地域に溶け込むスターバックスの店舗づくり。東急歌舞伎町タワー店ができ上がるまで。
スターバックスの店舗デザインはどのような考えで生み出されていくのでしょうか―。スターバックスのストアバリューエレベーション本部ストアデザイン・コンセプト部の4名が、共立女子大学建築・デザイン学部のセミナーに参加しました。テーマは、「建築とデザインで未来をつくる」。100人を超える学生の皆さんに対して、語ったのは2023年4月にオープンした「スターバックス コーヒー 東急歌舞伎町タワー店」に込めたそれぞれの思いやこだわり。多様なメンバーが関わり、ひとつの店舗ができ上がるまでの舞台裏に迫ります。
ストアデザイン・コンセプト部が実現したいこと
セミナーはストア・コンセプト部部長の江藤さんから、スターバックスのブランドに対する考えや部署の紹介からスタートしました。
「この一杯から広がる心かよわせる瞬間 それぞれのコミュニティとともに-
人と人のつながりが生みだす無限の可能性を信じ、育みます」
これはスターバックスのMISSIONです。店舗で働くパートナーはもちろん、店舗開発を担うストアデザイン・コンセプト部に所属するパートナーも皆、このMISSIONを胸に行動しています。
「沖縄の店舗ではビーチクリーンをし、大阪の河内長野ではコーヒーを淹れた後に出る豆かすを使ったたい肥作りを行っています。東京・国立には聴覚障がいのあるパートナーが多く働くサイニングストアもあります。スターバックスはカフェをつくりコーヒーを売っているだけではありません。私たちはコーヒーを通して、コミュニティや人と人をつなぐことが仕事です」と江藤さん。
その舞台となる店舗を形作っていくのが、インハウスのデザイナーも所属するストアデザイン・コンセプト部です。「新店・既存店のお店のデザインを行うグループ」「店舗を作るためのアイテム準備、ルール・仕組みの作成を行うグループ」に分かれて現在36名が業務にあたります。「全国に約2000店舗ありますが、シーンや気分で使い分けできるよう、地域性や、環境への影響等を考慮して、デザインしています」と江藤さん。公園内、ショッピングセンター、サービスエリア、ビジネスエリア、駅…様々な立地にあるスターバックス。
「1店舗、1店舗その場所の使われ方に合わせた設計をすることが日々やっていることです。建築や内装デザインの仕事を通して、MISSIONを実行することが私たちの仕事と考えていて、その形としてでき上がるのが地域に溶け込んだスターバックスの店舗です」
デザインはお店のコンセプトから
“地域に溶け込んだ店舗をつくる”ために、どのようにお店はできていくのでしょう。
東急歌舞伎町タワー店を例にご紹介します。2021年4月にプロジェクトがスタート。まずは、店舗デザインを担当した川田さんのお話から。 「このお店は、国内外からの多くのお客様をお迎えし、数十名ものパートナーの皆さんが日々、働いてくださっています。お客様一人ひとりが心地よく過ごせて、パートナーに安心してお仕事していただける環境、どちらをも作っていく。それが、私たちが考える地域に溶け込んだ店舗です」と川田さん。
東急歌舞伎町タワーは、レストランや映画館、ホテルなどが入った複合施設。街づくりとして、目の前にある公共空間・シネシティ広場を中心とした、公共空間と施設が一体となって、街のにぎわいと回遊性を創出していくというプロジェクトでした。
「歌舞伎町という街のコンテクストが詰まっていて、とてもエキサイティングだと思いました。この施設を中心として、街を巻き込んでいく、広がっていくことに共感し、その一部としてスターバックスはどうあるべきかを考えることから始めました」
店舗が入っている1・2階は、施設の正面に当たり、「メインファサードの顔となって、歌舞伎町のイメージを進化させる担い手の一人となりこの街をつくっていく」というイメージを持って進めたと言います。そして、デザインコンセプトを決めるにあたり、歌舞伎町の文化や歴史からひも解いて考えました。
戦後、映画館や劇場、ダンスホールと言った文化を担う街として誕生した歌舞伎町。時代とともに文化の街から歓楽街へとイメージが変遷。「歌舞伎町タワーの役割は、街を健全化し、多様な文化でにぎわう街に生まれ変わること。その想いに共感し、にぎわいのある雰囲気を演出し、生き生きとした劇場のようなサードプレイスを作ること、そして、つながりの瞬間を作ることを目指したいと思っています」
そのうえで、4つのキーワードをもとにコンセプトを考えています。
- シアトリカル: お店がステージの背景のようになり、ある時はお店がステージのようにもなる、町における劇場性。
- ライブリー: オープンキッチンの躍動的なシーンの中でステージにいるような活気のある雰囲気。
- エクスペリエンシャル: 劇場のように躍動感があり、お客様がパッションを感じ、活力をもらえるような体験。
- コーヒー&コミュニティ: コーヒーを中心に多様な文化を持つ人が集まり、つながりの瞬間が生まれるコミュニティ。
これらをもとに決められたデザインコンセプトは、『COFFEE THEATER』。お店自体がステージにもなる、光り輝く空間や流動的な動線が特徴的な店舗になりました。
居心地の良さを支えるスターバックス独自の家具やシステム
スターバックスのお店にある家具は、オリジナルで作られています。それら家具のデザインを担当しているのは、橋本さんです。オシャレな家具、名作といわれる家具は世界中にたくさんありますが、スターバックスではなぜ独自で家具を作るのでしょう。
「コーヒーやフラペチーノ®を片手に安心して豊かな時間を過ごしていただけるために存在しているのがスターバックスの家具です。店舗を利用いただく、お客様にとって、最も機能する美しい家具を作りたい」と橋本さん。
東急歌舞伎町タワー店の椅子も同様の想いで作られました。2階席には、たくさんのお客様の来店を想定し、壁に沿うようにベンチがつながっています。
「椅子をひとつながりのベンチにすることで、混雑時は詰めて、混んでいない時はゆとりをもって、お客様に自由度の高い体験をしてもらいたいと思いデザインしました」
こうした家具や、内装に使われるマテリアルなどを、チームが使いやすくなるように環境を整えているのは、塚本さんです。
マテリアルや家具などを閲覧できる社内用のWEBサイトのコンテンツ作成や運用、ハードウエアやソフトウエア、クラウドストレージの管理などを担当。これらを使って川田さんたちデザイナーが店舗をデザインするので、チームにとっては縁の下の力持ちであり、なくてはならない仕事です。
「デザイナーの皆に便利に使ってもらえることを考えながら環境を整備しています。竣工写真を撮影したり、広報部と連携して情報発信したりもしています。大学で建築学を学んだ後、住宅メーカーや設計事務所を経て、現職に就いています。そうした経験があったからこそ、今の仕事に活かせている事がたくさんあります。学生の皆さんには、デザインチームにこうした仕事があることも知っておいていただけたらうれしいです」と、語り掛けました。
今回登壇した江藤さんは大学では哲学科で美学美術史を専攻。海外で経験を積んだ川田さん、商業施設の内装デザインの仕事をしていた橋本さん…と、ストアデザイン・コンセプト部には様々なキャリアを経た人たちが集結。皆で協力し、細部にこだわった店舗づくりをし、ブランドを体現しています。全国に1986あるお店それぞれに秘められた想いやこだわりを感じていただけたらうれしいです。