「レインボー学校プロジェクト」でバリスタから高校生へ渡されたバトン


スターバックスで働くLGBTQ+の当事者が自身の経験を語り、生徒とともに多様な性のあり方について考える「レインボー学校プロジェクト」。レインボーをモチーフにした商品を販売し、その売上の一部を認定NPO法人ReBitに寄付するかたちで、出張授業を行っています。

レインボー学校プロジェクトをきっかけに、性の多様性について考え行動を起こそうとしている一人の高校生がいます。神奈川県立横浜緑ケ丘高校3年生の遥名(はな)さんは、出張授業の1年後、ベルギーへ留学。その間、講師として参加したスターバックスのバリスタ・ゆきさんに書面でインタビューを実施しています。

帰国後、2年ぶりに再会した遥名さんとゆきさん。ふたりで改めて、性の多様性について語り合いました。

出張授業で芽生えた、性の多様性への興味

神奈川県内のスターバックスで働くゆきさんが、緑ヶ丘高校を訪れたのは2021年10月のこと。

身体や法律上の性別に関係なく、男女の枠組みに当てはまらない「ノンバイナリー」を自認するゆきさんは、学生時代、周囲の理解が得られず自身のセクシュアリティに深く悩んだ経験があります。転機になったのは、高校2年生でオーストラリアのファームへ留学したことでした。

「オーストラリアの農場では、男女平等に働いていて、女だからと性別で括られることはない。毎日食べて生きること以上に大事なことなんてないんじゃないか。それができればどこでも生きていけると思ったら怖いものがなくなった。中三から不登校気味だったんですが、帰国後、学校に戻ることができました」

こうした経験や自身のセクシュアリティについてありのままに、高校生の前で語ったゆきさん。その言葉を受け取ったのが、当時高校1年生だった遥名さんでした。

「セクシュアリティに関する話を聞いたのが初めてだったので、感動というか、自分の中で大きく動くものがあって。自分のあたり前が誰かにとってはあたり前じゃないんだということを知り、家族や友達がLGBTQ+の当事者だったら、私はどんな受け止め方をするだろう?って考えました。だからといってすぐに、日常の中で行動や意識が大きく変わることはなかったんですが……」

怪我をして部活に打ち込めなくなっていた遥名さんはその後、新しいことに挑戦したいとベルギーへの交換留学を決意。ベルギーを選んだのは、出張授業をきっかけにもっと知りたいと感じた、性の多様性への理解が進む国でもあったから。留学後、その好奇心の芽は大きく開きます。

ベルギーで触れた、オープンで多様な性のあり方

「ベルギーに留学してすぐ、学校でクラスメイトに『遥名は男の子、女の子どっちが好きなの?両方?』って聞かれたんです。日本では聞かれたことがなかったからびっくりして。でもゆきさんの話を思い出して『これまでの人生では異性しか好きになったことがないけど、これからのことはわからない』って答えました」

実際に想いを寄せてくれた同性の子がいたけれど、好いてくれたことを素直に嬉しく思ったと遥名さんは言います。ベルギーではブリュッセルのプライドパレードにも参加。

People carry a large rainbow flag at the 'Belgian Pride', a manifestation of lesbian, gay, bisexual and transgender oriented people in Brussels, Belgium on May 21, 2022.

「若者を中心に他国からもたくさん人が集まって、歌って踊って声を上げて、楽しかったし、素敵だなって思いました」

ホームステイ先のホストファミリーも、性についてオープンに話してくれました。

「性体験をする際には知識も必要だし、自分の意思を持たなきゃいけない。自分の体は自分で守らなきゃいけないよって教えてくれました。自分は肌を白くしたいから焼けたくないって言ったら、なんで?そのままで十分素敵だよ!と言ってくれて。見た目や周りの目を気にせず、“これが私だ”って胸を張っている人が多いと感じました」

留学から半年が経つ頃、遥名さんは性の多様性への理解を深めたいと、ベルギーで同性婚をしたゲイカップルにインタビューをすることに。その前に、緑ヶ丘高校の英語の先生とスターバックスの担当者を経由して、ゆきさんに紙面上で質問を投げかけました。

「日本の当事者の声や法制度について何も知らなくて。自分で調べて、ゆきさんにインタビューをさせてもらって、まずは日本のことを知りたいと思ったんです」

ゆきさんは質問に真摯に向き合い、2000字を超える回答を送付。受け取った遥名さんは日本の当事者にも思いを巡らせて、ベルギーでゲイカップルのインタビューに臨みました。

「彼らは、ベルギーが世界で2番目に同性婚を認めた国であることに誇りを持っていて、ゲイとして生きてきてこれまで差別されたことも苦労したこともなかったと。自分を尊重しているから、周りの人のことも尊重できると話していました」

違うことを前提に、多様性を尊重する

自分と相手の多様性を尊重すること──。ゆきさんはその文化をスターバックスで働く中で体感していると話します。

「もともと学生時代によくスターバックスに来ていて、店舗に当事者の方が結構いるな、ということは働きやすいのかなと思い、入社を決めたんです。実際に働いていて、自分のセクシュアリティを隠したことがない。エクスペリエンスを提供する仲間同士、セクシュアリティがどうであるかは瑣末なことだし、違うことがあたり前で、お互いを尊重し合えているんだと思います」

とはいえ日本の制度上、パートナーとの将来設計に悩むことがあるのも事実。ゆきさんはレインボー学校プロジェクトに参加するようになってから、ともに働く仲間から、セクシュアリティに関する悩み相談を受ける機会が増えました。

「同性婚が認められていない日本では、法的な配偶者になれなくて三親等にも入れず、忌引がとれないといった壁があるんですね。法制度を変えていくためにも、今はまだ存在に気づいてね、尊重してねって声を上げていく時期なのかなと。当事者でない方には、LGBTQ+を知ることから始めてほしい。気づいたら、なかったことにしないでほしい。自分の周りにはいない、ではなく、いるかもしれない、だったらどうするかを考えてリアクションをしてほしいです」

遥名さんはまさに、LGBTQ+を知り、リアクション、さらにアクションをする非当事者の一人でもあります。

「帰国後、英語の授業時間を丸々使って、ベルギー留学で感じたことを話す機会をもらいました。それから家族や友人とも性についてオープンに話せるようになって。誰かと話すときも違うことを前提に、私はこう思うけど、あなたはどう思う?って、相手を否定せずに自分の意見を伝えることを意識するようになりました」

世代や立場の枠を超えて、ともに声を上げる

今回の再会にあたって、事前にゆきさんへの質問を用意してきた遥名さん。一番知りたかったのは、当事者ではない自分がアライ(LGBTQ+を理解し支援する人)として声を上げることに意義があるのかどうか。

「プライドパレードに参加して、社会を変えていくには、私たち若者から声を上げていく必要があるんだろうなって思ったんです。当事者としての経験がない分、話を聞いたり勉強したり、知識をもって真のアライとして声を上げられる人になりたい。でも、あなたに私たちの気持ちがわかるの?とか、自分の価値を上げようとしていない?とか、当事者の人にとってはありがた迷惑にならないのか、気になってて」

そんな遥名さんの不安に、ゆきさんは寄り添います。

「LGBTQ+のことを知ってくれて、興味を持ってくれて、声を上げようとしてくれて、ありがとうございます。LGBTQ+コミュニティだけで閉じていたら世界は変わっていかない。見てきた世界が違うからこそ、同じ方を見ることができたら、円の掛け合いで輪が広がっていくと思うんです。遥名さんが見聞きして感じたことを、どんどん発信していってほしい」

この言葉に、真剣な面持ちだった遥名さんの表情が和らぎます。将来は「現地で生の声を聞いて、自分の肌で感じたことを伝えられるジャーナリストになりたい」という遥名さんは、その一歩を踏み出しているように思います。

「ゆきさんがレインボー学校プロジェクトに参加する目的は?」──最後に、遥名さんが問います。

「最終的な目的は、壮大だけど、世界平和かな(笑)。次世代の子どもたちには、セクシュアリティに悩んだ自分と同じ経験をしてほしくないし、ゆくゆくはLGBTQ+という言葉自体がなくなってほしい。誰もが生きやすい社会にしていく土台をつくるために、自分の経験を伝えることで、若い人たちにバトンを渡していきたいんです」

その願いに沿うように、今回、ゆきさんから遥名さんへ、想いのバトンがつながりました。

「バトンを渡せてよかった」

「つなげていきます」

そんな言葉を交わして、笑い合っていたふたり。セクリュアリティを含む多様性への理解を深めて社会を今より一歩よい方へ。これからも私たちスターバックスは、多様性を尊重する「NO FILTER」の輪を広げる種を蒔いていきます。