現代アートに出合う“共同アトリエ” のような京都BAL店


京都の中心地・河原町に位置し、ファッション・ライフスタイルのトレンドを発信する京都BALの3階には、個性あふれる若手アーティストの作品が約80点も並ぶ「京都BAL店」があります。コーヒーとともにアートが楽しめる非日常的な空間が誕生したのは、2019年。今年で5周年を迎えるのを機に、アートディレクションを手掛けたSandwichを主宰する名和晃平さんやアーティストのみなさんに当時の想いなどを伺いました。

お客様とアートの架け橋に

京都は美術系大学をはじめ、ギャラリーや美術館が多いアートの町。その中心地にある京都BAL店のコンセプトは、“アーティストたちの共同アトリエ”。店舗設計から作品のセレクトまでアートディレクションを手掛けたのは、京都芸術大学教授でもある彫刻家・名和晃平さんが主宰し、京都を拠点に活動するクリエイティブ・プラットフォーム「Sandwich」です。床に油絵具が散り配管がむき出しの天井が広がる空間には、異なるデザインのテーブルやイスが配され、若手アーティストの情熱あふれる作品が並びます。

ストアマネージャー(店長)の筒井さんは、この空間を求めて来られるお客様がいると語ります。

「常連のお客様には、アーティストやウェブデザイナーなどアート関係の方が多くいらっしゃいます。パートナー(従業員)も美術や映像などを学んでいるアート好きな人が多く、私を含め、みんなここで働くことに誇りを持っています」

店内の作品は、購入もできるため(一部購入不可のものもあります)不定期ですが入れ替わり、入れ替え時には新しい作品をアーティスト自身が展示に訪れることがあります。そんな時、筒井さんは積極的にアーティストに質問をして、彼らの作品に対する情熱をパートナーと共有してお客様に伝えています。

「想いを聞くと、私自身、その作品に対して愛着も高まります。そのうちのひとつが、田村琢郎さんの小さな植物のアート、《Cracked street plant PH-8》。アーティストの方に作品について細かく質問するのは失礼にあたるのではという迷いもありましたが、すごく丁寧にお答えくださってうれしかったです。名和さんもふらりといらっしゃることがあって、何気ない会話からアートの楽しみ方、情報発信の方法などお店についての相談をすることもあります」

こうしたコミュニケーションもお客様にお店を、作品を、より楽しんでいただきたいという想いから。この空間で、パートナーたちはお客様とアーティストの架け橋のような存在です。

「コーヒーを楽しみながらアートを鑑賞するのはもちろん、お気に入りのアートを見つけていただきたいです。いつもと違う席で別の角度から眺めたり、イスが違えば目線も変わったり、そんな発見も楽しいですよ」

京都の中心地に、現代美術が集まる場所を

「京都はよく“伝統と革新”といわれますけど、“革新”の先端を切り拓こうとする若手のアーティストがたくさんいる。その一端を感じられる場所にしたいというところから始まりました」と語る名和晃平さん。スターバックスとSandwichでコーヒーとアートをテーマにした店舗づくりを検討していく中、未来をつくる若者の支援が共通の想いとして浮かび上がり、京都BAL店誕生のきっかけとなりました。店作りには、河原町にあるからこそ “都市とアートがどう重なるか”という視点を重視したと言います。

2020年に京都市美術館が京都市京セラ美術館として生まれ変わり、2023年には東京から文化庁が移転。京都市立芸術大学も京都駅東側に移転し、若手作家が活躍する「ARTIST’S FAIR KYOTO」や国際的なアートフェア「Art Collaboration Kyoto」も開催されるなど、京都のアート色はますます濃くなっています。

「そうしたアートスポットに加え、京都駅の南側にも新しいアートエリアができる計画があり、街の文化圏の縦軸が繋がりつつあります。この中間地点であり、京都市街の中心地とも言える河原町周辺は重要なエリアです。ここには僕が学生時代に個展を開いたギャラリーマロニエなど老舗の貸し画廊も多く、アートコレクターや評論家の訪れる一帯でした。そこに新たに、現代美術が集まる場をつくりたいと考えたんです」

店内には絵画や彫刻をはじめ、作風も手法も異なる個性あふれる作品が展示されており、その中には、名和さんが全国各地の美大の卒展や講評会などで出会った若手アーティストに声をかけてセレクトしたものも多いとのこと。「大きな芸術賞を受賞したり、みんなそれぞれが活躍していて、なかなかすごいメンバーになってきています」と、現在も精力的に活動するアーティストたちの初期作品を観られるのも、京都BAL店の面白みのひとつです。

展示する場所があるからこそ、創作意欲がわく

作品を展示しているアーティストたちに話を聞くと、この場所が彼らにとっても特別な存在であることがわかります。

素材のひとつにアスファルトを使う田村琢郎さんは、エントランスに展示されているスターバックスのロゴ入りの球体作品を作ったアーティストです。

「この作品は、当初のプランの倍のサイズ・直径120㎝というまだ作ったことのない大きさにチャレンジしたものです。経験の中でできるものを提示するのではなく、何を作りたいかで出来る方法を探すことをこの作品作りを通じて学びました」と語ります。

現在は東京で活動していますが、当時の経験を今でも大切にし、京都に行く際は必ず店に足を運ぶそう。

「普遍性ではなく、違う角度からのアイデアと、それを受け入れてくれるスターバックスの懐の大きさで魅力あるお店になっている。人の思い出に残る場所に作品を展示してもらえているのがうれしいです」

展示する場所があることがモチベーションにつながると力強く語るのは、油野愛子さん。様々な素材を組み合わせた造形で人の感情に向き合って表現し、京都BAL店には2つの作品を展示しています。

「展示する場所がないと、ただの生産になってしまいます。展示する場所があることで制作する意欲やアイデアが湧き、クオリティも上がる。作品を気に入ってくださった方が購入してくださったらそれがまた意欲につながります」と、油野さん。

写真を絵の具で転写するオリジナルの技法で作品を生み出す岡田佑里奈さんは、大学院生だった当時「ここに展示したい」と強く願い、名和さんに直接アプローチしました。

「当時は展示されることが初めてで、すごくうれしかったです。様々なジャンルの作家さんがいるので私自身もすごく刺激的ですし、スターバックスのお客さんがいて完成する空間だというところもすごく魅力的です」

スターバックスでは各店舗の空間に合わせたアートを設置し、コーヒーとともにアートを楽しむことを目指していますが、現代アートがこれほどたくさん集まる店舗は世界中でここだけです。お客様にとっては気軽にアートと出合える場所として、アーティストにとっては作品を見てもらえる場所として、互いに感性が刺激される、そんな唯一無二の場所になっています。

様々な想いが込められた作品とともにお客様を迎える京都BAL店へ、未来に羽ばたくアーティストの作品の力を感じに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

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