遠くタンザニアの地から想いをつなぐ


サステナブルで高品質なコーヒーを提供するため、生産者との信頼関係を大切にしてきたスターバックスは、生産地とのつながりを感じながらコーヒーを楽しんでほしいとの想いから、9月8日から10日の3日間と、毎月20日に『Ethically Connecting Day〜エシカルなコーヒーの日〜』を実施しています。

何年もの歳月をかけて育てられ、遠く異国の地で、何年もの歳月をかけて大切に育てられ、丁寧に摘み取られたコーヒー豆が、私たちが味わう一杯のコーヒーになります。今回は、世界的にも有名なキリマンジャロの山がそびえるアフリカ・タンザニアから、ひとりの女性の想いをお届けします。

果てしなく壮大な自然が広がるタンザニア

東アフリカに位置するタンザニアは、東北部にアフリカ最高峰のキリマンジャロ、北西部にはナイル川の源流となるアフリカ最大の湖のビクトリア湖があり、大部分は多くの野生動物が生息する草原地帯サバンナが広がっています。タンザニアの豊かな土壌で作られるコーヒーは独特の酸味と柑橘系の風味のバランスが良く、一番の輸出作物となっています。その生産の90%以上は小規模農園により成り立っています。

そんなタンザニアに、スターバックスの「ファーマーサポートセンター」が開設されたのが2011年のことです。そして、そこにはコーヒーの品質と生産量を保つために重要な役割を担うひとりの女性がいます。アグロノミスト(農学者)のバハティ・ミィウィロさんです。

知識や想いを伝えて、人々をサポートすることが喜び

バハティさんは、「タンザニアの未来のために、農産品の加工や保存の技術を向上させていかなければいけない」と感じて、農業大学でフードサイエンス&テクノロジーを学びました。その知識を使って、何かしら地域の生産者をサポートしていきたいと考えていたそうです。

「まさかコーヒーに特化して携わるとは思っていなかったのですが、タンザニアのコーヒー産業にはまだまだ改善や拡大の可能性があると知り、生産者をサポートできることがたくさんあると感じたのがきっかけです。コーヒーの品質についての知識が十分ではない生産者も多く、品質自体を高めていく余地がまだまだあると思いました」

コーヒー生産に関わるようになって12年、サステナブルなコーヒー生産を実現するだけなく、生産者と密接に関わり、タンザニア女性の社会進出を先導する存在でもあるバハティさん。生産者がより高い品質のコーヒーを作りながら収穫を増やせるように、日々トレーニングやワークショップを行なっています。

「タンザニアの生産者たちは、“コーヒーの品質”と言われると海外の人がやってきて、専門用語を多用して難しい話をされるんじゃないか、何かちょっと怖いなというイメージを持っていたんです。でも、私のような地元の女性が話すことで、分かりやすく伝えて理解してもらえるようになりました。生産者自身が、おいしいコーヒーとはどういうものなのかを理解してから自ら作ったコーヒーを味わうことで、その品質をさらに高めていくことができます」

今でこそ、生産者から厚い信頼を得ているバハティさんですが、ビジネスに関わる女性が多くないタンザニアにおいて、生産者を引っ張っていく女性は稀有な存在です。アグロノミストになった当初は男性社会の中で信頼を得ることに苦労した時期もあったと言います。

「特に農村部でたくさんの男性を前に話をする時など、最初は若い女性だからという理由だけで話をちゃんと聞いてもらえないこともありました。でも、デモストレーションなどをして実際の結果を見てもらうことを心がけ、トレーニングやアドバイスをする時も、常に具体的な数字や実践の結果を伝えたことで徐々に信用してもらえるようになりました。

時間と共に私自身のことも知ってもらって、今では生産者のみなさんからいろいろ聞いてくれるようになりました。最近では他の女性のアグロノミストも活躍していますが、もっと女性がコーヒー生産の重要な役割を担えるように、私たちのファーマーサポートセンターは、女性の社会進出をサポートするプログラムを実施しています」

子どもの頃から何かを教える仕事がしたいと思っていたバハティさん。「自分の経験や知識を共有することがすごく好き。特に小規模農家のみなさんをサポートできることはやりがいです」と笑顔を見せます。まさに夢に描いた通り、バハティさんの言動はタンザニアの生産者や女性を勇気づけています。

コーヒー栽培をサステナブルな産業にするために

そもそもコーヒー栽培というのは、種子であるコーヒー豆を収穫できるまでに3〜5年という歳月を要します。すぐに収益化できないため、新規参入のハードルが高く、生産者の高齢化が進んでいます。

「若い人たちはどうしても早く稼ぎを手にしたい人が多いので、若者の意識改革が大切。コーヒーは収穫までに時間がかかりますが、その後は長期的に安定した収穫ができるので、具体的な数字を交えてコーヒー生産の魅力を伝えています」

そうやって新規参入した生産者たちに、サステナブルに仕事を続けていってもらうためには、生計を立てていけるようコーヒーに関するさまざまな知見を共有していくことが大切です。バハティさんは、自分自身でも小さなコーヒー農園を持っていて、そこで得た実践的な経験をもとに重ねた研究結果や情報を生産者と常に共有していると言います。

「私たちが目指しているのは、生産者が“より良い方法”でコーヒーの生産をしていけることです。生産者の方々も、これまでの経験からいろんな知識を持っていますが、世界はとても早いスピードで変化しています。農法や技術革新もどんどん進んでいるので、新しい技術を取り入れるサポートもしているのです」

より良い循環がもたらす
未来へのポジティブなインパクト

スターバックスでは『C.A.F.E. プラクティス』という購買プログラムを通して、生産者の収益や社会を守りながらも、同時に地球環境に配慮したコーヒー豆の調達を行っています。ただ品質の良いコーヒーを作るだけでなく、生産者の生活や地域の経済、そして環境面も考慮し、全てがより良い循環のもとにおいしいコーヒーが出来上がっていくための舵取りするのもバハティさんの役目です。

「アグロノミストとして私が一番大切だと思っていることは、きちんとみんながインパクトを感じられること、より良い影響がみんなに及ぶことです。私が日々やっている仕事の前向きな結果として、生産者みなさんのコーヒーがどんどん育って、なおかつ、社会に対してもポジティブなインパクトを与えて社会を変えていくことが大切だと思っています」

近年は、コーヒー産業も気候変動の影響を受け、新たな問題が起きています。そんな中でもバハティさんは、状況を常にリサーチし、コーヒー品質と安定した生産のために新たな救済策を見出しています。

「特にここ1,2年は気候条件が大きく変わってしまいました。害虫や干ばつに強い種の苗木の提供や、豪雨に耐えられるような技術のトレーニングなどを行って、気候変動の影響をうまくコントロールできるようなサポートを行っています。気候変動は確かに大きな問題ですが、それでもタンザニアコーヒーの未来は明るいと思っています。

これまでこの仕事をずっと楽しんでやってきましたし、辞めたいと思ったことは一度もないです。むしろ、コーヒーについて学ぶことがどんどん出てくるので、常にもっともっと学びたいという気持ちです。これからも私がみなさんに共有できることはまだたくさんあると思っています」

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“Haraka haraka haina baraka. Pole pole ni ndio mwendo”

(急ぐことは幸運をもたらさない。ゆっくりこそが本当の歩みである)

これはタンザニアの有名なことわざで、いつもみんなが口にしている言葉。タンザニアでは都市部でも通りすがりの人と立ち止まって話したり、親しい人と会った時にはゆっくりと手を取って握手をしたりと、人と出会い、交流する時間をとても大切にしている文化だと言います。どんどんと効率が最優先されている現代社会において、遠く離れた異国の地で3〜4年もの歳月をかけて育まれたコーヒーを、時には時間を忘れ、タンザニアの大草原にたたずんでいる気持ちで、ゆったりと味わってみてください。

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桜島を眺めながらコーヒーを。受け継がれるパートナーたちの想い(鹿児島県)前編