一人ひとりが主人公。沖縄の自然を未来につなぐアートプロジェクト
10月4日、スターバックス コーヒー 那覇鏡原店と漫湖水鳥・湿地センターを舞台に、「つなご・みらいアートプロジェクト」のワークショップを開催しました。行政、企業、地域住民とスターバックスが手を取り合い、沖縄の豊かな自然を未来へつなぐ取り組みのキックオフです。自然との共生への第一歩を踏み出した、一日の様子をお届けします。
“守りたい”という想いを持つ人が集まる場所にするために
沖縄県那覇市と豊見城市の境にある漫湖公園に、芝生が広がる公園と一体化した造りの那覇鏡原店があります。漫湖公園はラムサール条約に登録された湿地・漫湖の干潟を囲むように整備されており、都市にありながら豊かな自然が広がっています。

「つなご・みらいアートプロジェクト」は、野生生物の保護、漫湖の保全など啓発、研究、観察活動を行う漫湖水鳥・湿地センター、公園を活用した場づくりを行う株式会社オーエスディー、スターバックスの三者が連携し、漫湖公園を中心に“自然の恵みの豊かさ”を地域とともに育み、未来へつなぐプロジェクトです。プロジェクトの意義を、漫湖・水鳥湿地センター責任者の池村さんが教えてくれました。
「地域の環境と経済、社会、地域の課題を同時に解決していくローカルSDGsという考え方に基づき、地域単位で取り組み、自走する仕組みです。湿地保全を地域の課題としてとらえ、地域がよりよいまちづくりや人のつながりを生む活動のひとつに環境保全を位置づけることで、従来の“湿地を守る”取り組みを、“地域の魅力を発見する”取り組みに変え、楽しみながら環境を守りたいと考えています」
プロジェクトを通して「守るために人を集めるのではなく、“守りたい”という想いを持つ人が集まるような流れに変えていきたい」と語り、従来の枠組みにとらわれない試みに挑戦します。

今回のワークショップでは、マングローブ稚樹抜き体験や、採取した稚樹とスターバックスのコーヒー抽出後のコーヒーかすを材料にした、たい肥づくりの実験などを実施。実行サポートとして那覇市協働大使「たのしむぞ06(おろく)」、沖縄県立芸術大学美術工芸学部と琉球大学の学生有志も加わり、小学生から大人まで地域住民やスターバックスのパートナー(従業員)ら60名以上が参加しました。
子どもから大人まで、みんなで泥んこに
漫湖にはマングローブが生育し、干潮時には泥干潟が広がり、カニや貝類、水鳥など、多彩な生物が暮らしています。漫湖水鳥・湿地センターの前に配された木道からは、それらが間近に観察できます。しかしマングローブ林は、かつて水質改善のために植樹されて急速に広がったもの。
「成長速度が速いため、稚樹を抜いて環境をコントロールすることが干潟の自然を守るために必要です」と池村さん。また、流れ着くプラスチックなどのゴミも課題となっています。
パートナーを含めワークショップの参加者は、胴長長靴と手袋を装着して木道から干潟へと降り、生い茂るマングローブ林の中へ。根元には、たくさんの稚樹が首を伸ばし、周りの水場にはハゼなどの生物が見られます。


池村さんら水鳥・湿地センターのスタッフさんのサポートのもと、ズボズボと泥に沈む足に苦戦しながら、稚樹を根元から引き抜いて集めます。
「土がねばねばしてる~」「あ、カニがいる!」と、元気よく稚樹を抜いていく小学生や、抜いた稚樹を入れたかごを運ぶ人。「きゃーっ」と声を上げて泥に倒れ込み周囲の人たちに救出される姿も見られ、みんな泥んこになりながら、まじめに、そして笑顔いっぱいに作業する姿が印象的でした。





抜いた稚樹は漫湖水鳥・湿地センターへ運び、泥を洗い流して葉だけを那覇鏡原店へと運びます。ここでは抜いた稚樹をたい肥に活用する実験として、マングローブの葉をコーヒーの豆かすと混ぜました。今後は店舗前のコンポストで、発酵の様子を見守っていきます。
地域のよりどころとなるアート作品の制作へ
プロジェクトでは、今後、漫湖や沖縄北部などのビーチに流れ着くプラスチック廃棄物を収集し、それを用いてアート作品を制作します。担当するのは、アーティスト・淀川テクニックさん。その地域に滞在して、地域の方々と交流しながらアートの素材を集めて作品をつくる、滞在制作のスタイルを得意としています。沖縄のビーチに流れ着くプラスチック廃棄物で制作した本部町店のアート・本部フローミーなど、これまでスターバックスとはいくつかのプロジェクトを協働しています。
淀川テクニックさんはスターバックスとのこれまでの活動を振り返り、「地域のみなさんと一緒に作ると、ぼくだけの作品じゃなくなるのが面白いところ」だと語ります。

「漂流物を拾うところから制作まで一緒に行い、店舗に展示してくださっているので、『私があれを作ったんだよ』って、当時制作に参加した子どもが成長してお店に遊びに来てくれている。地域の人みんなの作品になっている。この土地でも、これから作る作品が、地域の方の心のよりどころになるような存在になったらいいなと思います」
制作するアート作品のモチーフは、漫湖水鳥・湿地センターや那覇鏡原店に訪れた人による投票で、クロツラヘラサギ、オオゴマダラ、ミナミトビハゼ、シオマネキの4種から2種を選びます。沖縄県立芸術大学美術工芸学部の学生が手掛けた投票ボードに、イベントの参加者も投票しました。

「投票で決めることで、地域のみなさんにより愛情や関心を持ってもらいたいと思っています」とは、スターバックスの店舗設計担当者・中川さん。プロジェクト始動前からパートナーと稚樹抜きなどに参加し、池村さんらと共に、この土地でできることを模索してきました。
「漫湖を象徴する2つの生物を作り、ひとつを漫湖水鳥・湿地センターに、もうひとつを漫湖公園鏡原側に設置する予定です。11~2月に、ビーチや漫湖での清掃活動を行ってアートの材料を集めるので、多くの方に参加していただけたらうれしいです」
小さくも大きな一歩を積み重ねて
作業後は店舗の前に広げたゴザの上に座り、アイスコーヒーを片手に「ゆんたく」の始まりです。ゆんたくは、みんなでゆるりと楽しく会話する沖縄の文化。

漫湖水鳥・湿地センターの池村さんを中心に、漫湖が抱える課題をパートナーと、たのしむぞ06(おろく)のみなさんと協力して寸劇で伝えたり、プロジェクトの未来を紹介したりと学びの時間となりました。

イベント終了後、「たくさんの人に集まっていただき、大きな一歩を踏み出せました」と手ごたえを感じていたのは、那覇鏡原店ストアマネージャー(店長)の郡さんです。
「制作するアートが懸け橋となり、地域を楽しみながら巡り、自然に触れ、感性を育み、学ぶきっかけになれたらいいなと思っています。公園の中にある店舗なので、お客様と一緒に未来を明るくする場所や機会を提供していきたいです」
その想いを聞き、ディストリクトマネージャー(地区担当マネージャー)の金城さんも「続けていると何かいいことが起きるはず。本部町店では、アート制作後もビーチのゴミ拾いを続けていたら、前年に姿を見せなかったウミガメが海に戻ってきました。ストアマネージャーの想いをもとに、人の輪を広げる環境をつくっていきたい」と思いを新たにしていました。

この日、池村さんから聞いた、「地域の人たちが、自分たちが主人公なんだと感じてもらえる取り組みにしていきたい」という言葉が印象的でした。泥んこになりながら、みんなで一緒に汗をかき、笑い合い、助け合ったこの日の“実感”が、一人ひとりに小さな変化をもたらすかもしれません。それが未来へとつながるように、これからもみなさんと一緒にこの取り組みを続けていきます。