ぬくもりの時間をシェアできる「スターバックス® コーヒートラベラー」が出来上がるまでの 開発の裏側を聞いてみました
「スターバックス® コーヒートラベラー」をご存知でしょうか。昨年3月に発売された12杯分(ショートサイズ換算)のドリップ コーヒーが持ち運べ、場所を問わずスターバックスのコーヒーが楽しめる商品です。Uber Eatsなどデリバリーでも注文できて、2020年夏からアイスコーヒーにも対応。2020年の「日本パッケージングコンテスト」に入賞したということで、プロジェクトの進行管理を担当した、リテイルファイナンス部の加賀美春奈さんに、この商品の開発をご一緒した、レンゴー株式会社でパウチ開発を担当いただいた石塚由樹さん、外箱の開発者である長峯道代さんを交えて、コーヒートラベラーが生まれるまでのバックストーリーを伺いました。
【10年越しの商品化。30サンプルからたどり着いたひとつの形】
■ 「日本パッケージングコンテスト」の入賞、うれしいですね!スターバックスの商品でパッケージが注目されること自体珍しいですが、このコンテストでは、どんな点が評価されるのでしょう?
--長峯さん エントリー制のアワードで、過去1年間に世の中に出たパッケージに対して、設計面や機能が優れているかに加え、使い勝手や環境への配慮など様々な側面から評価されます。今回は、スターバックスさんと共同で飲料包装部門賞を受賞することができました。
■ 一見四角い箱のシンプルな形状ですが、実は様々な工夫が凝らされていますよね。このプロジェクトスタートの経緯を教えてください。
--加賀美さん このコーヒートラベラーのプロジェクトが始まったのは、2018年です。もともと、デリバリーや持ち帰りを強化しようという取り組みの中で、そういったオケージョンと相性が良くて目玉になる商品を開発しようと、通常の商品開発のプロセスとは別のチームが組まれたんです。
私は普段は数字を分析し、レポートする仕事を主にしているんですが、当時所属していた部署がこのプロジェクトを推進することになり、負けず嫌いの性格もあって、せっかくのチャレンジだからとメンバーに加えてもらいました。数字担当なのかなと思っていたら、いつの間にか商品開発にどっぷり関わることになっていました。
はじまりは、先輩パートナー(従業員)が、アメリカではこんな形の商品があるよと、段ボールでできたジャグ型の容器の写真をもってきたところからです。実は一部の海外マーケットでは、すでに長い間販売されているもので、社歴の長いパートナーなら知っている存在だったのですが、日本ではなかなか安全面の担保や商品戦略の関係で、10年前から話題に上って開発を試みては途中で頓挫となり、実現しませんでした。だからこそ、絶対世の中に出してやる!とひそかに思っていました。
【細部に散りばめたこだわり。安全で、機能が充実したMade in Japan】
■まさに10年越しのプロジェクトだったんですね。レンゴーさんとご一緒することになったのはなぜでしょう?
--加賀美さん この商品は外箱、そして、中にコーヒーを入れるパウチが必要です。その両方を実現できるところとなると、あらゆる包装を扱っているレンゴーさんがいいと社内の推薦があり、お願いしました。外箱、パウチそれぞれで開発チームを編成してくださって共同での開発がスタートしました。
--石塚さん Made in Japanの日本のマーケットに合ったものを作ろうということで始まりましたが、とにかく納期が短かったんです。今回は、直接熱い飲み物を入れる容器ということで、絶対に火傷などが起こらない安全なものでなくてはならないし、保温効果や漏れないことも大切です。ワインなど冷たい飲料用の容器は世の中に存在しますが、熱いコーヒーを、それも工場のラインなどではなく、店舗でスタッフの方が充填するこのサイズのものは今まで社内で取り扱ったことはありませんでした。社内でも試験基準がなかったので、悩みましたし、ディスカッションを重ねました。
--長峯さん 一方、開発期間が短かったことで、レンゴーとしても集中的に設計に取り組むことができました。先輩社員が設計をリードしていたんですが、すごく集中してやっているので、短期間に生み出されるアイデアから学ぶことも多かったです。横長の形状だったり、注ぎ口の位置を変えたものや取っ手の形の違うもの、フードを一緒に収納できるタイプのものまで30パターンぐらい作りましたね。
■30パターンから選んだ末、かなりシンプルなものに行き着いたのでは?
--長峯さん 実は細かいこだわりがたくさんあります。まずは、バリスタの方がコーヒーサーバーから注ぐときに、ちょうどよい箱の高さかどうかですね。持ち運び時に注ぎ口が下にならずに済むので、漏れの心配がないこと。中に入れたコーヒーが最後の一滴まで無駄なく注げるように底面に傾斜をつけるなど、細かいこだわりは随所にあります。
--加賀美さん 箱の高さはミリ単位で調整をお願いしました。私はもともと学生時代に銀座のスターバックスでアルバイトしていて、オフィス街ということもあり、大容量のコーヒーのニーズを感じていました。スターバックスには魔法瓶式のポットにコーヒーを入れてご提供する「ポットサービス」が以前からあるのですが、どうしてもお客様へポット返却の手間をとらせてしまうし、魔法瓶は既製のものなので、高さがあってサーバーから抽出するとき少しやりにくいんですよね。その時感じていた課題も、一から作れるこの機会に絶対クリアしたいと思ってこだわりました。味も当社のコーヒースペシャリストにテイスティングしてもらって、おいしさを維持できることも確認済みです。
【試験、試験、試験・・・。苦労の末に確保した安全性】
■ 一番苦労したところはどこですか?
--長峯さん やっぱり繰り返し行った試験ですね。熱湯を入れたサンプルを100個用意して倒してみたり、激しく振ったり、落としたり、さらには逆さにしてしばらくおいて漏れないか、中の袋が飛び出ないか、など品質面のチェックを繰り返しました。最初はコーヒーを入れていたんですがもったいなくて、お湯で代用しました。使う量は、200リットル以上なので、お湯を沸かすだけでも一苦労でしたね。
--石塚さん パーツごとでも覚えてないくらいたくさん試験しましたね。数が多すぎて2フロアに場所を分けてプロジェクトメンバー総出でやりましたし、他部署の人や新卒の子とかに使い勝手も試してもらって、率直な意見をもらいました。実際、切り込みの長さを変えたりなどの細かい改良を重ね、安心して納品することができたので、苦労はしましたが大事なプロセスです。
--加賀美さん 全国展開前には、いくつかの店舗でもテスト販売をしました。オペレーションを確認し、問題なくパートナーが取り扱えるかチェックしました。ミリ単位でこだわった箱の高さに対して、「ちゃんと店舗のオペレーションが分かっている人が開発したんだね。商品に愛を感じた!」と言ってもらえて本当にうれしかったです。店舗経験が活きました。
お客様には使用後に分解しづらいというお声もいただいたので、リサイクルなどに回しやすいように、容易に分解できるようにしたのも意識したところです。
【デザインに込めたスターバックスらしさ】
■持っていてワクワクするものであることもスターバックスの商品としては大事にしていますね。
--加賀美さん はい。店外でもスターバックスを感じてもらえるデザインにしたいね、と話していました。このトラベラーは、持ち運ぶときは漏れを防ぐために、注ぎ口を上向きにして持ち、注ぐときには、箱をひっくり返して使用します。ロゴは逆さにしたくないから、あえて丸いサイレンのロゴマークを入れていないというデザイナーのこだわりもあります。お客様にも斬新でスターバックスらしい商品だね、とポジティブなお声をいただいています。
--石塚さん デザインが載ったら、ただの茶色の箱だったものに命が吹き込まれてすごくワクワクしました!発売後は社内でインスタを確認して盛り上がったんですよ。コメントも全部読みました。私が通常取り扱う袋の世界は設計から完成・販売までに6年と長くかかるものが多いので、短期間でお客様の反応が直に見られる商品に携われたことは、素直にうれしかったです。
--加賀美さん 環境面に配慮した素材を使うという点も重視しています。リサイクル紙の段ボールを使っていますし、分解しやすく中のパウチも含めて、リサイクルできることにもこだわりました。
■ 人々のライフスタイルも変わり、利用シーンもさまざまです。これからへの期待はありますか?
--加賀美さん ビジネス会議などの目的の方も多くいらっしゃいますが、最近は、ドライブスルーでよく売れていて、家族のピクニックなどにも利用されているようです。もっともっとたくさんのお客様に知っていただいて、スターバックスのコーヒーを楽しんでもらえたらそれがレンゴーさんへの恩返しにもなるかなと思っています。
--石塚さん そうですね。コロナの影響でライフスタイルが変化しているので、私もビジネスシーンだけでなく、世代広く、ファミリーなど気軽に使ってもらえればと思っています。
--長峯さん 開発途中、加賀美さんのこのプロジェクトにかける情熱が伝わってきて、私たちもそれに触発されてよい作用が起きて両社一丸となってここまでこぎつけられたことをうれしく思っています。思い思いの場所でコーヒーを囲んで、大人数で一緒に飲めるのは人の輪も広がりますし、今は特に貴重なことですね。願わくばですが、色々なサイズ展開ができたら、様々なシチュエーションでもっと使っていただけるかなと思いますね。
2年前、スターバックスの社内で情報収集を始めたとき、10年の挫折の道のりを知っていた他部署のパートナーの腰は重かったそうです。そこから、先輩社員に背中を押され、一人、また一人と巻き込み、社内だけでなく、社外にも仲間が増えました。それぞれの専門性と情熱が集結した今までにない商品として形になったことが何よりもうれしいと、はじける笑顔で語る加賀美さんが印象的でした。
コーヒーを囲む時間は、会話を生む時間。リアルなふれあいが難しくなった今、大切な人や仲間と、コーヒー一杯が紡ぎ出すゆとりある時間を分かち合ってみてはいかがでしょうか。心と心の距離はもっと近く、きっと心あたたまるひとときがそこにはあるはずです。