コミュニティボードを通じ、出雲大社のおひざ元で地域との縁を結ぶ(島根県・出雲市)


パートナー(従業員)が思いを込め、メッセージやイラストを描く「コミュニティボード」。各店のパートナーが、店舗のある地域を元気にする手伝いをしたいという思いや活動を、お客様や地域の方々に伝えるツールとして活用しています。今回はそのひとつ、出雲大社店の取り組みをご紹介します。

「地元をもっと知ってもらいたい」という願いを込めて

2階席より見る勢溜の大鳥居が

縁結びの神と名高い出雲大社の参道入口・勢溜の大鳥居の前に2013年に誕生した出雲大社店のコンセプトは「和と洋の縁結び」。和風の造りに出雲大社からインスピレーションを得たデザインが施され、参拝後などの休憩に多くのお客様が訪れています。そんな観光地で地元のためにできることを始めたのが、「コミュニティボード」で地元の魅力を発信することです。

「地元の方には『地元をもっと好きになる』、観光の方には『出雲のことをもっと知ってもらう』。その2つの思いが縁を結ぶようなメッセージになるようにといつも考えています。出雲は暮らしを楽しまれている方が多い魅力的な地域。コミュニティボードが地元を愛せるきっかけになればうれしいです」と2022年4月までストアマネージャー(店長)を務めた、現・ゆめタウン出雲店ストアマネージャーの春さん。

そんな気持ちに至ったのは、春さんが沖縄出身であることも関係しています。「生まれ育った自分にはあたり前すぎて、沖縄の自然や文化などの良さに離れてから気付きました。だからきっと、出雲に暮らす方たちにも当時の私のような人がいるかもしれません。出雲は、暮らしを楽しまれている方が多い魅力的な地域。コミュニティボードが地元を愛せるきっかけになればいいなと思っています。」

2022年4月に掲示したのは、全国的にも神楽が盛んな島根県で出雲地域に伝わる「出雲神楽」。奏楽に合わせて刀や扇、幣を手にして舞う姿を描きました。きっかけは、出雲神楽を代々受け継ぐパートナーがいたことです。「町内各所でとても盛んに舞いが披露されていて、出雲大社から笛の音が聴こえてくることもありました。しかしコロナ禍で活動がなかなかできないことを知り、少しでも役に立てばという気持ちで文献などをお借りし、勉強しました」(春さん)。

出雲神楽のボード

2021年の夏は、県内4店舗のボードの写真を撮って並べると「縁」という文字ができあがるという、遊び心のある試みも行いました。大枠を決めたうえで、デザインは各店自由。「出来上がったら想像以上に良いものになっていて感動しました」とは、パートナーの中心になってボードを描く堀西さんです。

「遠くに出かけられないコロナ禍だからこそ、島根県を巡ってもらうきっかけに」と思いを込め、出雲大社の八雲、玉造の勾玉、松江城、コーヒーの木や豆…島根県とコーヒーの文化が融合したボードが完成しました。「他店で撮影したボードの画像を見せてくださるお客様がいらしたり、パートナーたちも他店を行き来したりして、つながりが深まって私たち自身も楽しかったです」(堀西さん)。

4店のボードを並べると「縁」という文字が浮かび上がる

こうしたボードを目当てにお店に訪れるお客様も少なくなく、写真をファイリングしてくださる方、毎年正月の“謹賀新年”のボードの写真をスケジュール帳の表紙にしてくださる方までいらっしゃいます。

コミュニティボードを通じて“知る”から“つながる”へ

コミュニティボードでは地域の魅力だけでなく、社会に向けたメッセージも発信します。そのひとつが、「NO FILTER」。スターバックスが掲げるインクルージョン&ダイバーシティのメッセージです。先入観や思い込み、偏見といったフィルターを持たず、すべての人を温かく迎え入れ、認め合い、一人ひとりが自分らしくいられることへの思いを込めています。「人種、職業、性別、障がいの有無にかかわらず、誰もが自分の居場所を感じられる社会をつくっていきたいという思いを込めました」と春さんは言います。それには地元の特別支援学校とのかかわりも影響しているようです。

現在、出雲大社店では島根県立出雲養護学校の卒業生がパートナーとして働いています。学生のころから接客業につくのが夢であり、出雲大社店での職業体験を経て3年前から勤務する、渡部さんです。「コーヒーを通じてお客様やパートナーとお話しするのが楽しく、やりがいを感じています。今日のおすすめの豆はパプアニューギニア。明るい良い香りがしますよ」。

コロナ禍で職業体験が実施できない間も、コーヒーセミナーを開くなど出雲養護学校との交流は続きました。教員の方々との話のなかで「養護学校の卒業生が接客業で自分らしく働くことが難しい」ことを知り、渡部さんのケースが1つのロールモデルとなるよう、カリキュラムや成長をまとめて学校と共有するという工夫も。こうしたつながりが新たな縁を結び、22年の春からゆめタウン出雲店でも卒業生の景山さんが働いています。

出雲養護学校教員の山根育子さんは、「NO FILTER」のボードを見たときは感慨深かったと言います。「苦手なところがあっても、ありのままの自分なんですよね。得意なことを見つけてもらえて、仕事で発揮できるのはありがたいことです。ボードで“どんな方でも強みを発揮しながら働ける”という発信があり、それは私たちも願っていることなのでとてもうれしかったです」

“知らない”ことが、様々な壁を作る。だからこそ春さんは「違いを“受け入れる”よりも“知る”ということがベースで。そこから将来的には“違いがあたり前”がベースになる社会になったらいいな」と願っているそう。そんな思いが、「NO FILTER」のボードには込められています。

「ボードをきっかけに、私たちが知っていること、体験したことをお伝えできるのがうれしい」と、取り組みを続ける出雲大社店。「知る」をきっかけに思いや輪が広がっていろいろな縁を結ぶようにと、コミュニティボードに今日も思いを込めます。

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