[what is…?] 子ども・若者の今:彼らの問題と向き合える居場所づくり


私たちは家庭や学校、会社や地域コミュニティの中で、多様な人とつながりを持ちながら暮らしています。しかし、もしこの「つながり」から外れてしまったら、どうなるでしょうか。人は孤立状態に陥ってしまうと、困った時に声をあげることもできなくなってしまいます。そういった状況に今まさに苦しんでいるのが、日本の子ども・若者たちです。

そのような社会問題を背景に、2023年4月に「こども家庭庁」が発足することになりました。スターバックスでは、経済的困難を抱えた子ども・若者たちの教育支援を行ったり、全国のこども食堂にホリデーギフトをお届けしたりと、お客様と一緒に子ども・若者への機会提供や居場所づくりに取り組んでいます。しかし、社会の中で声をあげにくい子ども・若者たちの現状は見えづらく、まだまだ課題がたくさんあります。今彼らはいったいどのような問題を抱えていて、私たちに何ができるのか、改めて考えていきたいと思います。

そこで今回は、1990年代からホームレス支援や貧困問題に携わり、現在は『認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ』で、子ども・若者支援を続けている湯浅誠さんに、子ども・若者を取り巻く現在の状況を伺いました。

-近年、子どもの問題が注目されていますが、昔に比べて今の日本の子ども・若者は具体的にどのような状況に置かれているのでしょうか?

「今の子どもたちは我慢をしていると思います。ただ、子どもたちは『我慢をしている自覚』すらないかもしれませんね。親の世代からすでに、それがあたり前になっていますから。今は、非常にリスク意識が敏感になった社会です。例えば、私が小さい頃は住宅街の中にある空き地でよく遊んでいましたが、今は子どもが集まれるような空き地はほとんど存在していないですよね。今の時代は空き地で何かあった時に誰が責任を取るのかという話になります。友達の家に行ったら昔はご飯食べていってと言われたけど、今はアレルギーが心配などの理由で誘わなくなっています。そういう社会の中で、家庭の外のつながりや子どもが子どもらしく過ごせる空間が減っています」

-そのような問題の解決策のひとつとして、「こども食堂」が生まれたと思いますが、具体的にはどのような場所なのでしょうか?

「こども食堂は、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂です。もちろん、ご家族で来ていただいても大丈夫です。『地域食堂』『みんな食堂』という名称の所もあります。全国で増加していまして、現在は7,363     箇所(むすびえ、地域ネットワーク団体調べ。2023年2月発表)。1年で1,000箇所以上のペースで増えています。全国の中学校の数は約1万校ですから、数年後には中学校よりこども食堂の方が多い社会になるかもしれませんね。

こども食堂は民間発の自主的・自発的な取組みで、月1回開催のところから365日3食を提供しているところまで、数人を対象としているところから、毎回数百人が集まるところまで、実に多様です。目的も子どもへの食事提供から、孤食解消、食育、地域交流の場づくりと、様々。しかし、いまだにこども食堂は貧しい家庭の人が行く場所という誤解もあります。基本的には、『どなたでもどうぞ』という場所なんです。

このこども食堂は、『つながりの場所』とも言えます。いま、社会全体からつながりを感じられる場所が減っています。こども食堂という居場所で、社会のつながりを取り戻したいのです」

-湯浅さんの考える『つながり』や『居場所』とは、具体的にはどのような場所ですか?

「誰かに見てもらえていると感じられる場所です。家や建物はただの箱ですから、ここを居場所にするのは、人との関係性ですよね。同じ空間にいる人から『見てもらえている』と感じられたら、そこは居場所になるでしょう。皆さんの家庭や学校、会社に置き換えてみてください。周りから反応や評価があれば頑張れますよね。だけど、誰もあなたを見ていなくて、周囲からなんの反応もなければ、手を抜いたり、やけになったりするかもしれない。地域や社会も『誰かが見てくれている』場所であれば、そこは居場所になります。私は不登校や非行問題の根源は『見てもらえていない』ことではないかと考えています。

家庭や学校が居場所になっていれば、こども食堂のような場所は必要ないかというと、そうではない。人は居場所の数が多いほど自己肯定感が高くなるという研究結果があります。だから、居場所はたくさんあったほうがいいんです。すでに居場所がある人にはスターバックスは不要とは誰も言いませんよね(笑)。家庭が居場所になっている人でも外にホッとできる場所があればもっといいはずです」

-誰かが自分を見てくれていることで、子どもたちにどのような変化が起きるのでしょうか?

「こども食堂の場合だと、『おうちで食べないものを食べてくれる』、『家では勉強しないけど勉強をする』という話を聞きますね。人が見守っていると、普段は出ない力が出ることがあるんです。また、『タッチポイント(異なる人や環境と接点を持つことによって生まれる出会いや機会)』が増えます。これもとても重要なことだと思います。例えば、親との関係しか知らずに大人になったら、社会に出て苦労しますよね。多様な人と関わって、間合いを計りながら生きる経験のできる場所が身近にあるのは大事だと思います」

©Natsuki Yasuda / Dialogue for People (チャンス・フォー・チルドレン提供)

-近年、日本では「子どもの貧困」という言葉もよく耳にするようになりました。湯浅さんは子どもの貧困をどのように捉えているのでしょうか?

「日本の『子どもの貧困率(中間的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の割合)は、13.5%で、約270万人です(2019年国民生活基礎調査)。貧困というと、ストリートチルドレンや飢餓に苦しむような極度な貧困を想像しがちですよね。だから、270万人もの子どもたちが日本で貧困状態であるいうイメージは持ちにくいと思いますが、日本の貧困のほとんどは極度の貧困ではなく、生活は苦しいけれど暮らしていける『黄信号』の状態なんです。

こども食堂が『食べられない子や貧困の人たちが行くところ』と認知されてしまったら、黄色信号の人たちは行かなくなります。『もっと大変な人が世の中にはいる』と思うからです。こども食堂は『どなたでもどうぞ』というスタンスで黄信号の人もアクセスできる場所を作っているんです。子どもたちが大人たちと一緒に過ごす中で、例えば笑った瞬間に『あれ?歯がないね』とか、帰宅時間にぐずり出すと『家に帰りたくない事情でもあるのかな?』と大人が気づくことができます」

-「子ども支援」という言葉からは未就学児や小学生を連想しがちですが、中高生たちの居場所はあるのでしょうか?

「そうですね。特に中高生は難しい年頃ですから、居場所やつながりは大切です。もちろん、中高生がこども食堂に来てもらうのは大歓迎です。ですが、こども食堂だけでなく、中高生たちが参加しやすいタイプの居場所が必要ですよね。例えばスポーツや音楽などの文化芸術を絡めて参加しやすい環境を作る必要があると思います。海外ですと、若者を対象とした社会教育や支援をするユースワークやユースセンターの活動が活発なのですが、このあたりが日本では脆弱です。すべての中高生に対しての場所を復活させていかなければと思います」

©Natsuki Yasuda / Dialogue for People (チャンス・フォー・チルドレン提供)

個人でも組織でもできることはたくさんあります。例えば個人の場合、こういう記事を読んでシェアしてくれることもアクションのひとつです。シェアをする、人に伝える、調べる、寄付するなど、色んなことができると思います。もちろんこども食堂にボランティアに行ってみていただいても結構です。

いま、社会が大きく変わろうとしています。自治体の首長が、『誰もが自分らしくいられる場所は必要だ』と考えて、こども食堂のような場所を全小学校区に作ると宣言する人が増えてきているんですね。他にも、本屋の中に交流コーナーができたり、団地に多世代交流集会所ができたりと、色んなところで人とつながるための場所が生まれています。この動きが社会全体に広まってきて、多くの企業も顧客だけでなく、地域全体を見据えて社会問題にも一緒に取り組んでいこうという世の中になってきています。例えばスターバックスが年に一度でもいいから『こども食堂の日』みたいなものをやると、社会に対してのインパクトは大きいでしょうから、一緒に広めて行ってもらいたいですね」

湯浅誠 ゆあさ・まこと
1969年東京都生まれ。社会活動家。東京大学特任教授。東京大学法学部を卒業。社会活動家としてホームレス支援に取り組み、2009年から3年間内閣府参与を務めた。2014〜2019年まで法政大学教授。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ     理事長。近著に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)がある。
https://musubie.org/
https://news.yahoo.co.jp/byline/yuasamakoto/

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スマトラ島で感じた、一杯のコーヒーの背景にあるもの。