「フードロス削減」でつながる。スターバックスでの「ひと息」が子どもたちの笑顔に
スターバックスでは店舗で廃棄する食品を減らすため、2021年8月からフードロス削減プログラムを行っています。店舗ごとにその日の在庫状況を見て商品を20%OFFで販売し、その売上の一部である400万円を、こども食堂の普及に努める認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)に寄付しました。
食品の廃棄に心を痛めていた多くのパートナー(従業員)たちが強く望んで始まったこのプログラム。フードロス削減への想いは、環境配慮だけでなく、居場所づくりを大切にするスターバックスだからこそ、地域の子どもたちの食を通じた居場所づくりの支援へと結びつきました。
開始から約2年、たくさんのお客様から共感を得てご協力いただいている寄付は、いま着実に子どもたちの笑顔につながっています。
こども食堂の運営に必要なおとなたちのネットワーク
こども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂のこと。生きるために必要な「食」を支援するだけでなく、さまざまな人と食卓を囲む共食の機会を提供したり、子どもやその保護者、地域の方々の居場所になったり。地域コミュニティのなかでさまざまな役割を果たします。
今回の寄付では、むすびえを通して、個別のこども食堂に食材を提供したりするなどの支援ではなく、より多くのこども食堂を支えていくための「つながり」を必要としている地域のサポートを行いました。具体的には、新潟県全域のこども食堂の運営をサポートする『にいがた子ども食堂研究会』(以下、研究会)の発足に活用されています。
そこで、研究会の発起人である新潟県立大学人間生活学部子ども学科教授の小池由佳さんにお話を伺いました。新潟県第1号のこども食堂立ち上げの相談を受けたのをきっかけに、県内のこども食堂の活動を支援するようになった小池さん。どんな風に運営の手助けをしているのでしょうか。
「新潟は東西に長いため、それぞれに違った地域性があって、離島もありますので、県全域で何かやることがなかなか難しい県なんです。地域によってはこども食堂がゼロのところもあり、偏在していました。そのため、自治体間での情報共有などができておらず、支援・バックアップ体制に地域差が生じていたんです。
第1号が立ち上がった2年後ぐらいに県がアドバイザー派遣事業を始め、県内でこども食堂が少しずつ増え始めた頃、“お互いに横のつながりができるといいよね”という声があったので。“他の地域ではこんなことやっています”みたいな状況を共有したら、私たちにもできるかもという方たちや、行政の支援があるなら少し動こうかなという声も上がって、少しずつ盛り上がってきました」
こども食堂の立ち上げや運営に欠かせない、自治体やほかの運営者たちとのつながり。それが生まれ始めた矢先、今度はコロナ禍に――。
せっかく広がり始めたネットワークをむだにしないために、小池さんは自ら周囲に声をかけ、研究会を立ち上げたのです。
「コロナ禍はこども食堂のみんなで一緒に集い、食べるという機会を奪ってしまうものです。活動ができないのであれば、せめてこれまでの活動を振り返る機会にできないかと考え、研究会を立ち上げて、『NIIGATA子ども食道白書2021』をつくることにしたんです。この白書では、県内こども食堂の現状をアンケート結果と個別紹介を通じて紹介しました。 調査の結果わかったのは、コロナ禍でもこども食堂の数は増えていたということ。そして、その裾野は広がり、飲食店や地元企業など、多種多様な団体がこども食堂の開設に興味を示していることもわかりました。それと同時に、サポートが必要な課題も見えてきました」
「こども食堂を立ち上げようとする皆さんは、それぞれ『自分に何かできることがあれば』という想いを持っていらっしゃいます。でも実際にどう動けばいいかわからないという方も少なくありません。そんな方にアドバイザーを派遣して、細かく立ち上げまでのプロセスをアドバイスしています。
新潟市東区では、地元企業が地域貢献のために立ち上げたこども食堂を支援させていただきました。予算や会場をどうするか、開業をいつにするか。さらには、どういう人とつながって、その人たちに何をお願いすれば良いのかなど。そういった細かいこと一つひとつにも丁寧にアドバイスしていきます。それぞれの地域や運営主体に合わせてケースバイケースでサポートしていく必要があるんです。
南魚沼市の地域づくり協議会が運営するこども食堂では、若者と女性の声をどんどん取り入れていきたいという意向があったり、他の地域ではこども食堂を立ち上げようとしたものの、地元の方から反対をされ、そのたびに役所に相談して解決しながら進めていくというケースもありました」
バリスタ体験に「美味しかった」「大人の味がした」
支援を申し出てくれる企業や団体と、こども食堂の運営者をつなぐのも研究会の大切な役割のひとつです。地元食肉企業等と連携して「食肉」の提供企業を募ったり、余剰資金の少ない運営側での購入が難しい「お菓子」を企業に寄付してもらったりと、研究会のサポートによって現場のニーズに答えた食材提供が可能になりました。
そして、スターバックスの近隣店舗とも連携して、各店のパートナーたちがこども食堂を訪れるバリスタ体験等のプログラムも提供しました。
「今年2月には、スターバックスさんに新潟市西区にある『にしっ子食堂』さんへご訪問いただきました。事前にわかると人が集まりすぎてしまうかもしれないので、サプライズで。子どもたちは本当に喜んで、すごく良い笑顔をしていましたね」
バリスタ体験では、スターバックスのビバレッジを実際に子どもたちがつくり、試飲するというプログラムを行いました。スターバックスの緑のキッズエプロンをつけて、自分で選んだ味にミルクを入れて夢中でかき混ぜる子どもたち。
初めてスターバックスのビバレッジを飲んだという子どもも多く、「美味しかった」「大人の味がした」「今後別の種類も飲んでみたい」など、感想もさまざまです。
「今回の訪問では、スターバックスのお店のような空間をこども食堂内につくっていただき、子どもたちがお店の雰囲気を体験することもできました。今回の取り組みを通じて、『こういう仕事があるのか』『大人の社会はこうなっているのか』など、子どもたちの視野が広がる社会体験ができたのではないかと思います」
小池さんは、スターバックスが実際にこども食堂に訪問することの意義として、もう1つ大切なことがあると話します。
「スターバックスの皆さんにも、『ああ、こども食堂ってこういう存在なんだな』とこども食堂が地域に果たす役割や、そこに集う子どもたち、親御さん、地域の方々を知ってもらう機会になっていれば幸いです」
プログラムに参加したパートナーからは、「子どもたちの活力に元気をもらいました」「フードロス削減プログラムに参加いただいたお客様に伝えたい」「店舗では子どもと話す機会が少なかったが、今後は積極的に話しかけていきたい」などの声が聞かれました。
スターバックスのパートナーにとっても、地域とのつながりを感じ、コミュニティの一員として活動を続けていく良い学びの機会となったようです。
スターバックスでの「ひと息」が、子どもの「ひと息」つける環境に
改めて、小池さんにフードロス削減プログラムの意義についてお話いただきました。
「助成金などは徐々に充実してきているものの、新潟県内のこども食堂の多くは安定的な資金があるわけではありません。皆さんそれぞれが工夫をしながら食の提供をしているのが現状です。寄付があるから運営が成立している、というところもあります。
スターバックスの店舗でフードロス削減プログラムに参加されるお客様は、きっと夜に購入しているのですよね。仕事で疲れて、スターバックスでほっとひと息ついている時間。その時間が、今度はこども食堂にいる、子どもたちや親御さんにほっとひと息つける環境を提供することにつながっているんです。
皆さんの行動が全国の子どもたちや親御さんの笑顔につながっているんだと、感じていただければうれしいですね」
フードロス削減プログラムからつながるこども食堂の支援について、前回の記事はこちら
スターバックスがむすびえと思い描く、食を通した子どもと地域の未来