イメージ”の段階です。今回の商品はガラスにデザインを描いて渡し、フィードバックしてもらうというのを繰り返しました」と語るのは、この道34年になる江戸切子職人の川井更造さんです。

ガラスの透明部分が増えることで光の屈折も増え、切子は光沢を放ちます。

「一般的に2/3は削り落とした方が明るいグラスになります。今回は色を多めに残したいという要望がありましたが、その中でも明るくなるよう、麻の葉の中に斜めにあられ模様を組み合わせることを提案しました」

柄が組み合わさっている分、デザインが複雑になり、作業にはより集中力が必要だといいます。しかし、最低限の割り付けで作業できるのは、「頭で組み立てられないデザインは作れない」からだそうです。

「最初は細かく割り出しを書きますが、そのうち頭の中にイメージが映像のように出てくる。そうすると、細かな割り出しはいらなくなるんです」

では、切子制作の面白味はどこにあるのでしょう。

「プラモデルは箱を開ける前がいちばん高くて、作ると0円になる。逆に、江戸切子は職人がガラスに切子を施すことで価値が出ます。同じ道具を使ってもできる人とできない人がいますし、2~3年でここまでできるようにはならないので、やめていく人もたくさん見てきました」

まさに江戸切子は職人の技そのもの。日々研鑽を積み重ねた結果が、この一つひとつのグラスにすべて現れているのです。

190年もの年月を経て今なお輝きを放つ江戸切子。「JIMOTO Made+ 墨田 江戸切子グラス237ml」の繊細な切子を見つめていると、ロースタリー 東京のこれまでのストーリーを語り掛けてくるようです。お気に入りの飲み物を入れて、江戸切子と共にゆったりとした時間を過ごしてみませんか。

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地元の文化を思いに乗せて。JIMOTO Made「KUTANI」(石川県)制作現場を訪ねて