スターバックスがReBitとともに目指す「すべての子ども」に暮らしやすい社会


「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられる文化をつくる」というMisson & Valuesを掲げているスターバックスでは、さまざまな理由によって社会から孤立している子ども・若者たち世代に、自己肯定感を育める機会の提供や居場所づくりに取り組んでいます。例年この時期には、LGBTQ+(性的マイノリティ)を始め、誰もが生きやすい社会を目指したイベントなどが行われる「プライドウィーク」があり、スターバックスでも、レインボーをモチーフとした商品の販売を通して広くそのメッセージを届けています。また、その売上の一部を認定NPO法人ReBit(以下、ReBit)に寄付することで、多様性やLGBTQ+への理解を深める出張授業や教育関係者への研修を行なってきました。今回は、そのReBit事務局長の中島 潤さんにお話しを伺い、日本のLGBTQ+にまつわる現在の状況や、学校現場における日本の子どもたちの様子をお届けしたいと思います。

LGBTQ+を含めた「すべての子どもが」自分らしく生きられるように

ReBitという団体名には「Bit=少しずつ」を「Re=何度でも」繰り返すことで、社会が前進して欲しいという想いが込められているそうです。LGBTQ+を含めた子どもたちが、ありのままで大人になれるように、あらゆるちがいを持つすべての人が自分らしく生きられるように、という社会を目指して活動しています。

「ポイントは『LGBTQ+の子どもが』ではなく『LGBTQ+を含めたすべての子どもが』としている点です。LGBTQ+かどうかに関わらずすべての子どもに正しい情報を伝えていくことで、まずは学校が安心して過ごせる場所になります。さらに、様々なちがいを持つ私たちが大人になったらこういう生き方ができるというのを可視化して、ありのままで大人になれることを伝えていくことを大切にしています」

そう語る中島さんがReBitに関わり始めたのは、14年前の大学生の頃。当時は「学校」をテーマに活動していましたが、代表の藥師 実芳さんを含め、ReBitメンバーたち自身が就職活動の時期を迎えるにつれ、卒業後の「キャリア」についても視野に入れるようになったそうです。

「僕自身、Xジェンダー(性自認は女性でも男性でもない)なのですが、違和感を覚え始めた高校生の頃は、そういった本を本屋さんで手に取ることすら憚られました。今でこそ、本屋さんにもLGBTQ+などをテーマとしたコーナーがありますが、当時は出版されている本も少ないし、あったとしてもお店の奥の方にあって。だから、LGBTQ+にまつわる本は気になるけれど、その本を近所の本屋さんで買う、もしくは、万が一手にとっている姿を誰かに見られたら当事者だとバレてしまうかもしれない、と思うと素通りしかできなくて。誰かが先に読んで、その内容をまとめてブログにアップしてくれないかと常に待っているような、当時はそんな社会状況でした」

懐かしそうに振り返ってくれた中島さんの学生の頃に比べると、少しずつではありますが、社会のLGBTQ+への認知度は高まってきたのかもしれません。

LGBTQ+にまつわる学習状況の大きな変化が見えてきたこの数年

一方で、LGBTQ+の子ども・若者で「いじめや暴力を受けたことがある人」は68%(※1)、「自殺念慮を抱いたことがあるトランスジェンダーの人」は58.6%(※2)という調査報告もあります。こうした数字を減らしていくためには、正しい知識を伝えていくことはもちろんですが、メディアで取り上げられるような人だけが特別なのではなく、自分の身の回りの日常生活の中に多様なちがいを受け入れていく環境づくりをする必要があります。

「2015年から、文部科学省が性的指向や性自認の多様性について教育現場で適切に対応するよう働きかけ始めたのは大きな変化のひとつだったと感じています。2017年度からは高校の家庭科の教科書で、さらにその後、中学の道徳の教科書でもLGBTQ+についての記載がされるようになりました」

ReBitが行った『LGBTQ子ども・若者調査2022』によると、過去1年間でLGBTQ+について授業を受けたという子ども・若者が、実際に40.2%にのぼることがわかりました。

「この調査結果を見た時には、こんなにたくさんの生徒・学生が学んでいるのかと驚きました。ReBitも、教科書会社さんと、学習効果などについて意見交換をしています。一方でまだ課題だなと思うのは、これだけ授業が行われていても、先生に相談できない人、学校で嫌な思いをしている人、不登校の経験をしている人たちが数多くいるということです。子どもたちだけでなく、同時に先生方の理解を深めるための取り組みの重要性も強く感じています」

先生の中には、LGBTQ+の本を読んだり、知識を増やす努力をしたりしている方も増えています。ReBitが作る教材を取り寄せる学校は全国に広がり、離島からの申し込みもあったそうです。一方で、学校の元々の環境から伝わるメッセージや、自身の無意識なバイアスに気がつきにくいことも多いと言います。

「例えば、学用品購入が『女児用/男児用』に分かれていることや、男の子だからこれを選ぶ、こうすべき、となかば強要されてしまうシーンはまだまだあります。気軽に『男子、机運んでー』と声をかけることで、机を運ぶのは男性の役割、と教えるつもりがなくても自動的に学ばれてしまいます」

また、子どもたちに対しては配慮の行き届いた振る舞いをしていても、教職員同士や、自分自身のことになると自虐的に振る舞ってしまうことがあるのも課題だと中島さんは感じているそうです。だからこそ、先生が変わることがとても重要なのだと。

「一人の先生の理解が深まれば、その先生に相談できる子どもが増えます。さらに、その先生が何年、何十年にもわたっていくつもの学年を担当していくことで、何千人もの子どもに安心と学びが届けられるかもしれません」

私たちが暮らしている日常生活の中にある多様性

スターバックスとReBitがともに取り組んでいる『レインボー学校プロジェクト』は、単に企業がNPOに寄付するというものではなく、スターバックスで働くLGBTQ+当事者やアライ(LGBTQ+を理解・支援する人)のパートナー(従業員)が協働して学校現場や子どもたちの生活の場を安心安全な場にしていくというプログラムで、現在は、ReBitの講師とスターバックスのパートナーが一緒に学校現場に行くというかたちで実施しています。それは、子どもたちがよく知るカフェに多様な人が働いているということを示すことで、「これが私たちの暮らす日常」で「インクルーシブな社会」だと伝えることにもつながっています。その意義を中島さんはプロジェクトを通じて強く感じてきたそうです。

「40.2%の学生が授業で学んだことがあるという数字は出ていましたが、どんなに素敵な授業をしても、『365日のうちの1日』のことでしかありません。本当は、日常生活の中にすでに多様性があることを知ってもらう必要があるとずっと考えていました。ある授業でLGBTQ+当事者のパートナーさんが登壇した時に、どこの店舗で働いているかを伝えてくださったんです。そのお店は、学生たちが実際にいつも使っている場所。だからこそ、授業一日で終わることなく、それ以外の364日の普通の日常の中に、自分たちの隣にもちがいを持った人たちが生活しているということがちゃんと伝わった気がしました」

授業後には、個別に質問をしたいという子どもたちがいらっしゃることもあります。当事者としての質問もあれば、LGBTQ+の友人をどうサポートするのが良いか尋ねてくれた方もいました。多様性の社会を目指す上で、このような「アライ(LGBTQ+を理解・支援する人)」の存在はとても重要ですが、一方で具体的にどういう行動をしたらいいかと悩んでいる人も多いと言います。

「ReBitでは、『友人や身の回りの人がハラスメントを受けているかも』と思ったらできることとして、具体的に『ストッパー/レポーター/スイッチャー/シェルター』という4つの行動を掲げています。

ストッパー(制止)とは、ハラスメントを行っている人に対して止めることです。レポーター(通報)は、ハラスメントに気づいた時にアラートを出す役目。スイッチャー(話題転換)は、誰かが傷つく話題が挙がってしまったけれど制止はできない時に、話題を変えることで守ることを試みます。シェルター(避難所)は、『さっきああいうことを言われていたけど、大丈夫?』など声をかけて安心して話せる場があると伝えることです。

人によって、また場面によってできることは変わると思いますが、必ずしも強いストッパー的な態度をとることができなくても、他にもいろいろなやり方があると伝えていきたいですね」

スターバックスとReBitが取り組む『レインボー学校プロジェクト』を始めて3年。授業後にどんな変化があったかというアンケートでは、「それぞれの自分らしさを大切にする」といった趣旨の回答が目立ちました。セクシュアリティのこと、特別な誰かのことだけでなく、一人ひとりのちがいの大切さについて理解が深まることが、インクルーシブな社会の実現への第一歩。これからもスターバックスでは、そのような居場所づくりを目指していきたいと思います。

※1:いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン 平成25年度東京都地域 自殺対策緊急強化補助事業「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013)」より

※2:中塚幹也(2010)「学校保健における性同一性障害:学校と医療の連携」『日本医事新報』4521:60-64

スターバックスのLGBTQ+コミュニティ支援とアライとしての取り組みについてはこちら

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