JIMOTO Madeの新作が伝える、備前焼1000年の伝統


「JIMOTO Made」に9月17日(火)、新しい仲間が加わります。岡山県の伝統工芸・備前焼の「マグ備前焼SANGIRI355ml」です。備前焼の代表的な産地・岡山県備前市の伊部(いんべ)地区にあり、このマグカップを制作する窯元を訪ねました。

日本六古窯のひとつ、備前焼

日本六古窯のひとつに数えられる備前焼は、古墳時代の須恵器の製法がルーツだといわれています。高温の炎で焼き締めるため、赤松の木を燃料とする薪窯で焼かれることがほとんど。最大の特徴は、釉薬も絵付けも施さずに高温で焼き締めることで現れる、素朴ながらも変化に富んだ表情です。土の性質や焼き方などで多彩な色を生み出します。主なものに棧切(さんぎり)、胡麻、緋襷(ひだすき)などがあり、ひとつとして同じ色や模様にならない味わい深さが魅力です。

「マグ備前焼SANGIRI355ml」で使われるのは、窯焚きの仕上げに大量の木炭をかぶせて、燃焼の際に起こる化学反応で生まれる「棧切」。多彩な表情かを生み出したボディはコーヒー豆をイメージしたコロンとしたシルエットで、表面には岡山県に流れる川の水面をイメージした櫛目をデザインしています。重厚な見た目だけれど持つと意外なほど軽く、薄く仕上げられた飲み口が心地いい逸品です。

この商品を一つひとつ手作業で制作しているのは、創業100年以上の歴史ある窯元・柴岡陶泉堂。両親と兄と共に窯を守る、柴岡 久さんが案内してくれました。

備前焼の魅力は土と炎が生み出す自然美

「釉薬を使わず色や柄を表現する備前焼において、土作りと窯焚きがとても重要です」と柴岡さん。備前焼の土は、なめらかでかつ粘りが強い、「ひよせ」と呼ばれる地元産の土。地元でも採る場所により色の出方が変わり、自分の作品に合うものを選んだり、山土を加えたりするそうです。

土作りでは、最初に原土から不純物を取り除く水簸(すいひ)という作業を行います。水簸槽で原土を水に溶かし、余分な石や砂を取り除く作業です。取り除かれた泥状の土は素焼きの鉢「どべばち」に移し、日陰で10日間ほど干して余分な水分を抜く。それを練ったら、「むろ」と呼ばれる保管場所でさらに半年間寝かせて粘りを出し、ようやく粘土になります。土作りだけで半年以上もかける、途方もない作業なのです。

そしてもうひとつは、薪を焚き続ける窯焚きです。燃料に油脂を多く含んだ火力の強い赤松の木を使用。燃えやすくするために半年ほど乾燥させます。今回のマグカップを焼き上げるには、約2.5トンの赤松を使用するそうです。

「今回のマグカップは五昼夜半の間、焚き続けます。窯内の温度は最高で1,250℃くらいになり、ここで『棧切』を出すための木灰をかぶせます。木灰が燃焼し、還元の状態となり、棧切の模様が現れるのです」

「せんば」と呼ばれる長さ3メートルの特殊なスコップでマグカップに木炭をかぶせますが、窯の中は炎に包まれていて見えないので、それらの作業はすべて“感覚”です。火が噴き出す窯の口へとせんばを伸ばすと、1,250℃もの高温の窯の中に入れたせんばも燃えるように真っ赤になります。

「炭をくべると火花が煙突まで登って、火柱が吹き上がるんですよ」

こうして五昼夜半もの間、兄と交代しながら窯を焚き続け、焚いた日数と同じ時間をかけて窯を冷まし、ようやく窯からマグカップを出すことができます。

「窯を開けるまで、作品にどのような模様が付いているかは分かりません。木炭の被り方や燃え方だけでなく、窯内の置き場所による火のあたり方でも模様の出方が変わるので、出したい景色をイメージしながら置き場所を考えて窯詰めしていくんです」

すべてが経験に基づいた感覚で行われ、このえも言われぬ表情が生まれるのです。

先人の技術を今に、未来に伝えたい

柴岡陶泉堂の近所には、たくさんの窯元や作家がおり、「幼馴染をはじめ跡を継いだ同年代の友人も多いです」と柴岡さん。それくらい備前焼はこの地に根付く産業で、今でも伊部を中心に県内には250以上もの窯元や作家がいるそうです。幼いころから、祖父のろくろで土いじりをしていた柴岡さんにとっても、備前焼は当たり前にそこにあるもの。「モノを作ることは昔から好きで。誰かに言われたわけでもなく、自然とこの道に進みました」と語ります。

「マグ備前焼SANGIRI355ml」に使われている表現「棧切」は、柴岡陶泉堂が得意としている備前焼の焼成技術で、木炭をかぶった作品が灰青系の様々な色に変化します。釉薬を使わず炎の力で表現する備前焼において、電気窯ではこの色は出せず、薪の炎の力があってこそ。柴岡さんには「備前焼を届けたい」という強い想いがあります。

「1000年続いてきた先人たちの技術を大切に思っているので、備前の土を使って、釉薬は使わず、薪の炎で焼く。初めて備前焼を見た人に、“これが備前焼だ”と感じてもらえるものにしたいんです。備前焼の発展のために斬新さを求めていくのも必要ですが、斬新すぎると備前焼から離れてしまうような気がして。その塩梅が難しいですね」

今回のマグカップはこれまで作ったことのない形状、入れたことのない櫛目などがあり、試作だけで100近く作ったそうです。ろくろをひき、櫛目を入れ、底面を削り込み、取手を付ける。これらすべてを柴岡さんがひとつずつ手作業で行います。ひとつ作るのに、柴岡さんが通常作るマグカップの3倍の時間がかかるそうです。

こうした労力もすべて、器を使う人の気持ちに寄り添って、もの作りをしているから。柴岡さんの作る器は薄く、焼物だけれど軽くて扱いやすい。

「薄くすると焼成時に、歪みやすくなるため、口縁部にひとつずつ小鉢を載せることで、歪まないようにしています。手間はかかりますが、マグカップの内側に木炭が入らないので内側の焼き上がりが黒くならないという利点もある。お客さんだったらこうなっていた方がうれしいだろうなというのをくみ取って作っています」

幾年も受け継がれ磨かれた技術で、土と炎によって表現される、備前焼のJIMOTO Made。窯の煙突から煙や炎が立ち昇る備前に、ぜひ足を運んでみてください。

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