花は紅、柳は緑、あなたはあなたのままで美しい。SOGIから始める多様性


SOGI(ソジ、あるいはソギ)という言葉を知っていますか?
SOGIとは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)を組み合わせた語。どのような性別の人を好きになるか、自分自身の性別をどう捉えているかを表します。性的マイノリティの人々を指すLGBTQ+という言葉に対し、SOGIはあらゆる人を対象とし、近年世界的に広まりつつある概念です。属性というフィルターを通さず、「その人そのものをみる」というスターバックスのインクルージョン&ダイバーシティのメッセージ『NO FILTER』にも通じます。
このSOGIと向き合い多様性を体感するツールがあると聞き、サポートセンター(本社)で体験会を実施しました。

「あたり前」と向き合って、自分の「これでいいんだ」を見つける

「『ふつう』は何のためにある?」「マイノリティとは誰のこと?」「誰をどう好きになるかコントロールできる?」。そのような問いが100以上集められた『ソジテツ®』のカードセットは、その名の通りSOGIを哲学する対話ツールです。ワークショップでは、4〜7人がひとつのグループになり、問いに対して自分の中から出てくる言葉を口にしていきます。この日は、開発者である一般社団法人ウェルビーイングコミュニケーションラボラトリー(通称WBCラボ)代表理事のおおばやしあやさんのガイドのもと、サポートセンターで勤務するパートナー(従業員)が、ワークショップを体験しました。

話してもいい、黙っていてもいい。自分のLGBTQ+などの属性やSOGIをオープンにする必要はなく、評価や判断、批判はしない。穏やかな雰囲気の中、おおばやしさんよりワークのルールが説明され、一貫して心理的安全性が保たれた場で、参加者は対話を紡いでいきます。ここで何より大切なのは、「WE(ウィー)メッセージ」ではなく「I(アイ)メッセージ」で話すこと。

「WEメッセージとは、例えば『年頃の女性だったら、ブランドバッグのひとつやふたつ持っているのが普通だよね』というような、主語があいまいで、『すべき』『ねばならぬ』といった常識や一般論に近い言葉使いのことです。それに対してIメッセージとは、『私はこのバッグのデザインがとても好きだから、高くても頑張って買いたいな』と主語を自分自身にして語ること。意識してIメッセージを使うことで、自分が大切に思っていることが見えてきます。逆にIメッセージに言い換えた際、少しでも違和感を覚えるとしたら、それは自分が本当には信じていない概念ともいえます。Iメッセージは百人百様ですが、本音と感じ、口にするとスッキリするはずです」(おおばやしさん)

この日、パートナーたちは「『ふつう』は何のためにある?」「世の中の『常識』はいつ変わる?」「『モテる』って結局どういうこと?」の3つの問いと向き合いました。普段は誰にも話さないようなことをIメッセージで言葉にしてみることで、思ってもみなかった自分の本音が見えてきたようです。深く考え込んだり、過去の記憶を思い出したり、誰かの言葉にハッとしたり、思わずクスリと笑ったり。約1時間半のワークを終えた後はみんなくつろいだ表情で、「思ったことを安心して話せる場は貴重だと感じた」「普段はリーダーとしてチームの意見を引き出す立場。Iメッセージで話すのは意外に難しかった」などと振り返りました。

分断ではなく、みんなにとっての「自分ごと」にしたい

おおばやしさんが「ソジテツ」を開発したきっかけは、2017年までさかのぼります。フィンランドの大学で5年間社会福祉を学び、帰国後、企業や大学でダイバーシティ研修などをしていたおおばやしさんは、同じく企業向けにLGBTQ+研修をしていた友人から相談を受けます。「LGBTQ+についての知識を与えるだけでは、『あちら側』と『こちら側』、マイノリティとマジョリティの分断を生んでしまう気がする。もっと多くの人に『自分ごと』として捉えてもらうために、知恵を貸してくれないか」と。

「マジョリティによるマイノリティ理解」という構図ではなく、どんな人が好きで、どんな服装や髪型がしたいか?といったSOGIの概念を扱えば、「全員が自分ごと」になる。おおばやしさんは、そう考えました。

「例えば、『同性愛者? いてもいいんじゃないかな、うちの会社にはいないけど』と言っている人に、『子どもの頃、男の子らしくしなさいって言われた経験はありませんか?』と聞けば『ああ、あるよ』と答える。マイノリティであるなしに関わらず、性別にまつわる『あたり前』に抑圧を感じたことのない人はいないと思うんです。SOGIの話題と向き合うところから、少しずつ少しずつ糸を紡いでいけないかという想いのもと、カードのアイデアは生まれました」

「自分を尊重する」から始めるダイバーシティ

それからのおおばやしさんは、有志のプロジェクトメンバーたちにも協力を仰ぎつつ、様々なライフステージにおいて投げかけられる「常識」「あたり前」「ふつう」を集め、それらと向き合う100の問いを、2年半の歳月をかけて生み出していきました。どういう聞き方ならより思考が深まって自身の価値観に気づけるか、幾度となく表現や言い回しを練り直したといいます。

こうして2020年6月に生まれた『ソジテツ』は、コロナ禍を経て少しずつ、学校・企業研修・自治体のイベントといった場で、小学生からお年寄りまで様々な人々に実践されてきました。

「例えば、長い間無意識に取り入れていた『男性なら自分もこうあるべき』の思い込みと、実はそれに従いたくなかった自分の本音に気づく方がいたり、誰かの発した言葉にハッとして、『ずっとモヤモヤしていたけど、やっと言語化できた』と笑顔になる方がいたり。人が自分の言葉で話す姿は美しいな、尊いなと毎回感じています」

自分を知り「これでいいんだ」と尊重できるようになれば、他者に対しても同じことができるようになっていく。それこそがおおばやしさんの描くインクルージョン&ダイバーシティです。

「日本は今、他者に対して『〇〇と言うべきではない』『〇〇しなければならない』と言動に慎重になるフェーズを迎えているのかなと思います。その段階はもちろん必要ですが、同時に『べき・ねばならぬ論』のみで本当のダイバーシティ(I&D)にたどり着くことは難しいとも感じます。I&Dは自分もちゃんと含まれていて、『肯定』『尊重』をベースに他者と共存共栄できる世界です。与えることも受け取ることも同じくらい大事。まずは自分の多様性を尊重することで、自分の足元から広げていけるものなんだ、というのをしっかり伝えていきたいんです」

ソジテツを「生物(なまもの)であって、まだまだ完成形ではない」とおおばやしさん。問いは今でも生まれ続け、形を変え続けているといいます。

「実際にワークをしてみて、この問いは対話が広がらないな、というのも見えてきました。例えば、『男の子は泣いちゃいけないの?』というような問いの場合、答えるべき正解があるように感じてしまって、『泣いてもいいと思うよ』といって終わってしまう。Yes/Noの誘導にならずに、どうしたら皆さんが話しても話しても尽きない問いになるんだろう、ってずっと考え続けていますね」

みんな、自然体のままでいい

2022年8月、おおばやしさんは「ソジテツカード」の双子版ともいうべき『ソジテツカードReStart版」を開発しました。オリジナル版とアプローチは少し異なるものの、やはり社会でよく耳にする定説をIメッセージで言い換えることで、自分の本音を見つけるツールです。

「元来飽きっぽいけれど、ダイバーシティに関しては飽きずにずっと取り組んでいる」と言うおおばやしさん。その情熱の源泉は、20代前半で初めて勤めた会社での経験にある、と振り返ります。

「私の目から見てとても個性ある素敵な同僚たちが、『こうあるべき』『ねばならぬ』の抑圧でそのユニークさや才能を発揮できず、心を病んだり退職してしまったりするのを間近で見ていました。なんとかしたいと色々試みたのですが力が及ばず、それをバネにフィンランド留学に至りました。幸福度の水準が世界最高とされる社会に何かヒントがあるのでは、と思ったからです。誰もが自然体でいられることや、多様性の共存共栄は、以来ずっと追いかけ続けている夢のような気がします」

最後に、おおばやしさんは好きな言葉として「花紅柳緑(花は紅、柳は緑)」という言葉を挙げてくれました。

「花は赤いままで、柳は緑のままで美しい。花が柳になろうとすることも、柳が花として振舞うことも不自然なこと。人は自然体でいるのが一番素敵だと思うし、自分もそうありたい。私は、みんなが自然体のまま、調和している世界を見てみたいと思っているんです」

おおばやしさんの描く、「I」起点のダイバーシティは、どこまでもあたたかく豊かです。「あたり前」や「普通」のフィルターを外してIメッセージで話す人が増えれば、その先には今よりももう少し、互いに優しくなれる社会が待っているのかもしれません。

スターバックスのLGBTQ+コミュニティ支援とアライとしての取り組みについてはこちら

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思い出に残る1杯を。Group eGiftに込められたスターバックスの願いとは