スターバックスの環境リーダーシップと気候変動対策、リスクを希望に変える環境づくりとは


スターバックスが目指す「地球にも人にもやさしいコーヒーづくり」。独自の認証ガイドライン「C .A .F .E. プラクティス」を通して、高品質かつエシカルでサステナブルなコーヒーを作り続けるための取り組みをシリーズでお届けします。 
第2回は「環境面でのリーダーシップ」。気候変動の影響で、いずれコーヒーが飲めなくなるかもしれないという危機もある中、「環境とコーヒー」は決して切っても切れない関係です。
 そもそも、コーヒーの木はとても繊細な植物で、雨量や日当たりなどの細微な変化に敏感なため、育てるのに適した環境が限られています。スターバックスは世界10ヵ国の生産地に、高品質なコーヒーを生産するための環境整備や生産者支援を行うファーマーサポートセンターという施設を置き、生産者とともにコーヒーを取り巻く環境を守っています。コロンビアのファーマーサポートセンターでアグロノミスト(農学者)として働くリリアナ・アランゴさんに、生産地での日々とコロンビアでの環境の取り組みについて伺いました。

子どもの頃から尊敬する生産者たちのために 

世界有数のコーヒー生産国として知られるコロンビア。その中でも「コーヒートライアングル」と呼ばれるコーヒーの生産が最も盛んな地域のひとつ、マニサレスで生まれ育ったリリアナさん。かつて祖父はコーヒー農園を所有していました。


「私は子どもの時からコーヒーと一緒に育ちました。大人になってどんな仕事をしようかと考えた時、コーヒー農園の風景や収穫の作業を眺めていた日々のことを懐かしく思い出す自分がいました。


私はコーヒー生産者たちをずっと傍で見てきて、彼らをとても尊敬しています。生産者たちがコーヒーを愛し、希望を持って協力し合って課題も解決している姿を見て、私もその一員となって一緒により良い未来を築きたいと、いつしか考えるようになったんです」

コロンビアをはじめ、多くの生産国では長い歴史の中でコーヒー生産はずっと男性の仕事でした。祖父が亡くなった時、祖母が経営を受け継ぐという選択の余地はなく、農園は売却。リリアナさんが大学でコーヒーの勉強をしたいと言った時にも周囲には反対されたと言います。 
入学後のクラスでも女性はただひとり。ここ10年ほどでその状況は少しずつ変わってきましたが、男性主導のコーヒー業界の中で信頼を得るために、必死で優秀なアグロノミストになる努力をしてきました。 


「アグロノミストを目指したのは、私が尊敬する生産者たちのために、コーヒーの生産を安定させる管理の方法や生産性を上げるための肥料の与え方などを研究して、彼らに還元したいと思ったからです。


周りにはいろいろ言われましたが、自分の意思を貫いて良かった。その結果、スターバックスにも入ることができ、志を同じくする仲間と出会えました」

一社の利益ではなく、地域全体で考える環境づくり 

リリアナさんは朝5時半に起きてコーヒーを一杯飲んだ後、カーブやアップダウンの激しい未舗装の山道を2時間かけて運転し、週に何度も山深い森の中にあるコーヒー生産地を訪ねます。想像しただけで大変な道のりですが、「緑豊かな山に囲まれていて、美しい川や花、動物に出会えます」と穏やかにほほ笑みます。 

たどり着いた先には、100名ほどの生産者が彼女たちのトレーニングを受けるために待っています。 


「先日のトレーニングでは、土壌の栄養や肥料の話をしました。どのように土壌の栄養を高めていくのか、そしてどうやってコーヒー豆そのものの栄養を高めていくのかをレクチャーし、土壌分析のサンプルの取り方も教えます。土壌の栄養を考えることでコーヒーの栄養分を高めることができ、収穫量が増え、さらに品質を高めていくことができます」


自然環境を活かしながらコーヒーづくりの環境を整えるためには、地域全体の協力が不可欠です。トレーニングの参加者は、スターバックスに関わる生産者たちだけに限定することなく、輸出業者や生産者組合の方たちなども含め、その地域のコーヒー生産に関わるあらゆる人たちが、リリアナさんたちの話に耳を傾けます。 


「私たちは、スターバックスだけでなく、コーヒー生産のサプライチェーン全体に貢献をしていくことを心がけています。もちろん私たちもパーフェクトではないので、サプライチェーンのチームの一員として、 お互いのリソースを活用し合って情報を共有し、一緒にベストなものを構築しようと努力することで、より大きなことができると思っています」 

生産者協同組合のサステナビリティ&アグロノミーチームの皆さんと 

コーヒーに降りかかる様々な環境問題と向き合い続けて

スターバックスに入社して8年、アグロノミストになってからは16年。持続可能なコーヒー生産への重要性は年々増しています。 

「いま一番の課題は『気候変動』です。 気候変動によって、コーヒーの生産者は生産計画を立てにくくなっています。太陽の日照条件が変化して生産に影響が出たり、気候の変化が害虫や病気の蔓延に繋がったりという問題があります」 

コーヒーの木は寒さに弱く、生息地は年中気温が一定で温かい赤道付近に集中していますが、同時に強い日差しを苦手とします。気温だけでなく、適度な日陰があって湿度や水分が十分確保されていることも、おいしいコーヒーを育てるためにはとても重要なのです。

 
また、葉にカビが付着する「さび病」の増加は特に深刻で、感染力がとても強く、たった一本の感染した木から一気に農園中へと広がって、一年の収穫すべてが失われてしまいます。 


「私たちは、日陰を生み出すための樹木や、スターバックスで開発した『さび病』に強い苗木を生産者に無償提供するプロジェクトも続けています。私たちとの取引があるかどうかは関係なく、地域の生産者すべてを対象に、コロンビアではすでに4300万の苗木を寄付しました」 

スターバックスでは、気候変動の対策として、2030年までに達成する3つのサステナビリティ目標があります。ひとつは 「生産に必要となる水の消費を 50パーセント減らすこと」。そしてもうひとつは「CO2排出量の削減」です。 


「水の消費を減らすためのプロジェクトとして、コーヒーの皮を取るための機械を生産者に提供しています。元々1キログラムあたりのコーヒー豆を処理するのに40リットル の水が消費されていましたが、この機械を使うことで0.5リットルまで減らすことができます。また、バイオ技術によって土壌の不用物を分解する微生物を活用し、土壌のCO2の削減を試みるイノベーションも行っています。 


こういった取り組みを加速させないと、気候変動によって今コーヒーが生産できている場所で生産できなくなるリスクがあるんです。でも希望はあります。そのリスクが現実にならないように私たちにはまだまだたくさんできることがありますから」 

コミュニケーションは、いつもコーヒーとともに 

世界10ヵ国にあるファーマーサポートセンターは、それぞれの生産地の特徴や気候を考慮し、高品質なコーヒーを生産し続けるための最適な環境づくりを行っています。その中で、リリアナさんは生産者とのコミュニケーションをとても大切にしています。

 
「山の奥地にいる生産者たちには情報がなく、かつては生産性や収益性を上げるためにどうすればいいのかを知りませんでした。そのような生産者やコーヒー産業に携わる方々に対して、しっかりと正しい情報やメッセージを届けることが私たちの役割だと思っています。それは政府ができるようなことではなく、生産現場にいる私たちだからこそできることなんです。 


今は生産者たちの意識もずいぶん変わってきました。それがサステナブルな環境の改善につながってきています」 


環境整備のプロジェクトは同時に多数進行していますが、アグロノミストの仕事はそれだけではありません。他にも、「女性支援」として、リリアナさんの祖母のように農園を所有していた夫を亡くした未亡人がビジネスを引き継げるように手伝ったり、紛争が起こったコーヒー生産地の復興を助けるために数万もの農園の土壌分析を行ったりと、技術開発だけでなく、包括的な環境整備とトレーニングを行っています。 

「さまざまなプロジェクトの中で最も重要なのは、トレーニングです。どんなに良い苗木を寄付しても、支援にどれだけ資金を使っても、結局生産者の皆さんが実践しなくてはまったく意味がないですから。

 
例えば、ある肥料の存在を知っていても、正しい与え方を知らなければ何もなりません。その肥料のやり方を学ぶことによって、その良さを長期的に活かすことができます。そうやって考え方を根付かせていくことが大切なんです。なぜなら、知識は自分だけでなく、子どもや孫の世代まで継承できますから」

 
コロンビアの公用語であるスペイン語には「caficultura(コーヒーと文化)」という言葉があり、遥か昔からコロンビアの交流の場には、いつもコーヒーがあったと言います。一日の始まりと終わり、家族や友人と会う時、仕事仲間とのミーティング、どんな時にもそこにはコーヒーがありました。 


子どもの頃からコーヒー生産の傍にいたリリアナさんにとっても、コーヒーは人生そのものです。「将来は自身のコーヒー農園を持ちたい」と願う彼女もまた、世代を越えて想いを受け継いでいるひとり。コーヒーへの深い愛情を持って、まっすぐに突き進んでいます。 

thumbnail for スマトラ島で感じた、一杯のコーヒーの背景にあるもの。

スマトラ島で感じた、一杯のコーヒーの背景にあるもの。