人と人とをつなぐ。スターバックスのアートの力


スターバックスの店舗では、サイレン、コーヒーチェリーやコーヒー生産地などが様々なアートで表現されています。これらは、居心地の良い空間をつくる大切な要素です。どうしてアートを取り入れているのか、また、そこから広がるつながりとは…アートが生み出すストーリーをお届けします。

アートは人の心を豊かにするもの

「アートは、コーヒーと同じく人の心を豊かにするもの。かつ、不完全さや感情を含む人間らしさのあるもの」とは、店舗設計を担当するストアバリューエレベーション本部 ストアデザイン・コンセプト部の部長・江藤さんです。

店舗に展示しているアートの多くは、スターバックスのMISSIONに共感していただいたアーティストに、スターバックスをテーマとした作品を依頼。アートは、米シアトルの専任チームが若手アーティストを中心に依頼して一元管理し、全世界で共有・使用しています。

店舗全体のレイアウトや空間構成を考えるとき、空間をつくる大きな要素としてアートと向き合います。

「木やコンクリートなどをはじめ素材をどう扱い、その良さをどう生かすか考えて使うことを、『素材をセレブレートする』と表現しています。アートや素材がそれ単体だけでなく店内のデザインとマッチしより良いものとして世に出してあげるという意味合いですね」。お客様やパートナー(従業員)が見る位置、そしてそこから受け取るストーリーを想像し、“人々の心を豊かにし活力あるものにする”ための空間を生み出しているのです。

地域のために。一人ひとりが考え、実行する

「スターバックスは、地域とのつながりを、店で主体的につくっていくことが認められています。私たちストアデザイン・コンセプト部も“地域に溶け込む”ことを重要視しています」と江藤さん。そのために、出店の際はまずその地域を知ることから始まります。

その地域で暮らす人、育まれている文化などをチームで共有し、設計の担当者が「表現におけるキーワード」「環境への配慮」「地域との関連性を考慮」「常に進化していく」ことや区画の条件に基づき、デザインします。しかしそこにルールはなく、担当者一人ひとりが考え導き出していくのだと江藤さんは語ります。

「どのようなアートを取り入れ、どのような店舗にするのか、最低限のガイドラインはありますが、ルールはありません。自分で考えることが大切。それが結果として、新しい表現や方法の発見へとつながります」

例えば、東京湾に面した「横須賀大津店」(神奈川県) 。2階に上がると目に飛び込むのは、木の天井や壁の色や柔らかさと対比するように、大きなガラスの窓枠と広がる海の青。まるで1枚のフレームのように東京湾を取り込み、景色を引き立てています。地域の自然資源をもアートとして生かした、この土地ならではの空間です。

窓の反対側は青いグラデーションにペイント。焙煎機やコーヒーチェリーなどのモノクロの写真やむき出しの鉄骨がインダストリアルな雰囲気を保っています。

時には設計という仕事からはみ出すこともあるそうで、地域の子どもたちと行った工作のワークショップから展示するアートを作り上げたことも。
「スターバックスのパートナーは、自分が成し遂げたいことは何かということを常に考えて、スターバックスにいる理由をそれぞれが持っています。地域を愛し、地域の人々とともに歩んでいく。地域環境を共に考えていくこと。自分のやりたいことであり地域のためになるという想いで、設計担当者が主体的に行動しています」

一人ひとりがその地域と向き合うことで、人間らしさが宿る居心地の良い空間が生まれているようです。

アートの先につながりが生まれる

店舗によっては独自にアーティストに制作や展示をお願いすることもあります。そのひとつが、大分県にある「別府公園店」です。店内のしつらえは、伝統工芸の竹細工で地元の職人が手がけた照明、地元木材を使ったテーブル…。その中でひときわ目を引くのが、2mを超える巨大な彫刻。大分県佐伯市出身のアーティスト、桑原ひな乃さんの作品です。

温泉の街・別府は、フェスなどが開催されるアートの街としても知られています。「設計担当者は、アートをこの街の特徴のひとつととらえ、公園の中という特殊な場所で、地域との関連性のあるものを置きたいと考えました」と、江藤さん。

別府公園店に恒久展示されている桑原さんの作品

「これは卒業制作の作品で、制作活動は学生の時だけだと、悔いのないようにという気持ちで挑んだものです」と、当時はまだ京都芸術大学の学生だった桑原さん。この展示を機に卒業後も制作活動を継続。さらに、この春には、京都、埼玉を経て、ここ別府に活動拠点を移す予定です。

「大分が大好き。これまでの地元を題材にした現代美術から、次は現代美術を通して、地元を知ってもらえるきっかけを生みだせるアーティストになりたい」と桑原さん。

多くの人との出会いが、桑原さんが大分へ戻る決断の後押しとなり、「呼ばれている気がした」と言います。そのきっかけもまた、別府公園店でした。別府をアートの街として浸透させた、NPO法人BEPPU PROJECTの代表理事・中村恭子さんとの出会いです。

「別府公園店の作品を見て桑原さんを知り、ずっと気になっていたんです。そこで、新進気鋭のアーティストが集結する『Art Fair Beppu』を新たに立ち上げるにあたり、声をかけさせていただきました」と中村さんは振り返ります。

BEPPU PROJECTが運営するショップ「SELECT BEPPU」にて

「別府公園は、100年以上前に整備され、戦前戦後といろいろな意味を持ってきたエリア」と中村さん。散歩やジョギングする人が行き交う、市民にとって、ここに在ることが当たり前の日常となっている場所だからこそ、地域に溶け込むのは難しくもあります。

しかし、中村さんは別府公園店の印象を、「今、この街で生きている人たちの空間だと感じる」と表現。

「表面的なことだけではなく、地元に目を向けて一緒にお店を作り上げていこうという姿勢が、空間やパートナーの皆さんから感じられます」と続けます。

オフィス街、ショッピングセンター、駅、観光地…様々な場所に店舗がありますが、みなそれぞれに、その地域に溶け込むようにという想いがあり、その中にアートは存在しています。今日もどこかで誰かの心を豊かにする、その一助となることを願っています。

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「目に見えにくい特徴も大切に」スターバックスが考える『NO FILTER』な社会とは?