日々自分をアップデート。ここは新しい自分に出会える場所


沖縄県内の店舗で働く視覚障がいのある佐野さんは、盲学校の高等科卒業後スターバックスに入社しました。盲学校からスターバックスへの就職は沖縄県内では初めてで、メディアの取材を受けることも。彼女の活躍は店舗内だけでなく島内の後輩や障がいのある方々にも知られ、彼らの希望となっています。

いつもとびきりの笑顔で周りを明るくするチャーミングな人柄が魅力の佐野さん。左目は視力がなく、右目は弱視のため、入社当初はハサミを使えるようになることからの挑戦でしたが、今では1人でカスタマーサポートのポジションを回せるようになりました。スターバックスで働くことは「新しい自分探しの大冒険」と言う佐野さん。彼女の人生はここでどのように変わってきたのでしょうか。

人と触れ合うことは面白い

高校生の時、スターバックスでインターンシップを経験したのが、入社のきっかけです。中学生の頃から接客の仕事に興味があり、レストランや旅館など働く場所を迷っていた時に、スターバックスと出会ったと言います。

「そんなに話すのは上手じゃないけど、人と触れ合うことは面白いものなんだなと思っていて、接客の仕事がしたいなと。スターバックスで研修をしてみたら、“私ここで働きたい”という気持ちになって面接を受けました。お客様とのやりとりが楽しいし、それまでコーヒーを飲んだことはなかったけど、テイスティングしてみたら大好きになりました」

インターンシップ時の働きぶりが評価され、採用が決まりました。佐野さんは現在カスタマーサポートという役割で、コーヒー豆の仕込みや材料の補充、洗い物や店内の清掃といった多岐にわたる業務を行いながら、パートナー(従業員)のサポートとお客様への接客をこなしています。

「綺麗なテーブルでお客様に楽しい時間を過ごしてもらいたい」という想いでテーブルを拭いている時がとても好きなのだとも。そして、常にお客様が気持ちよく過ごせる空間を保つために、細部にわたって店内を観察しています。

「私が一番大事にしているのは、清潔感。例えば洗い物をする時は、しっかり手を抜かずに丁寧に洗うこと。時間をかけてもいいから、お客様やパートナーに不快な思いをさせないために綺麗に洗いたいと思っています。あとは次のお客様のためにフードの補充をして、コーヒー豆もしっかり並べて、店舗を見て回る時は、ずれている椅子を直したり、商品のロゴや名前をきちんと前に向けて置いたり、そういうことは心がけています」

また、佐野さんのもう一つの強みは、他のパートナーたちから「ドリンクの感想が独特」「香りや味わいの表現が抜群」と言われる、感受性の豊かさ。新作のフラペチーノを飲んだ時は「踊り出したくなる味」と、絶妙な表現でとても嬉しそうにおいしさを語り、試作を作ったパートナーたちを喜ばせていたそうです。コーヒーの香りも「ハチミツの味」や「煙っぽい匂い」など感覚的な言葉で違いを教えてくれますが、まだまだ勉強中と本人は語ります。

「色んな香りがあって面白いです。特に豆だとすごく香りが際立つからよく分かります。最初の頃はコーヒーの香りと言ってもどう表せばいいんだろうと思っていましたが、バックルームにコーヒーの本があって、時々それを見て表現の仕方を勉強しています」

もっと知識や経験を積み、「将来はお客様にコーヒーのことをもっと紹介できる人になりたい」と目標に向かって努力しています。

「頑張れる理由?それは、お客様の笑顔です。笑顔や声を聞くとやっぱりこっちも頑張ろうと思います」

一緒にレジに立つことが多いシフトスーパーバイザー(時間帯責任者)の新城さんは、「佐野さんの頑張りにお客様も寄り添ってくれる感じ」と言い、相乗効果でお客様も笑顔になれるのだと言います。

「佐野さんはとにかくすごく大きな声でお客様に挨拶してくれます。耳が聞こえにくいので、分からない時はお客様にきちんと“もう一度伺ってよろしいですか”と伝えて、そしたらお客様も“あっ!”って気づいてくれて、大きな声で言い直してくれます。それに応えようと佐野さんももう一声大きくなって、会話が成立した瞬間、良かったなって一緒に嬉しくなります」(新城さん)

そんな佐野さんとやりとりしたお客様が、レジを離れる時に「頑張ってください」と声をかけてくれることも多いのだそうです。

挑戦の場であり、第二の我が家でもある

スターバックスでの仕事は、佐野さんにとって「新しい自分探しの大冒険」と、はにかみながら教えてくれました。自分の言ったその言葉に「大冒険とか言っちゃいました(笑)」と恥ずかしそうに両手で顔を覆った彼女ですが、スターバックスで働き始めて4年の間に歩んできた道は、これまでの人生からは想像もできないほど新しい挑戦と新しい出会いの連続だったに違いありません。

ハサミの先端や計量カップの目盛といった細かい部分はもちろん、レジの画面を確認することも、佐野さんにとっては工夫が必要でした。画面に表示されるメニューや価格などの情報を拡大鏡で確認しながら、一人ひとり丁寧に接客する姿は、彼女の挑戦が並大抵のものではないことを物語っています。でも佐野さんは、その冒険を軽やかな笑顔で進み、ここで大切なものをたくさん掴んできたのです。

「ここは、色んなことにチャレンジできるし、色んな技術を身に付けられる場所です。自分と時間との闘いの場でもあります。何かをする時に目標時間を掲げてタイマーを使って時間を管理しています。それから、ここは『第二の我が家』でもあります。家で話せないこともここで話せばきっとわかってくれる、自分の話を受け入れてくれる方が多い場所はここだなって。みなさん、私が困っているとすぐに“大丈夫?”と言って助けてくれたり、“これ私やるから、こっちやっておいて”と気を遣ってくださったり、とっても優しくて楽しい方たちばかりです」

入社当初は人見知りでとても控えめでしたが、今では「お互いに信頼し合う仲間」だと言うパートナーたちと時に熱く議論を交わすこともあるそうです。「常に一緒にいる友達」のような関係だという新城さんは「たまに喧嘩もしたりね(笑)」と冗談交じりに笑います。

「佐野さんはしっかり自分の意見があるので、それに対して私も意見を伝えます。この言い合いができるようになったことも成長の一つかなと。言われたことだけをやるのではなく、しっかり考えて“私はこうしたいんです”と言ってくれるから、“じゃあ、ちゃんと一回話し合おう”となります」(新城さん)

そして、佐野さんが「良き師匠」と呼ぶ同店店長(取材時)の古賀さんも「いい意味で自我が出てきた」と感じています。

「最初は自分を抑えている感じがあったけど、今は彼女自身が“自分の気持ちを伝えていいんだ”と思えるようになってきています。周りがサポートしてくれて、佐野さんも想いを伝えてくれて。これから仕事で何をやりたいとか、どんな業務に興味があるとか、プライベートの話だけじゃなく、仕事に対する想いもたくさん話してくれるようになりました」(古賀さん)

仲間と共に歩む、自分探しの大冒険のその先

新城さんや古賀さんと話している時の佐野さんはとてもリラックスしていて、時には漫才のような軽快なトークで3人は盛り上がります。パートナー同士の関係性の良さが伺え、この店舗には沖縄らしい温かく風通しのよい空気感が広がっています。

シフトスーパーバイザーの新城さん(左)、店長の古賀さん(右)と

「私自身がそうなんですけど、佐野さんがこれだけ頑張っている、ここまでやってくれているという姿に影響を受けて、自分も頑張ろうと思うパートナーはたくさんいると思います」(新城さん)

「影響はここの店舗だけでないんです。沖縄全島、佐野さんの存在を知っている方は多いので、スターバックスには障がいのある方にも働くチャンスがあるというのを象徴している存在」(古賀さん)

そんな佐野さんの今の目標は、子どもや外国人、障がい者や健常者など、垣根を超えて様々な人たちと触れ合っていくこと。

「お客様ともっと交流したい。特に子どもや外国人の方達と触れ合いたいので、英語が喋れるようになって、外国人の方ともたくさんお話しできるようになりたいですね。

あとは、自分のような障がい者でももっと色んなことにチャレンジできるようにサポートしていきたいです。私に何ができるかまだ分からないけど、障がいのある人たちが健常者の人たちと触れ合える機会を作っていきたいなと思っています」

佐野さんも登場する動画「NO FILTER ―あなたがいる。もっと笑顔になれる。―」はこちら

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今年もスターバックスの「Be a Santa ドネーションプログラム」がはじまりました