できると信じる。聴覚に障がいのある アシスタントストアマネージャー


お客様も、働く人も、誰もが居場所と感じられる文化をつくりたい。そんな想いを掲げるスターバックスでは現在、400名を超える障がいのあるパートナー(従業員)がそれぞれの個性を生かして活躍しています。

そのうちの一人、聴覚に障がいのある佐藤さんは、2023年4月、聴覚に障がいのあるパートナーも、そうではないパートナーも手話を使いともに働く”サイニングストア”であるスターバックスコーヒー nonowa国立店の「アシスタントストアマネージャー(副店長。以下、ASM)」に就任。障 がいのあるパートナーとして初めてのASMとなり 、周囲のパートナーに希望の光を照らしています。

スターバックスで働く中で「自分の可能性が広がり、自信が持てるようになった」と話す佐藤さん。現在にいたるまで、どんな出会いと成長があったのか。その歩みを辿ります。

自分の可能性を信じてくれたストアマネージャーとの出会い

佐藤さんがスターバックスでキャリアを歩み始めたのは、大学1年生の冬のこと。「もっといろんな人に出会いたい」──北海道道東で生まれ育ち、通っていたろう学校に同級生がいなかったという佐藤さんは、そんな想いを持って、関東の大学へ進学。人と関わる接客のアルバイトを探していた時に見つけたのがスターバックス でした。

「進学してすぐに居酒屋でアルバイトをしていたんですが、耳が聴こえないことを理由に“皿洗い”しかやらせてもらえませんでした。接客がしたかったので3ヶ月で辞めて、通っていた筑波技術大学の近くにあるスターバックスで働き始めました」

聴覚に障がいがあることで“できない”とレッテルを貼られてしまうことが障壁となって、自分に限界を感じたこともあるという佐藤さん。スターバックスでは、その障壁が崩れ限界が拓ける大きな出会いがありました。

「耳が聴こえないことでお客様とのコミュニケーションが難しい部分があり、最初はレジに立つこともままならなかったのですが、アルバイトの途中でストアマネージャー(店長。以下、SM)が変わって、その方は一緒にやり方を考えてどんどん挑戦していこうという姿勢だったんです。『やってみよう!できるよ!絶対大丈夫!』と声をかけ続けてくれました。そのおかげで、自分のできる範囲と可能性が広がり、自信を持てるようになったんです」

佐藤さんは、積極的に店頭に立って接客をし、聴覚に障がいのあるパートナーが自主的に企画運営する『手話カフェ』も開催。スターバックスで挑戦と経験を重ねていきました。

できると信じて、環境を作る

大学卒業後に、障がいのあるパートナーに必要な支援を行う『チャレンジパートナーサポートプログラム』を活用し、スターバックスに就職。2020年には、国内初のサイニングストアとなるスターバックスコーヒー nonowa国立店 の立ち上げメンバーとして参画します。その頃から佐藤さんの胸の中には明確な指針がありました。

「できると信じて、環境を作って、自分の可能性を引き出してくれたSMのような存在になりたい、という目標をずっと持っています」

SMという役職には、自分自身の成長のみならず、お客様、ともに働くパートナー、地域を見据えた持続可能な経営の視点も求められます。ディストリクトマネージャー(地区担当マネージャー)の向後さんは、SMを目指す佐藤さんの成長、そして彼が周囲にもたらす影響を目の当たりにしてきました。

「佐藤さんは、とにかく“信じる力”が人一倍強いんです。SMになって影響を与える人になるという自分の目標はもちろん、パートナーの目標や店舗の目標も叶えられると信じて、エネルギッシュに“行動”を重ねる。だから、佐藤さんの信じる力は周囲に伝播していくんですよね」(向後さん)

佐藤さんは、学習ツールの動画に字幕をつけることを要望したり、 店舗で手話を使って伝える時間を設けたりするなど、聴覚に障がいがあっても 活躍できる環境を作ることに尽力してきました。

「佐藤さんが積極的に動いてくれたからこそ、私たちも店舗・会社として、偏見と思い込みを捨てて、一緒にできる方法を探っていけた。言語が違っても、100%分かり合えなくても、違いを受け止めたうえで、認め合うことができる。上滑りのスローガンにせず、行動を重ねることで、理想を現実にしていくことができるんだと佐藤さんが教えてくれました」(向後さん)

聴覚に障がいのある パートナーのロールモデルに

一つずつ目標をクリアにしていった佐藤さんは、登用試験に合格し、晴れてASMに。着実に歩みを進めるその姿に影響を受けているのが、ともに働くシフトスーパーバイザー(時間帯責任者。以下SSV)の小林さんです。

「佐藤さんさんは、自分の限界を作らない。キャリアを切り拓いていく姿は、本当に尊敬するし、私のような聴こえないパートナーのロールモデルになっています。自分にもできるかもしれないと思わせてくれる存在です。 私も自分に限界を感じる時はいつも『佐藤さんならどうするかな?』と考えるんです」(小林さん)

例えば、佐藤さんがレジで接客している際に、お客様から聴者のパートナーに交代してほしいと要望があった時。佐藤さんが「今は私が責任を持って対応します」と答えて引き続き対応していた姿を見て、小林さん自身が感じていた聴こえる・聴こえないの境界線を超えて 、自分が責任を持つことの重要性を学んだと言います。

「佐藤さんが、『聴覚障がいのあるパートナーで大学生のSSVはnonowa国立店にまだいないから挑戦してみよう』って背中を押してくれて、精一杯の力を発揮することができました」(小林さん)

対話の途中、やりたいことを話す小林さんに佐藤さんが常に「できるよ!」と声をかけている姿が印象的でした。

そんな佐藤さんには、お客様とパートナーと地域と向き合い、キャリアを進める上で大事にしていることが3つあります。

「一つは、自信を持つこと。物理的にできないことはあるけれど、それを自覚した上で、どうすればできるようになるのかを試行錯誤する。できることを広げて自信を持つことができれば、限界や障壁を感じても、立ち直れるはずだから。

二つ目は、周囲の理解を得ること。自分一人でできないことがあるからこそ、周囲に困りごとを伝えて助けてもらう。お互いに助け合い、認め合える環境を一緒に作っていくことを意識しています。

三つ目は、先入観を持たずに相手の話を聞いて、理解しようとすること。完全に相手の立場に立つことは難しいけれど、それでも想像することをあきらめない。お客様やパートナーが何を求めているのか、どうしたら喜んでもらえるのか、考え続けるようにしています」

障がいがあっても、キャリアを持つことが“当たり前”の社会へ

佐藤さんは、聴者の お客様やパートナーとは、筆談やテキスト入力、翻訳ツールを使ってコミュニケーションを取っています。

「言語や文化の違いはあるけれど、お客様にもパートナーにも伝えることは同じなので、ハードルはない」と迷いなく話します。佐藤さんが壁を作らないからこそ、対するお客様もパートナーもハードルを感じることなく、向き合うことができるのかもしれません。

ASMになって半年。佐藤さんは今、やりたいことに溢れているそうです。パートナーや地域にいい影響を与えられるSMになること。nonowa国立のほかのお店と一緒に『手話カフェ』を開くこと。「インクルージョン&ダイバーシティ」の文脈で発信していくこと。自信と“無限の可能性”を手にした佐藤さんは、信じる力を持って、きっと実現していくのでしょう。

「今は聴覚障がいのある人でSMになることは珍しいことかもしれません。でも私は、耳が聴こえないことに偏見や障壁がなく、障がいがあっても“当たり前”にキャリアを持っている社会にしたいんです」

物腰は柔らかくさわやかな笑顔を携えながらも、未来をまっすぐ見つめる眼差しには強い意志がある。その姿勢に、 “障がい”は、本人の身体的なものではなく、相手のことをよく知らないまま「できない」「大変だ」と決めつけて境界線を引く、社会の側に実はあるのだと気づかされます。

ASMになった佐藤さんの挑戦はこれからも続いていきます。

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どんな子どもにも学びの機会を-ハミングバード プログラムで届ける思い-