地域をつなぐ、世代をつなぐ。ラジオ体操から広がる家族のような関係性(千葉県・館山市)


館山駅から車で10分ほどの場所にある「スターバックス コーヒー カインズ館山店」。同店の半径50キロ圏内にはスターバックスはありません(2023年8月現在)。千葉最南端待望の店舗として、2022年4月にオープンしました。

ここでは、店舗前の駐車場で月に一度、早朝からたくさんの人が集まるイベントが行われています。それは地域の人たちとカインズ館山店が行うラジオ体操。近隣にスターバックスの他店舗がないこの地で、地域や様々な世代をつなぐ場を作りたいと、ラジオ体操を始めたストアマネージャー(店長)の柳沢さん。そのきっかけを作ったパートナー(従業員)の針生さんも交えて、柳沢さんの想いと同店が目指す地域とつながる店舗づくりについて伺いました。

南房総唯一のスターバックスで、地元を愛する人たちとともに

6時15分。店舗前の駐車場に続々と人が集まってきます。この日に集まったのは総勢50名ほど。ほとんどの人が顔見知りのようで、「おはよう」「元気だった?」と互いに挨拶をしています。この日はカインズ館山店が主催している月に一度のラジオ体操の日。しばらくすると、白いラジカセから馴染みのある軽快な曲が流れてきました。

小さなお子さんから90歳のご婦人までともに汗を流し、体操が終わると、みなさん店内に入っていきます。さあ、ラジオ体操後のお楽しみ。気の置けない仲間たちとの朝食の時間です。柳沢さんは、そんな賑やかな店内を嬉しそうに見回します。

カインズ館山店のオープンと同時にストアマネージャーとして赴任した柳沢さんは、それまで千葉の都市部や海ほたるにある店舗で働いていました。「千葉で生まれ育ち、働いてきた私ですが、館山は子どもの頃に一度来たことあるかな……という程度。同じ県内ですが、リゾート地で気候の温かな場所という印象でした。実際、館山に住むと気候は温暖で過ごしやすいし、人も同様に温かいんです」。柳沢さんは赴任が決まった当時の館山への印象を思い出して笑顔で語ります。

しかし、柳沢さんには一つ不安なことがありました。それは周囲には大学がないため「働いてくれる若い世代のパートナーはいるのか?」ということ。しかし、立ち上げを進める中、その不安が杞憂だとすぐに気がつきました。パートナー募集をすると、若い世代がたくさん応募してくれたのです。「地域のことや環境について考えている若い人がたくさんいました。地域の好きな点を尋ねると、みなさん前のめりになって情熱的に話してくれるんです。地元のことが好きな人がとても多い印象でした。きっと、この店舗は良くなるな。そんな予感がしました」

応募してきてくれたのは、若い世代だけではありません。中でもひときわ目立った女性がいました。それがシニア世代の針生さん。結婚式場の介添人や市役所で高齢者福祉課の生活支援コーディネーターとして働いていたキャリアを持ち、さらに「子ども食堂」(無料または低価格帯で食事を提供するコミュニティの場)や「認知症カフェ」(認知症の方やご家族、地域住民たちが集える場所)の取り組みなどにも関わっていて、「接客の仕事がしたい!」という強い希望から、ご家族に応援されての応募でした。
「すごく素敵な人に出会えたなと感じました。経歴、取り組んでいること、目の前の姿。僕も針生さんのように年を重ねることができたら良いな」と柳沢さんは思ったそうです。すぐに採用を決め、それからは針生さんのニックネームである「たかちゃん」と呼んでいます。

お喋りからはじまった地域をつなぐラジオ体操

若いパートナーに混じって働く針生さんはお客様にも積極的にお声がけをし、お客様からもよく話しかけられます。「たかちゃんは市役所で働いていたこともあって顔が広いんですよ」と柳沢さんは感心しきりです。

それでも、他の人と比べてできない仕事もあると針生さんは言います。「いろいろ若い仲間に教えてもらっています。だけど、何か一つ得意なことを作ろう。そうすればこの場所は私の居場所になると考えたんです」。針生さんはフードの陳列を愛情いっぱいに並べることにしました。丁寧に、愛情を込めて、美しく。カインズ館山店のショーケースの中には、フードが思わず手に取りたくなるように並んでいます。

2022年の秋の終わり頃。柳沢さんと針生さんがフードを並べ、開店準備をしていた時のことです。針生さんの友人が参加していたラジオ体操の話になりました。その友人は体操後の食事が楽しみだったけれど、新型コロナの影響で会場近くのお店の営業時間が遅れ、朝の食事ができなくなったとのことでした。

「たかちゃん、カインズ館山店でラジオ体操をやったらどうだろう」と、柳沢さんは提案しました。「シニア世代の人たちの憩いの場所が復活するし、地域や世代をつなぐ場所にもなるはず。もしかすると“スターバックスは若い人たちが行くカフェ”と思っている人も、足を運んでくれるかもしれない」と考えたからです。

それから、柳沢さんが営業時間の調整、店舗前の駐車場スペースの利用許可などを行い、針生さんが人を集めることになりました。いくら顔の広い針生さんでも、土曜日の早朝にどれほど人が集まるか見当がつきません。「10人くらいかな」と2人は考えていました。そして、ショーケース前のお喋りから数週間後の2022年11月26日、第1回のラジオ体操が行われました。

<6月末のラジオ体操では、過去最高の50名近くが集まりました>

柳沢さん、針生さん、ほかのパートナーの声がけにより、初日にラジオ体操をしにやって来てくれたのは、実に23名。体操が終わると、みなさんコーヒーや朝食を楽しんでいかれました。回を重ねるごとに参加者数は増え、現在では40~50名ほどの人が集まるイベントに成長し、雨でも店舗の庇(ひさし)の下で行っています。ラジオ体操やその後の交流を楽しみにして、ご友人たちを誘い合ってくる方も多いようです。

この店舗が市役所と同じくらい大切な存在になれたら嬉しい

館山は「リゾート」「観光地」の顔を持ちますが、それは週末や夏の一時期のこと。普段、カインズ館山店にやってくるお客様は地元の方々がほとんどです。店舗では、地域との関係性を大切にしているからこそ、モバイルオーダーを推進しています。なぜなら、お名前やニックネームが事前にわかるから。この「名前のヒント」をきっかけに、親密さが増します。スマートフォンでの操作があり、少々、導入ハードルの高いモバイルオーダーですが、シニアのお客様にも使っていただけるようにスマートフォンでの利用方法の説明会を店舗で開催するなど、カインズ館山店では積極的に利用をおすすめしています。

「スターバックスは地域とのつながりを大切にしている会社です。私はそれが魅力の一つだと思っています。だから、市役所や警察署、郵便局と同じくらい大切な存在になって、この店舗が地域コミュニティの中心になれればうれしいです」と、柳沢さんは言います。そして、地域のお客さまとのつながりやお店での会話はとても大切な物をこの地に育んでいるとも考えているそうです。

「ひとつのテーブルの上にコーヒーがある。それを中心にお客様同士が話をする。時には私たちも加わる。いろんな世代と関わり合う。ちょっと困ったことなど、気軽に話せるような。……そうですね、家族のような関係性が築けたらいいですね」

店舗を見渡すと、ラジオ体操に参加した方々が楽しそうにおしゃべりをしていました。観光に訪れたのか、若い世代や子連れの家族が加わり、さらに店内は賑やかになっていきます。朝のカインズ館山店にはいつも、まるで大きな家族のような親密さが、コーヒーの香りと共にあります。

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