AMU TOKYO – なぜ人生にはアートが必要か?
2020年9月24日、東京・中目黒「スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京」の「AMU(アム)インスピレーション ラウンジ」で第4回目となるAMU セッションが開催されました。
今回のテーマは「アート」。スターバックスが何故アート?とお考えになるかもしれませんが、実はスターバックスの店舗には様々なアートがあります。コーヒーを彩るアート、その一つ一つが、若手アーティスト、障がいのあるアーティスト、地域の皆さんとつくりあげたものなど、多様性にあふれています。
セッションでは、Takramコンテクストデザイナー渡邉康太郎さんのモデレートにより、遠山正道さん、小松隼也さん、小谷くるみさん、ライラ ハセムさん、岩渕貞哉さんといった多様なスピーカーが「なぜ人生にはアートが必要か?」意見を編み上げました。その様子をお伝えします。
■スピーカー、モデレーターと「アート」
今回のセッションも、ロースタリー 東京のバリスタがサーブする一杯目のコーヒーから、自己紹介とともにはじまりました。
ライラさん「肩書はデザイナーとアートディレクターと大学研究員をやっています。社会の見えない現場、例えば障がい者施設だったり精神障がいの方の作業所で働く人の中でアートの志がある人たちを、まずアートの文化への興味を芽生えさせて、デザイナーやアーティストとつなげて、その人たちが、より文化的にも社会的にも経済的にも、社会の一員になれるようなプロジェクトを企画したり、ディレクションしたり、それが商品やイベントにつながるようなものをやっています。今日は、“アート作品がなぜいいのか”ということよりかは、“人々にどのような意義を芽生えさせるか”っていうことを、主に自分の活動を通して話せたらいいなと思っています」
遠山さん「スープストックトーキョーやパスザバトンなどをやっているんですが、今はThe Chain MuseumとかArtStickerっていう新しいビジネス、そちら中心に取り組んでいまして、非常に楽しくやっているんだけれども、一方で、思ったようにうまくいかない場面もあったりします。一般の鑑賞者とアーティスト。アートの場面。あるいはコミュニケーションみたいなところって、なかなか難しい悩みもあったり。そんなのも、むしろ私が学ぶ機会にもなったらいいなあ、なんて思いながら来ました」
小松さん「弁護士の小松隼也と申します。弁護士として、わりと著作権だったりギャラリーやアーティストの顧問を多くやってたり、国の仕事もさせてもらっているんですが、あんまりプロフィールに書いてないことで言うと、2年間ニューヨークにロースクールで留学してたんですが、そのとき作品を買い過ぎて、お金がなくなって家を追い出されてしまってですね。1年間、実はアーティストのスタジオを転がり回ってた頃がありまして。本当に1年間、アーティストだったりキュレーターだったりと生活を共にしたことがあったので、そのときにすごく感じた、“アートが人生になぜ必要か”とか、アーティストから影響を受けている考え方とかを、今日は話せればいいかなと思っております」
岩渕さん「美術手帖の編集長をしています、岩渕です。美術手帖の編集部に入って、17年になります。日本では、2000年代にはいって、奈良美智や村上隆といったスターの誕生や横浜トリエンナーレ、森美術館ができたことで、若い人を中心に広がってきたのを実感しています。近年は、美術鑑賞から一歩踏み込んで、生活の中でアートに触れてもらいたいと思い、アートのECサイトを立ち上げたり、アートマーケットをつくっていくような活動に力を入れています」
小谷さん「京都造形芸術大学の修士を3月に卒業したばかりで、今、現代アーティストをやっております、小谷くるみと申します。今回は、作り手として作品の魅力を少しでも伝えれたらいいなと思って来ました」
渡邉さん「デザインの仕事をしています。コンテクストデザイナーという肩書を名乗っていて、世の中の一人ひとりが携えている小さな物語──私が「弱い文脈」と呼んでいるもの──が、どんどん世の中に出ていくといいなと思っています。それが社会を形作っていく、社会を彫刻していく。デザインを通して、デザイナーの意図を伝えるのではなく、社会の一人ひとりの声を聞きたい。デザインをそのための媒体にできないかなって、日々考えています。」
「アートの何を、携えて」今日きてくれたのか、それぞれの多様な視点が語られました。
■アートに存在する“壁”とは?
「私、アートが分からない」このブログを読んでいただいている方々も、こう思われている方が多いかもしれません。それに対して、遠山さんはこのように語りました。
遠山さん「8割ぐらいの人が『私、アート分からないんですけど』って言いますよね。そう言いたくなる気持ちも分かるんですが、すごくもったいないし。でも、その気持ちがあるから、一回、向こう側に行けちゃうと、向こうの人みたいになれるみたいなところもあって」
ライラさん「施設で、リンゴを描いてる人が青くリンゴを描いていたら支援員が『それ違うよ』って言うんだけど、私からしたら青いリンゴを描いてることが、すごいすてきだから、 『大丈夫だよ。正解。アートは人のできることを可視化することしかしないから、正解は、ないんですよ』って。『その人の自己表現が一番、大事だから』って言うと、みんな、すんなり受け入れてくれて。一般の人でも同じで、アートを理解するのにめちゃくちゃ模範用紙みたいなのがあって、それを全部覚えなきゃアートを理解できない、みたいな勘違いをしちゃってて。感じるもので、いいんだよっていう。入り口さえ良くしていけば、それって打破できるんじゃないかなって」
遠山さん「私、よく言うのは、ビジネスって4コマ漫画みたいなもので、入り口があって落ちがあるから前後を一生懸命、考えるんだけども、絵って、ただの絵でしかなくて。だから『物』として、いいな、みたいな。好き、みたいな。それで全然いいっていうのが私の見方、感じ方なんですね。そこにコンテクストがあれば、なお楽しい」
渡邉さん「そうですね。多分、このイベントと同じで、正解とか結論を求めるためのものじゃない」
アートに答えはなく、自分が見たまま感じたままでいい。アートに深く携わる方々からの言葉を聞いて、今までよりも気軽にアートを楽しめそうな気がしました。
■「今伝えたいアート」
2杯目のコーヒーが配られると、モデレーターと参加者が用意した「今伝えたいアート」についてトークが交わされました。
参加者「作品ではないんですけど、ニューヨークにある1平米のギャラリーです。本当に入れないような狭さで、都市のクローゼットみたいに存在しています。都市にそのクローゼットが1個あることによって、それまでただの道路だった空間が、みんなのためのリビングみたいなものに読み替えられるなと思っています。自分は建築が専門で、まちづくりとアートについて研究したり勉強したりしているんですが、都市と切り離されてアートがぽんと置いてあるのは、あんまり共感できません。それまで普通にあった場所がみんなのためのギャラリーになるのが好きだなと思って紹介しました」
渡邉さん「ArtStickerやThe Chain Museumも、人ともの、人と場所のつながりを作る取り組みなのかもしれませんね」
遠山さん「そうですね。The Chain Museumは、『ちっちゃくてユニークなミュージアムを世界にたくさん』って言っているんですけど。風車の上にあったりとか、レストランでパフォーミングアーツがあったりとか。日常の中に、突然現れるみたいな。さきほどの、『都市の中のクローゼット』っていうのは、すごく、なんか悔しい言葉。それ言いたかったな。要するに、それがあることで周りに意味合いが生まれる、という感覚ですね」
■変容するアートやアーティストとの関わり方
3杯目の最後のコーヒーがサーブされました。
渡邉さんの「ここからは同時多発的にそこかしこで対話が生まれるような時間を取ろうかな」という合図のもと、モデレーター、スピーカー、参加者、全員が参加して、それぞれがもつアートに対する考えを交わし合いました。
しばらく経った後、渡邉さんからの「各サークルで、それぞれ盛り上がったようですね。小松さんの周りではどのような話がありましたが?。」という呼びかけを受けて、小松さんから非常に興味深い話が共有されました。
小松さん「作家さんとの交流の話なんですけど、最近インスタとかFacebookで普通に作家さんとつながれるようになったじゃないですか。それこそ、小谷さんは3年前ぐらいに知り合ったんやっけ」
小谷さん「そうですね。3、4年前でした」
小松さん「3年ぐらい前に、大学で著作権の講義があって行かしてもらったときに作品を見かけて。めっちゃいいなと思って。そのときから交流してたんですけど。Instagramをフォローして。そんなにしょっちゅう会うわけじゃなかったんですけど、彼女の作品がどう変わっていくかって、ずっと見てたんです。だから、痕跡っていうのが好きなんだなとか、ホラー映画、好きなんだなとか、ちょいちょい出てくるから。それが作品に透けて見えたりとか。美術館まで行かなくてもいいし、本、読まなくても分かるようになってきたんで、作品だけじゃなくて作家さんとの付き合い方がソーシャルメディアでできるようになったってのは、時代の変化だし、それによってコレクターは情報も得られるし。買いたくなるっていうのは、そこから来ているなっていうのを、今、話しながら再認識したところがあって」
渡邉さん「いいですね。作品そのものに惚れる場合と、アーティストやアーティストの中から湧き起こるもの全体に惚れちゃう場合と、どちらもありますもんね」
小松さん「ありますね。本当にそれは両方ですね」
時代と共に、アート、アーティストとのつながり方も多様に変化しているのかもしれません。
最後にモデレーターの渡邉さんは、「ここに集まってる人は、何かしら仕事としてアートに携わっている人が多いようですね。お話を聞くと、「アート」と「他の何か」の境界を紛らわすような仕事にみなさん取り組んでいる。そういった仕事を通して、アートに興味がなかった人も、いつの間にかアートの当事者になってしまう──そんな状況をつくり出している。アートのあり方をどう拡張できるか、というのが今日のテーマだったのかもしれませんね」と締めくくりました。
「アート」が人生に必要な理由はひとそれぞれ。
「アート」は、このAMU セッションと同様に、正解や結論を求めるものではなく、自分が感じたままでいいという。多くの人がもっている「アートが分からない」というその気持ち。コーヒーを飲みながら、ふと眺めたアートでちょっと心が豊かになったり、会話のきっかけになったり、スターバックスがそんなきっかけになればいいなと思いました。
スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京