薩摩の歴史を今に伝える白亜の洋館・鹿児島仙巌園店(鹿児島県)後編


旧薩摩藩主、島津家ゆかりの登録有形文化財「旧芹ヶ野島津家金山鉱業事業所」をリノベーションし、2017年3月に誕生した「鹿児島仙巌園店」。鹿児島の歴史を感じながらコーヒーが楽しめる、リージョナル ランドマーク ストアです。往時の面影を残しつつモダンな造りで、地元の方々をはじめ多くのお客様に愛されています。

かつて鉱山として栄えた名残を感じる

鹿児島仙巌園店は、鹿児島中心部から車で約20分、錦江湾を望む国道10号線沿いに立っています。木造2階建ての和と洋を取り入れた建築で、和風の瓦葺の屋根に、洋風の連続アーチで構成されたベランダも目を引きます。この建物は世界文化遺産に登録されている明治日本の産業革命遺産「仙巌園」に隣接し、地元の方はもちろん、国内外の観光客が訪れています。

店舗のエントランスに立ち、ふと見上げると、屋根にある丸に十字の家紋が入ります。これは、島津家の家紋です。

「旧芹ヶ野島津家金山鉱業事業所はもともと県西部の串木野鉱山にあったものです。大正時代に城西町に移築されたのち、昭和61(1986)年にここに移築されました。以前、串木野には金山のテーマパークもあったんですよ」と語るのは、ストアマネージャー(店長)の鶴園さんです。

薩摩藩は江戸時代には金や錫の産地としても栄え、旧芹ヶ野島津家金山鉱業事業所は明治37(1904)年に事務所として建てられたもの。多くのお客様が訪れるこのお店では、パートナー(従業員)が自発的に、お客様に店内を案内することがあるそうです。それでは、鶴園さんに見どころを教えてもらいましょう。

薩摩の歴史と伝統を織り込んだ内装

1階はエントランスの左手にバーカウンターのある広い部屋が、そして右手には2つの部屋があります。まず目に入るのは、切子のカッティングをアイデアにしたバーカウンターのデザインです。この店舗は、縦・横・斜めの組み合わせによる規則的なカッティングが美しい薩摩切子にインスパイアされ、『グリッド(格子)』をデザイン要素に取り入れ、Sirenの鱗のきらめきを表現しています。

「テーブルや照明など、いろいろなところでグリッドが施されています。また、照明や天井などに真鍮色が使われているのですが、これは金山との親和性からなんですよ」

また、柱や手すりなどの紺色は、旧薩摩藩の名産だった薩摩絣の藍色からインスピレーションを得ているそうです。

グリッドのひとつひとつ、艶消しの真鍮色の落ち着いた色合い…薩摩の歴史にインスピレーションを得たものが建築とモダンに融合しています。鶴園さんも「デザインに薩摩のものが織り込まれているのは、働く私たちにとっても誇りです」と言います。

エントランス右手の部屋は、薩摩とコーヒーの歴史を感じられる空間です。写真が好きだった島津斉彬にちなみ、たくさんのモノクロのコーヒーの写真の中に、この建物や薩摩の歴史的な写真を忍ばせています。

「いつも最初に案内するのはこの写真です」と教えてくれたのは、串木野にあった頃の旧芹ヶ野島津家金山鉱業事業所の写真。モノクロの写真を眺めていると、鉱山の工員たちがここで働いていた時代が確かにあったのだと感じられます。

さらにその奥にあるひと部屋は、コーヒー産地や生産者などを描いた壁画や、産地別のコーヒー豆のオブジェが飾られています。「コーヒーの生産から加工まで、スターバックスのコーヒーへの情熱を紹介しています。奥まっているので、ゆっくり過ごしたい方に人気です」と、鶴園さん。

コーヒー豆のオブジェは、「みんなでいいお店を作ろうという気持ちを込めながら入れた豆です」と、開店当時のパートナーたちがひとつずつ入れたコーヒー豆だそうです。

続いて2階には、三方の窓から光が注ぐ、明るくて広い部屋があります。中央には地元鹿児島の木材を使用した長いコミュニティテーブルがあり、「パソコンの作業もしやすくて、ゆっくり過ごされる方が多いですね」と鶴園さん。

注目は、テーブルの上にある照明やオブジェ。グリッドをモチーフにした真鍮色の照明の中に多面体の地球儀があり、いくつかの国に緑色のスターがマークされています。このスターの意味は何でしょう?

「このお店のコンセプトは『Salon de Siren』。サイレンがコーヒー産地を旅しながら、休憩に立ち寄ったのがこのお店です。星のマークは、世界中にあるスターバックスの農園を記しています」と、素敵なストーリーが隠されていました。

鹿児島で暮らす人たちが愛する、桜島の眺望

そしてお店のもうひとつの特徴は、錦江湾の向こうにそびえる桜島の眺望です。1階も2階も窓辺で桜島を眺めながら、好きなドリンクを楽しむことができます。

「今日はいい日ですね。雨が降った後だから空もきれいで湿度も低く、きれいに見えています」と、鶴園さん。桜島のどっしりとしたたたずまいを見ていると、時の流れもゆったりと感じられます。

ここで働くパートナーたちもこの景色が大好きで、勤務外でも店舗を訪れているそうです。鹿児島県で生まれ育った鶴園さんにとっても、桜島は特別な存在。鶴園さんのおすすめは、1階バーカウンターの前の席から眺める桜島です。

「この席で、桜島やカウンターで働くパートナーたちの姿を見ながら、ランチ休憩を過ごすのが好きです。桜島は日常の一部なので、毎日、眺めてしまいますね。通勤時も、今日はきれいだなって思ったら写真を撮ってしまうくらい」と笑います。

実は、こうした地元の人たちの桜島への愛情が、このお店の誕生に深く関わっています。

この店舗は、「鹿児島らしいお店を。桜島を眺めながらコーヒーを飲めるお店を」と、鹿児島県下の店舗のストアマネージャーたちが探し当てた場所です。当時の想いが形となり、お客様やパートナーたちに特別な時間をもたらしているのです。

「パートナーたちが鹿児島や島津家の歴史を調べるなどして、お店を知ろうしてくれることがとてもうれしいです」と鶴園さん。外観、内装、眺望…鹿児島仙巌園店では、どこをとっても鹿児島を感じることができ、それを伝えることが、パートナーたちの大切な仕事のひとつであり、モチベーションにつながっているのです。地元の方も遠方の方も、その歴史を感じに、ぜひ訪れてみてください。

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伝統と斬新な発想で生まれた砥部焼のマグがJIMOTO Made+に登場