手を動かして考える。「ものを大切に」から始めるサステナブル
役目を終えた家具を通して、交流を生み出す
年の瀬も近い晴れやかな土曜日の朝。品川区にある環境学習交流施設『エコルとごし』に、小学生から80代まで、40名近い人々が集まりました。会場の入り口に置かれた看板には、「生まれ変わる?!アップサイクル家具づくり」の文字。スターバックスの店舗で役目を終えた家具をリメイクするワークショップの始まりです。
講座を企画したのは、ストアデザイン・コンセプト部サステナブルデザインチームの中川拓真さん。チームの一員として、環境に配慮した『グリーナーストア』の設計や店舗と地域のつながりを育むための施策の推進など幅広い業務に関わっています。今回の講座が生まれたきっかけは、意外にもコロナ禍の感染症対策だったと言います。
「コロナ禍以降、スターバックスの各店舗では、座席数を減らしてソーシャルディスタンスを保っていました。今後もゆとりある座席配置をキープすることになり、関東エリアの店舗で間引きされた椅子やテーブルが260ほど出てきました。まずは店舗での再利用を検討した上で、一部は芸術大学に寄贈して制作に役立ててもらったのですが、さらにこれらの家具を通して地域の新たなつながりを生み出せないかと考えました」
声をかけた先は、スターバックスサポートセンター(本社)と同じ品川区に位置する公共施設、エコルとごし。体感型展示や多彩なイベント・講座を通して、環境について楽しく身近に学ぶことができる施設として、2022年5月、緑豊かな公園内にオープンしました。
「今回のような場づくりには地域との協業が必要だと考え、想いに共感いただける先を探していました。その中でエコルとごしさんとの出会いがあり、共同で開催することになりました」(中川さん)
エコルとごしでイベント企画などに携わる事業担当の青木京子さんは、スターバックスから連絡があった時のことを思い出して、こう振り返ります。
「私たちの施設では、自分たちの暮らしと地球環境とのつながりについて考える展示の中で、『環境負荷を減らすためにも、ひとつのものを長く大切に使おう』と来場者に呼びかけています。提案いただいた企画は、うちのコンセプトにもぴったりだな、と感じました」
エコルとごしでは、年間約70ものイベントや講座を企画しているそうですが、普段の講座では環境学習に関心のある小学生や親子連れの参加者が多いとのこと。一方、今回はいつもと様子が違ったようです。
「今回は、お子さん連れだけでなく、持っている家具のリペアに挑戦してみたいという方や、コーヒーやスターバックスが好き、といった方など、本当に幅広い世代の皆様からの応募をいただきました。とても嬉しいですね」(青木さん)
100年も200年も愛され続ける家具に
この日、ワークショップのために用意された家具は、コーヒーテーブルやカフェチェアなど計30ほど。近隣の品川・大井町地区の店舗に勤務するストアマネージャー(店長)やパートナー(従業員)計8名も、区内5店舗からワークショップのサポーターとして参加しました。
講師の案内に従い、参加者たちはテーブルの天板や椅子の座面などを取り外し、サンドペーパーで表面のささくれや汚れを取っていきます。エコルとごしをイメージした色のペンキでペイントし、ドライヤーで乾かして……と、真剣なまなざしで各自作業に取り組みます。
途中のコーヒータイムでは、バリスタによって淹れたての「クリスマスブレンド」が振る舞われ、参加者たちの間に自然と笑顔と会話が生まれました。
そして、ワークショップ後半のスタート。二度目のペイント、ドライヤー、外したパーツの取り付けと、次第に仕上げの工程に近づいていきます。
最後はいよいよ、参加者全員が見守る中、本日の主役である長椅子の仕上げ。都内の店舗でカウンターとして使用されていた長板を、椅子をふたつ並べた骨組みにビスで止めたら完成です。おしゃれなベンチとして生まれ変わった姿に、歓声と拍手が湧き起こりました。
こうして色鮮やかに生まれ変わった家具たちは、エコルとごし内のコミュニティラウンジに設置され、ワークショップから2週間後に開催されるクリスマス・ライブで来場者たちにお披露目されるほか、近隣の商店街やNPO、地域のコミュニティスペースなどでも活用してもらえる予定だとか。
3時間のワークショップで、丹精込めて完成させた家具と離れがたそうにする参加者に、「また会いにきて」と青木さんは声をかけます。
夫婦で参加したという70代の女性は、
「ピンクのペンキで椅子が綺麗に生まれ変わって、心も華やぎました。私なんてまだ75歳だけれど、アンティークの家具は100年も200年も愛され続けるでしょう。それって幸せなことですよね。また夫と二人でお出かけがてら、リメイクした椅子を見にこようと思います」と満足げに微笑みます。
小学校6年生の娘さんと参加したという女性は、
「娘はカフェインレスのコーヒーを毎朝飲むほどのコーヒー好き。『学校でこんなイベントのお知らせが配られたから、行こうよ』と娘から誘ってくれました。普段、親子で協力してひとつのことに取り組む機会はなかなかないので、今日は充実した時間を過ごせましたね」
と話してくれました。
大井町駅東口店のストアマネージャーを務める安藤さんは、
「ストアで毎日目にしているカフェチェアやテーブルたちが、素敵にアップサイクルされてワクワクしました。新しい姿になった家具たちを、これから品川の街中で見つけられたら嬉しいですね。コーヒーは人と人とのつながりを創り出し、会話を弾ませてくれるツール。このようなイベントを通じて、地域の皆さんのことをもっともっと知っていきたいと思っています」と感想を口にしました。
“持続不可能ではない方向”に小さな一歩を
「頭で解決しようとすると、サステナブルってなんだか難しそうだけれど、こうやって体を動かしながら理解していくことが大切なんだな、と改めて感じました」
ワークショップを終えて少しホッとした表情で、そう話してくれた中川さん。デザイナーとしてスターバックスのサステナビリティ推進に関わるうえで、意識していることはあるのでしょうか。
「サステナブルって、コミュニケーションや体験を通してみないと、自分ごとにはなりづらい。店舗設計などのハード面だけではなく、“コミュニケーションのデザイン”といったソフトの部分も連動させていく必要があると思っています。“スターバックスが、こんなサステナブルな取り組みをやりました”というだけでは、ただの発信になってしまいます。しかし、今日のような直接顔を合わせた交流を通して、一緒に考え体験することで、お客様にもサステナブルとは何かを伝えられるのではないでしょうか。みんなで楽しんでいるうちに、それぞれに気づきが広がっていけば、ゆっくりといい未来に向かっていける気がするんです。そんなつながりをこれからも大切にしていきたいと思っています」
地球の未来のため、スターバックスが大切にするサステナビリティの精神。今回、身近な家具のアップサイクルをきっかけに、ものを大切にし、“持続不可能ではない方向”へ小さな一歩を踏み出す気持ちが、参加者の心にも芽生えたのではないでしょうか。
ワークショップを終え、エコルとごしの1階コミュニティラウンジにはアップサイクルされた家具が置かれました。お店での役割を終えて生まれ変わった家具たちの、新たな風景が広がっています。これからこの家具たちが、施設を飛び出して、街のどこに置かれていくのか今からとても楽しみです。