2つの京都。2人のストアマネージャーが育むスターバックスと地域とのつながり
京都市東山区の京都円山公園菊の渓店と、京都府と奈良県の境界に位置するイオンモール高の原店。
同じ京都府内の店舗ですが、異なる特徴をもつ地域で店舗を率いる2人のストアマネージャー(店長)がいます。
一人は、地域とのつながりを大切にしながら、京都円山公園 菊の渓店を育む上田美也子さん。もう一人は、コーヒーを通じてお客様やパートナー(従業員)とのつながりを広げるイオンモール高の原店の村上真衣子さんです。
それぞれの地域で、人とのつながりを大切にしながら店舗づくりに取り組むお二人の想いをご紹介します。
迷いから始まった、上田さんの今の仕事

地域とのつながりを大切にする上田さんですが、その歩みは、本人も予期しなかった出来事から始まりました。
大学卒業を目前に控えた1月3日。初詣から帰宅した上田さんを待っていたのは、就職予定先から届いた一通の手紙でした。年賀状に紛れるように届いたその封筒には、内定取り消しの知らせが入っていました。
突然の出来事に戸惑いながらも「とりあえずアルバイトを探さないと」と求人情報を探し始めました。それが、上田さんがスターバックスに入ったきっかけでした。
その頃の上田さんは、自分の将来について答えを見つけられずにいましたが、当時のストアマネージャーと働く中で、その迷いは少しずつ変化していきました。
「仕事の責任や楽しさを教えてもらいました。お客様とつながる楽しさも、初めて知った気がします」
徐々に「この人たちと、ずっと一緒に働きたい」と思うようになり、その想いが、上田さんを社員への道へと導いていきました。
地域の一員としてのスターバックス
2018年、ストアマネージャーとして初めて配属されたのは滋賀県大津市のビエラ大津店でした。この店舗は、新商品や季節限定商品といったスターバックスの話題や、店内で過ごす時間そのものを楽しみに、お客様が足を運んでいただく店舗でした。
一方で、その後に経験することになる京都・東山エリアは、まったく異なる性質を持っていました。
例えば、以前勤務していた京都祇園ホテル店では、観光の合間に「少し休憩したい」という理由で立ち寄られるお客様が多い店舗でした。
京都・東山エリアは、清水寺や八坂神社をはじめとした寺社仏閣、歴史ある町並みが広がる京都観光の中心地であり、祇園という土地そのものが街の価値を形づくるエリアです。地域との結びつきが強く、滋賀とは異なる店舗の在り方が求められる場所でした。
そうした環境の違いを顕著に感じる中で、京都・東山エリアでは、地域との関係性があってこそ店舗運営がうまくいくのではないかという感覚が、上田さんの中で、少しずつ強まっていきました。
外の掃除も、店内のフロアと同じ
その気づきを行動に変えるきっかけとなったのが、京都市の職員の方から声をかけられた、祇園商店街振興組合「祇園青龍組」による清掃活動でした。
祇園は、観光地として賑わう一方で、ゴミの問題は長い間、地域の悩みの種です。スターバックスのゴミも見られ、上田さん自身もその状況に課題意識を持っていたといいます。
「どうにかしたいと思っていたので、声をかけていただいた後、すぐに参加しました」
初めは、地域の方々と活動を共にすることに緊張もあった上田さんですが、 清掃活動を続ける中で、祇園を大切にする人たちの思いに深く胸を打たれました。
「みなさん京都祇園という街を本当に大切にされていることに心を動かされました。私も、この地域の一員として祇園を良くしていきたいと思ったんです」
上田さんにとっては、店外の掃除も、店内のフロアと同じです。その感覚が、地域と店舗の距離を少しずつ近づけていきました。
以来、毎週水曜日の朝7時からの清掃活動に継続して参加しています。上田さんは、他の地域行事や祇園祭の手伝いにも関わります。
また、現在ストアマネージャーを務める京都円山公園 菊の渓店の開業時のオープンハウス(お披露目会)では、地域の方々に招待状を手渡ししながら、直接顔を見せて声をかけていきました。
このように地域を想い、横のつながりを大事にしている地域だからこそ、地域の一員として日々の小さな行動の積み重ねを大切にしながら、上田さんは地域との関係を築いています。

「菊の渓」という店舗名に込めた想い
現在の店舗名のヒントになったのは、やはり地域の方との会話でした。
この一帯にはかつて、いまや絶滅危惧種になってしまったキクタニギクという野菊が自生し「菊渓」と呼ばれていた場所があったこと、現在は、地域の方々が保全活動を続けていることを知りました。
「わたしたちも、この場所をかつてのような『菊の渓』にしていきたい」
上田さんの中に芽生えた思いが、そのまま店舗の名前につながっていきました。
店舗では、コミュニティボードでキクタニギクを紹介したり、地域の方から譲り受けた鉢植えに毎日水をやりながら、その存在を大切に育てています。


「スターバックスがこれから先も地域に受け入れていただくためには、地域に必要とされる存在であり続けることが重要だと考えています」
京都には、創業100年、200年を越える老舗が当たり前のように存在しています。
「地域の方々に歓迎していただきながら、100年先も愛され続けるスターバックスを目指していきたいです」
上田さんの言葉には、この街の一員として歩み続けていきたいという静かな決意が込められています。
シアトルで見つけた、村上さんの居場所
一方、京都府と奈良県の境で店舗を率いるのが村上さんです。村上さんがスターバックスを知ったのは、学生時代に留学先として訪れたアメリカ・シアトルでした。
さまざまな人種や文化の中で生活するなかで、戸惑いや不安を感じることもありましたが、そんな日々の中で心が落ち着く場所だったのがスターバックスでした。
「いつ行っても歓迎されているような安心感があったんです」
当時の村上さんはホテル業界への就職も視野に入れながら学んでいましたが、スターバックスで感じた“人と人とのつながりを大切にする空気”が強く印象に残ったといいます。
この経験をきっかけに、スターバックスは将来の選択肢の一つになっていきました。
2019年に新卒で入社。奈良エリアを中心に経験を重ね、現在はイオンモール高の原店でストアマネージャーを務めています。
県境をまたぐモールにある店舗
店舗が入るイオンモール高の原は京都府と奈良県にまたがり、館内に県境を示すラインが引かれた全国でも珍しいショッピングモール。スターバックスの店舗自体は京都府側にありますが、京都・奈良の両方からお客様が訪れます。

村上さんは、イオンモール高の原店で働く中で、地域によってお客様の雰囲気や求められるものに違いがあると感じるようになったといいます。
だからこそ、目の前のお客様をよく見ることを大切にしています。
両親が転勤族だったこともあり、幼い頃からさまざまな地域で暮らしてきた村上さん。人を観察し、その人が何を考えているのか想像することが昔から好きだったといいます。
「この方は何を求めているんだろう、とつい考えてしまうんです」
県境にある店舗だからこそ出会える、多様なお客様との日々。その一人ひとりに向き合う姿勢が、村上さんのサービスの原点になっています。
「個×個=HAPPY!(ここHAPPY!)」という考え方
ストアマネージャーになると、毎年店舗のビジョンをつくります。
村上さんもこれまでは、スターバックスのミッションやバリューの言葉をもとに店舗ビジョンを考えてきました。
しかし同じ言葉でも、受け取り方には少しずつ違いがあると感じることがありました。
2店舗目を任された頃から、そうした“言葉の届き方”について考えることが増えていきます。
そこで一度、スターバックスの言葉をそのまま使うのではなく、自分たちの現場で実感できる言葉としてビジョンをつくることにしました。
お客様だけでなく、さまざまな個性を持つパートナーが、それぞれの強みを発揮できる店舗をつくりたい。
そうした思いから生まれたのが、「個×個=HAPPY!(ここHAPPY!)」です。

現在は、お客様との印象的な出来事や“ハッピーエピソード”をパートナー同士で共有することも習慣になっています。
最近では、村上さんが声をかけなくても、パートナーから「こんなHAPPYがありました」と自然に共有されることも増えてきました。
言葉として掲げたビジョンが、少しずつ店舗の日常の中に根づき始めています。
コーヒーを通じて、また来たいと思ってもらうために
イオンモール高の原店には、コーヒー豆を目当てに来店されるお客様が多くいます。
実はこの店舗、エリア中でも、コーヒー豆の販売が常に上位に入る店舗です。村上さんがアシスタントストアマネージャーとして勤務していた頃から、その状況は変わらず続いていました。
だからこそ、店長として着任した今も、村上さんは「高の原のお客様のコーヒー熱を絶やしたくない」と話します。

店舗では、お客様がコーヒーを選びやすいようにディスプレイを工夫したり、おすすめのコーヒーを黒板で紹介したりと、日々さまざまな取り組みを続けています。

その象徴ともいえる活動が「COFFEE fun PARTY」です。予約は不要。買い物の途中にふらりと立ち寄り、コーヒーを味わいながらバリスタとの会話を楽しめるテイスティングイベントです。
最初は店舗前で小規模に始めたものですが、回を重ねるごとに、近隣のスターバックスのパートナーもサポートに駆けつけるようになり、館内のイベントスペースを活用したり、パートナーの構成を変えたりと、試行錯誤を続けながら、今までに5回、実施してきました。
施設の担当者にも「COFFEE fun PARTY 」への情熱が伝わっていき、会場の提供だけでなく告知にも協力してもらうなど、店舗の挑戦を支える輪も少しずつ広がっています。
「どうすればもっとコーヒーの魅力を伝えられるか。どうすればお客様との時間を豊かなものにできるか」
その問いを重ねながら、村上さんは「ただコーヒーを販売するだけではなく、お客様に自分の好きな味わいを見つけてほしい」と考えています。
コーヒーをきっかけに生まれる会話や発見。
それは、村上さんがシアトルで感じた「人と人がつながる場所」の姿にも、どこか重なっているのかもしれません。
シアトルで感じた、誰かに迎えられるような安心感。
その感覚を、いま自分の店舗でも再現したいという思いが、「個×個=HAPPY!(ここHAPPY!)」という言葉と重なりながら、村上さんの中で日々の店舗づくりを支え続けています。
それぞれの場所で、つながりを積み重ねて
それぞれの店舗が置かれている環境や、日々向き合う課題は決して同じではありません。上田さんと村上さんが見つめる、地域の特性やお客様の過ごし方には違いがあります。
それでも2人に共通しているのは、目の前にいる一人のお客様やパートナー、地域の人と時間を共有しながら、関係を積み重ねていることです。
その一つひとつの積み重ねが、100年、200年と続く店舗へとつながっていくのかもしれません。