[what is…?] アライ(ALLY): LGBTQ+に寄り添う理解者の存在


アライ(ALLY)という言葉をご存じでしょうか。

「同盟」や「支援」を意味する英語のALLYが語源で、「LGBTQ+(性的マイノリティ)を理解・支援する人」を指す言葉として使われています。今回の[what is…?]では、アライについて自身がゲイであることをカミングアウト(公にしていなかった自らの性的指向などのセクシュアリティを表明すること)しながらYouTubeや講演を通してLGBTQ+の理解促進のための発信をしているかずえちゃんにお話を伺いました。

―かずえちゃんの性自認は男性で性的指向(恋愛対象)は男性です。ご自身もゲイの当事者、そしてアライとしてLGBTQ+の応援・支援者として多くのメディアに出たり、講演活動などを行っています。かずえちゃんがアライになったきっかけはなんだったのでしょうか。

「僕がアライという言葉を知ったのは3年ほど前です。詳しくお答えする前に少し僕の話をしますね。自分自身がゲイであることをカミングアウトしたきっかけはカナダのバンクーバーでの生活でした。それまでは、地元の福井県で30歳まで生活していましたが、限られたゲイの友人と両親くらいにしか伝えていませんでした。周囲に異性愛者と偽りながら、ずっと『バレてはいけないもの』として生きていくのは、かなり苦しく、しんどいことでした。

一方で、カナダは2005年から同性婚が認められている国で、僕がカミングアウトをしたところで特に誰も驚きませんでした。『へー、そうなんだ』といった感じ(笑)。僕が出会った人たちはそんな感じの反応だったので、カナダでは自分がゲイであることを忘れるくらい自由な生活を送ることができました。ちなみに当時のパートナーはスターバックスで働いていました。

約3年カナダで生活し、2016年に帰国しました。留学前、日本ではLGBTQ+という言葉をあまり聞いたことがなかったのですが、2015年から渋谷区と世田谷区でパートナーシップ制度が始まり、同性カップルを自治体が証明したり、宣誓を受け付け たり出来るようになり、留学前と比べると少しずつ社会が変化してきているように感じました。しかし、その一方でまだまだ生きづらさを感じている当事者や自分の周りにLGBTQ+はいないと思っている人たちが多いことにも気付き、帰国した2016年7月からYouTubeを始めました」

「アライは一般的には『LGBTQ+を理解、支援する非当事者』のように説明されることが多いのですが、そこに少し疑問を感じています。僕自身は、LGBTQ+のゲイ(G)ですが、バンクーバーでの生活やYouTubeを通して、様々なセクシュアリティの方と出会う中で『ゲイ以外のセクシュアリティ、例えばトランスジェンダー(T)やクエスチョニング(Q)についてはまったく知らなかったこと』に気づかされたんです。『LGBTQ+』という言葉で一括りにされることが多いですが、セクシュアリティごとに生きづらさや悩みはまったく違うと思います。だからこそ『僕はゲイだけどほかのセクシュアリティのアライになることはできる』と思ったんです。これがアライになったきっかけです」

―かずえちゃんは帰国後にカミングアウトしましたが、カミングアウトをするのか、しないのかは、その人自身の選択であると考えています。そして、当事者だけが声をあげ続ける社会でいいのだろうか? と考えるとき、アライの存在がとても大きな力になると言います。

「僕のYouTubeチャンネルでは、LGBTQ+当事者へのインタビュー、同性カップルや当事者家族の物語、LGBTQ+100人カミングアウト動画など、様々なテーマで発信しています。その中の『#アライはここにいる』というシリーズでは、LGBTQ+アライに焦点をあて、他人ごとではなく少しでも自分ごととして捉えてもらえるような動画を作っています。

例えば、会社に男女で分けられたトイレや更衣室しかないとします。もしかしたら、そこを利用することに抵抗がある当事者がいるかもしれません。当事者が声をあげることはとても勇気がいることだと思います。だからこそ相手の立場に立ち、考え、アクションを起こすことができるアライの存在がとても重要だと思います。

―現在、かずえちゃんのアライの動きは福井県内で大きな広がりを見せはじめています。「アライの輪を広げたい」という想いをもった地元メンバーで結成した『なろっさ!ALLY』というアライのチームがあります。「なろっさ」は福井弁で「なろうよ」という意味だそうです。

「2020年、地元福井に拠点を戻したとき、高校時代の同級生から『YouTubeを見たよ』と、連絡が来ました。その友人は福井の中で一番人口の少ない町で生まれ育ちました。そして地元をとても愛しています。大好きだからこそ、地元の人たちにLGBTQ+のことを知ってもらいたいという話をしてくれ、友人と立ち上げたのが「なろっさ!ALLY」でした。

『LGBTQ+をもっと知ってもらいたい』という想いから立ち上げた『なろっさ!ALLY』は、現在60人程のグループになり、福井LGBTQ映画祭やレインボーゴミ拾い、月に一度の勉強会などを行っています。メンバーにはLGBTQ+の当事者もいるのですが、友人のようにLGBTQ+ではない人も多いです。『なろっさ!ALLY』の輪がセクシュアリティに関係なく広がっていることが、『誰もが誰かのアライになれる』ということを証明してくれていているようで、とてもうれしく思っています」

―アライという言葉が広がりを見せる中、「アライと名乗って良いのだろうか?」「具体的にどんなことをすれば良いだろう?」という声がかずえちゃんに届くようになりました。そうやって考えてくれることが本当に嬉しいとかずえちゃんは言います。

「アライを定義するのって難しいですよね。僕はアライの解釈も人それぞれでいいと思っています。『アライって何だろう』とか、『どういうことをすればアライなんだろう』というように考えることもアライとしてのとても大きな一歩だと思います。パレードに参加して一緒に歩いてみたり、LGBTQ+に関する本を読んだり、自分の考えを話すこともアライだと思います。

一般的には『理解者』『支援者』という言葉で表現されていますが、的確な言葉で説明するのは難しいですね。どちらかというと、そうやって考えることが一番大切なような気がしています。LGBTQ+について発信を続ける中で、常に自分が発信する言葉や行動には責任を持つようにしています。そして、同じ当事者の視点から見てそれがどう見えるのか、どう感じるのか、寄り添えているか、行き過ぎていないかと自問自答すること。これを常に忘れず発信するようにしています。」

「様々な人と取材を通して出会う中で『自分らしくいることができる場所』は、とても大切だと感じています。例えば、ゲイやレズビアンの人と外で打ち合わせをしていても誰も見てきません。男性同士、もしくは男女で話をしているように見えるからです。ところが、トランスジェンダー女性(生まれた時の身体的性は「男性」、性自認が「女性」)の人と話していると、ものすごく奇異な目で見られることが多いんです。『えっ、こんな風にジロジロ見られるの!』と、とても不快な気持ちになります。この視線に毎日晒されると思うと、本当に怖くなりました。

『自分らしく生きよう』と言葉で言うことは簡単です。でも、その前提として『自分らしくいられる場所や環境』がなければ、『自分らしく生きる』ことはできません。アライとは、そういう社会を作るために一歩を踏み出す勇気と姿勢なのではないかと思っています」

―アライとして、個人だけではなく企業ができることはありますか?

「例えば、僕は福井県のスターバックスに行っているけど、髪色や服装が選べるし、帽子をかぶっているバリスタさんもいらっしゃいますよね。そういう誰もがぱっと目で見てわかるアプローチはすごくいいと思います。地方だと自分がしたい格好があったとしても、それ以上に周囲に合わせようという気持ちがまだまだあると思うんですね。でも、スターバックスのような会社がわかりやすく『自分らしくいられる』環境を作ってくれていると、いつの間にかそれがみんなにとってスタンダードになっていくと思うんです」

かずえちゃん
1982年福井県生まれ。ウエディングプランナー、保険会社勤務を経て、30歳でカナダに留学。約3年間生活し、帰国後の2016年にYouTubeをスタート。「LGBTQ+って身近にいるよ」「あなたは一人じゃないよ」と伝えるため、動画配信や講演活動、オンラインサロン「かず部屋」の運営などコミュニティ交流などに力を注ぐ。2020年8月からはダイバーシティ推進に力を入れる三洋化成工業(本社:京都)に「かずえちゃん 」として入社し、社員研修やワークショップなども行っている。いつか「カミングアウト」や「LGBTQ+」という言葉がなくなる社会を目指し、日々活動を行っている。

YouTubeチャンネル「かずえちゃん」
https://www.youtube.com/channel/UC6WcDW527KWU4eE9OaWPh4g

※LGBTQ+とは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時の性別と自認する性別が一致しない人)、クエスチョニング(自分自身のセクシュアリティを決められない、わからない、決めない人)、+(性はとても多様であり。これら以外にもたくさんの性のあり方がある)という性の多様性を表す言葉です。

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スマトラ島で感じた、一杯のコーヒーの背景にあるもの。