[what is…?]フェアトレード:地球環境と人権を守っていくためにできること
毎年5月第2土曜日は、世界中でフェアトレードをアピールする『世界フェアトレード・デー』ですが、そもそもフェアトレードとは何なのか。そして、なぜいま私たちスターバックスをはじめとする企業や団体が「フェアトレード」について向き合わなければならないのか。フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の潮崎真惟子さんに解説いただきます。
―改めて、「フェアトレード」とはどういうものなのでしょうか?
フェアトレードとは、直訳すると「公平・公正な取引」になります。寄付とは異なる方法で、日常生活の中で途上国や地球環境に貢献し、ビジネスとして社会課題を変えていく取り組み、というのが大きな概念です。
貿易を意味する「トレード」という単語を使っているため、価格など経済的な側面の印象が強いかもしれませんが、実はそれだけではありません。国際フェアトレードの現在の基準は、「経済的」「社会的」「環境的」の3つに分類されています。
「経済的基準」では、適正な対価で取り引きしているかが主な基準になりますが、それを守っていれば良いわけではなく、児童労働や強制労働がない環境で働いているかの「社会的基準」や、水源や土壌を汚染するようなことをせずに「環境的基準」を守って生産しているかなどが求められます。
―フェアトレードの対象製品にはどのようなものがありますか?
まず大前提として、貿易している「すべての製品」がフェアトレード認証の対象だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、対象製品は限定されています。生産者の生産規模が大きかったり、価格が高いこと等を背景に「生産者の発言力や交渉力」が高い産品は、注力する対象産品に入っていません。
フェアトレード認証製品の市場で最も大きな割合を占めているのは、コーヒーです。続いて、チョコレートの原料となるカカオやコットン製品、バナナやスパイス、他には切り花やボール類などもありますが、対象製品となるものは主に次のような特徴を持っています。
- 途上国で原料が生産されていること
- 搾取されやすい人が原料生産に関与していること
つまり、「途上国で構造的に搾取されやすい人が生産に関わっている産業」ということです。具体的には、「家族経営の小規模な農家や工場の人たち」は、取引先企業と交渉力を持てず、買い叩かれてしまうことがあります。昨今の「気候変動リスク」のような場合においても、大規模な農場は気候変動の影響にある程度対応ができますが、途上国の1ヘクタールほどの畑を耕す人々は、日照りがひどくなったら収入はゼロになってしまうかもしれません。
このように、たとえ地球環境に配慮した生産をしていたとしても、生産者自身がきちんと生活をしていける環境が整っていなければ、それはサステナブルではないと私たちは考えています。明日の食事に困るような状況では、環境に配慮した生産を続けるのは難しいでしょう。地球環境と人権は密接に絡み合っています。だからこそ、フェアトレードはその両方の基準を大切にしているのです。
―フェアトレードにおける企業の責任はどのようなものでしょうか?
そもそも、フェアトレードは世界中で同時多発的に広がっていった草の根活動です。はじまりは、アメリカのNGOが途上国の手工芸品を販売したことですが、大きな市場を持つ企業も関わりやすい仕組みができたのは、共通の基準が策定された1980年代後半頃です。
私たちの身の回りにある「ひとつの製品」を作るのにも多くの企業が関わっているため、調達に関する情報は必ずしも企業間で透明化されていません。原料を調達する時、サプライヤーが「この製品は環境にも人権にも配慮しているよ」と言っても信用できないこともあります。企業が製品を作る全ての工程を自分で監査することは容易ではありません。そこで、私たちフェアトレード・ラベル・ジャパンのような第三者認証が企業に求められてきました。第三者の立場で細かく監査して、基準を満たしているかを確認することで、認証を受けた農園や企業が信頼し合える仕組みを整えたのです。
生産者側にとっても、例えば企業5社と取り引きするひとつの農園があった時、その農園に5社それぞれから監査が入ることは非効率な場合もあるため、専門的な第三者である私たちが企業とパートナーシップを組み、一緒に課題を解決していくという役割を担っています。
万が一、基本条件を満たしていないことが発覚した場合でも、そのまま生産者を切り捨ててしまうことはせず、満たせなかった原因や背景を特定し、どのように改善していくかを一緒に考えます。
なぜなら、基準を満たしていないからとすぐに契約を切ったり、罰則を強化するだけでは、悪い状況を隠したり、抜け道を作ろうとしてしまうため、根本的な解決にはならないからです。条件のハードルを無理に上げるよりも、良い行動をした人を褒めるという方針を推進し、実行した人が得をしていけるような支援のしくみをフェアトレードで広げています。
―フェアトレードは世界的にどのように広がっていますか?
フェアトレードは、小さな活動から世界中に広がるグローバルな取り組みへと発展してきました。世界71ヶ国、1,880以上の生産者組織を通じて、国際フェアトレード認証の仕組みに参加する小規模農家・労働者は190万人以上に上ります(2020年)。世界市場も約1.3兆円を超える規模となり、中でも貿易量に応じて輸入業者から各生産者組織に直接保証される『フェアトレード・プレミアム』は、過去最高額に達しています。
このプレミアム制度というのは、生産者組合や地域の開発のために、企業が品物の代金に「上乗せ」して資金を支払う取り組みのことです。そもそも、児童労働や強制労働をさせないようにするのはあたり前のことです。そこを最低ラインとして、さらにもう一歩進めるために、価格に上乗せされたプレミアムの使い道を途上国の生産者自身が決め、地域に学校や井戸などを建設することができます。悪いことにコミットさせないだけでなく、良いこと、課題解決そのものまでにコミットすることができるというのが、この制度の魅力です。
コーヒー生産者に対しては、プレミアムの25%以上を品質向上のための農業投資に使うことを促しています。コーヒー産業は特に品質が重視される分野でもあるので、品質向上は生産者の収入アップの上でもとても大切なのです。私たちにとっても、美味しいフェアトレードコーヒーが世界で増えるという嬉しい発展につながっています。
―今後、フェアトレードはどのように発展していくのでしょうか?
企業のサステナビリティへの意識は、SDGsへの関心もあって近年かなり高まっていますし、問い合わせも増えてきました。これまでは環境側面ばかりを見ていた企業も、ここ数年で人権側面を配慮しなければという意識を持ち始めています。地球環境と人権の両側面の要素を持つフェアトレードへの期待も高まってきているのです。
一方で、フェアトレードは昔からの取り組みでもあるため、30年ほど前のイメージで「品質は良くないけど我慢して買うものでしょ?」と誤解されている方もいるかもしれません。けれど、人への配慮は製品の品質向上にも確実につながっていて、今では美味しくておしゃれな上に社会にも貢献できる商品が沢山あります。そうしたインパクトや楽しさを知っていただくことを私たちは大切にしています。
だからこそ、お客様との直接の接点がある企業のコミュニケーションというのは、本当に重要です。特にスターバックスさんのように、店頭でフェアトレードのことを発信してくださったり、毎月『エシカルなコーヒーの日』を設定されていたりというのは、とてもありがたいことです。
自分の生活を彩る物が誰かの犠牲を伴っているより、商品を買う私たちと現地の生産者の双方が豊かになれる選択をしていくことで、より良い未来をつくっていけることの方が心地良いですよね。そのような「エシカル消費」や「エシカルライフ」を求めるような方々にもっと手に取っていただけるように、これからもフェアトレード製品の選択肢を増やしていきたいと思います。
潮崎 真惟子(しおざき まいこ)一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了(比較経済・地域開発)。デロイト トーマツ コンサルティングを経てオウルズコンサルティンググループにてマネジャーを務める。コンサルタントとして事業戦略立案などに加え、サステナビリティ関連のコンサルティングや政策立案、人権デュー・ディリジェンス、NPO/NGO向けコンサルティングなどを多数担当。2021年より、フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長に就任。「児童労働白書2020 ―ビジネスと児童労働―」執筆。「エシカル白書 2022-2023」寄稿。労働・人権分野の国際規格「SA8000」基礎監査人コース修了。
スターバックスのエシカルな調達のストーリーについてはこちら
「つくる人も飲む人も。コーヒーに関わるすべての人を幸せに。スターバックスのC.A.F.E.プラクティス」
「「エシカル 」とは何か?生駒芳子さんが語る人と環境への優しい配慮」