私たちの生活と森をつなげる。都城・icoiaで始まる地域の循環のかたち
2026年春、宮崎県都城市のKIRISHIMA GREENSHIP icoia「いこいの庭」に、子どもから大人まで約30名が集まり、会場にはコーヒーかすと焼酎かす、竹チップや落ち葉が並んでいます。この日行われていたのは、スターバックスと霧島酒造が2024年から続けている「たい肥クラブ」の第3回ワークショップ。
実験的に始まった取り組みは、時を経て、地域の人たちとともに、たい肥をつくり、どんぐりを育て、森へとつなげていく循環の実践へと少しずつ発展してきました。
この活動が、どのように地域の未来へとつながっていくのか。ワークショップの様子とともに、お届けします。
みんながつながる、たい肥ケーション
「いこいの庭」では、スターバックスのコーヒー抽出後に出る約50キロのコーヒーかすと、霧島酒造の焼酎製造後に残る焼酎かす、霧島酒造の敷地内で集められた竹チップや落ち葉、米ぬかが参加者の前に並べられています。
参加者たちは、ビニール手袋をつけ、コーヒーかすと焼酎かすを混ぜ合わせコンポストの中へ、他の材料と重ねながら仕込んでいきます。
「コーヒーかすと焼酎かすに、たくさんの微生物が宿る落ち葉や竹チップ、 さらに米ぬかを加えることで発酵が進み、たい肥になっていくんです。」

そう説明するのは、スターバックス コーヒー 都城KIRISHIMA GREENSHIP icoia店 ストアマネージャー(店長)の松堂さん。前任地の福岡でもコミュニティ コネクションに積極的に取り組んできた松堂さんは、参加者を見ながら声をかけ、場を和ませていきます。



作業のあいだ、場のあちこちで笑い声が生まれます。初めて触れる素材の感触を楽しむ子どもや、「意外と重いですね」と話す大人の声が混ざり、場の空気は終始にぎやかです。
参加者の顔ぶれも多様です。孫の様子を少し離れて見つめる保護者の姿や、1回目のワークショップから参加している南九州大学の大学生など、同じ場で手を動かしながら関わることで、普段は交わることの少ない人たちがゆるやかにつながっていきます。
「普段は園芸を学んでいます。コーヒーかすを通じて持続可能な有機栽培の可能性を研究していきたいと思っています」そう話すのは、南九州大学4年の岩切さんです。

岩切さんは「教員を目指しているので、未来の生徒にもこの活動を知ってもらいたい」と語り、現場で得た気づきを将来につなげたいという思いを口にしました。
たい肥クラブの仕組みと広がり
スターバックスと霧島酒造による「たい肥クラブ」の始まりは2024年に遡ります。
この取り組みの背景について、スターバックス ストアデザインコンセプト部の中川さんは、霧島酒造とicoiaをどのような場所にしたいかという議論を進める中で、地域とのつながりと、資源をどう循環させていけるかがテーマとして立ち上がっていった、と振り返ります。
「スターバックスの店舗や霧島酒造の製造工程で生まれるコーヒーかすと焼酎かすをどう生かすか。地域とのつながりと、2社が協力して資源をどう循環させていけるか。そうした問いから実験的にたい肥作りを始めました。最初に行ったのは、たい肥の4種類の配合を比較しながら発酵の進み方を確かめる実験です。その結果を踏まえて、現在のたい肥づくりでは一番発酵が安定する組み合わせを採用しています」
最初は社内メンバーによる検証的な活動でしたが、回を重ねるごとに、近隣住民や、地元の学生、そして空港職員なども参加するワークショップへと発展していきました。
南九州大学の前田教授と学生たちも、土壌や植物の視点から知見を提供しながら、2025年からこの活動に関わっています。

前田教授は、コーヒーかすや焼酎かすの活用について、「せっかく地域から出ている素材なので、農家さんなど、実際の現場でどう生かせるか、これから見ていく必要があると思います。うまくいけば、もっと広がっていく可能性はあるのでは」と、期待をのぞかせます。
今回のワークショップには学生8人が参加し、これまで中心だった環境園芸学科に加えて食品開発科学科や管理栄養学科の学生も加わったといいます。「興味を持ってくれる学生が少しずつ増えてきているのは、素直にうれしいですね」と前田教授。
たい肥づくりという一連の活動を通じて、企業・大学・地域が関わり合いながら、循環のプロセスそのものを育てていく。その広がりが、この2年間で少しずつ形になってきています。
店舗の内装デザインもコミュニケーションとして

中川さんによると、icoiaは「地域とのつながりや、資源の循環をどうデザインに落とし込むか」という2社の地域に対する想いが形になった場所だといいます。
例えば、icoiaの内装には、コーヒーかすと九州南部の「シラス」を混ぜたグレーの内装ボードが用いられています。またスターバックスのカウンター下には、コーヒーかすとサツマイモ繊維を組み合わせた再利用素材が使われています。サイレンのロゴもシラスを用い、左官職人の手仕事によって仕上げられた一点もので、地域由来の資源が建材としてふんだんに取り入れられています。
また、テーブルに触れたときに、身近な森から生まれている素材なんだと親しみを感じてもらいたいという思いから、店内中央に置かれている「いこいのテーブル」には都城の森で育ったイチイガシの木材が使われています。イチイガシは昔から都城の伝統工芸品の一つである木刀や農具、ハンマーなどの柄として使われてきた硬い木材で、地域の暮らしと森の関わりを今に伝える木でもあります 。

こうした取り組みの起点は、2019年頃に全国の店舗で進めてきた、地域材を家具や内装に取り入れる試みにあります。各地域の木材を店舗のなかで使うことで、お客様と地域の森をつなごうという試みです。
ただ中川さんは、地域の素材活用を進める中で、課題感のようなものを持ち続けてきたといいます。「地域の素材を使って、それをみなさんに知ってもらうところまではできていた。森からいただいているのであれば、次は、森に還元する活動へとつなげていきたい。そう考え続けていました」と言います。
こうした課題意識を起点に、icoiaのプロジェクトでは、これまでの取り組みを一歩進める形で実践が始まっています。
今回のワークショップでは、たい肥の仕込みに加えて、昨年秋に行ったワークショップで植えたどんぐりの「鉢上げ」も行われました。発芽した136個の苗木をポットに移し替える作業で、苗木はイチイガシやシラカシなどの木へと育っていきます。さらにこの苗木は、将来「みやこんじょ資源循環森林プロジェクト(通称ODEN)」を通じて都城市の森へと還っていく予定です。


これまでもスターバックスでは地域の木材を店舗に取り入れる取り組みを続けてきた一方で、それらはあくまで店舗の中で完結するものが多かったといいます。
「icoiaの取り組みで今まで越えられなかった部分が、ようやく形になり始めている感覚があります。素材を使わせてもらっている森に、今度は自分たちが育てた苗木を還していく。そのサイクルが、初めて一つの流れとして地域の中でつながっていくことを目指しています」と中川さんは話します。
地域ごとの店舗のあり方
icoiaの取り組みは、スターバックスが全国で積み重ねてきた「地域とともにある店舗づくり」の延長線上にあります。たとえば、大阪・LINKS UMEDA2階店。この店舗では、大阪府内の森林で育まれたおおさか河内材やクリ材を内装や家具に活用し、都市の中心にいながらも木のぬくもりや地域の自然を感じられる空間がつくられています。日々のコーヒーの時間の中に、地域の森の気配をそっと重ねていくようなストーリーやデザインコンセプトを背景に、都市と森をつなぐ場として形づくられました。

また、市内の約70%を森林が占めるという大阪府河内長野市の河内長野高向店では、おおさか河内材という地域材が客席の家具や外壁に取り入れられています 。店舗を地域のコミュニティの場とすることを目指していて、森林組合や家具メーカーと連携しながら、木の質感や温もりをそのまま感じられる空間として設計されています。
そこには、地域の資源を取り入れるだけでなく、暮らしの中で自然と循環を感じられる場にしていくという考え方があります。

そして都城・icoiaでは、これまで各地で積み重ねられてきた取り組みが、一つの流れとしてつながり始めています。コーヒーかすや焼酎かすといった副産物が、たい肥となり、苗木を育て、やがて森へと還っていきます。その森の資源が再び店舗や地域へと活かされることで、点として存在していた実践が、循環として見えるかたちになりつつあります。
こうした循環は、関わる人たちの思いとともに、少しずつ地域に広がり始めています。